第32話 スライム達の力の結晶

 「【スライムドーム】!」


 アケアは結集させた約1000匹のスライムに指示を出す。

 

 全方位からハーティを囲うように。

 強すぎる自分の攻撃・・・・・・・・・が周りに被害を与えないように。


『うおー!』

『いけいけー!』

『囲め囲めー!』


 すると、スライム達はにょーんと体を伸ばし、両隣とおててをつないでいく。

 徐々に角度をつけ、ハーティを囲む球体になるように。

 だが、ハーティも黙って見ているわけではない。


「なんなのよこれは! ──【冥界球ハデス・ボール】!」

『『『効かないもんねー!』』』

「……!?」


 しかし、ハーティの魔法はスライム達に広がるようにさんした。

 衝撃を横へ横へ受け流すことで、全員で威力を軽減したのだ。

 強力な【覚醒・魔女】の魔法も、1000匹で受け流せば、1匹の負担は1000分の1となる。


 そうして、戸惑っている隙に【スライムドーム】は完成した。


『『『ででーん!』』』

「……!」


 その光景には、ハーティですら息を呑む。

 上下左右、360度、視界の全てにスライムがいるのだ。

 それぞれが魔法を操るとなると、脅威どころの騒ぎではない。


 そして、もちろん前方にはそれをつかさどるアケアだ。


「もう逃げられないよ」

「ええ、そのようね……!」


 ハーティに焦りの表情が見られる。

 アケアとハーティの形成は、一気に逆転した──。





 アケアとハーティが戦っている頃。

 市街地付近にて。


「クォォォォォォォン!」

「ギャウウウウウウウ!」


 巨大化して真の姿を見せた、シロロンとドラン。

 二匹が相対あいたいするのは、しくも先祖同士が争い合っていた古代の魔物“ビーストデーモン”だ。


「グルオオオオオオオ!」


 そんな中、もう一人変化があった者がいた。

 シロロンとドランの陰に立つフィルである。


「こ、これは……!」


 シロロンはフィルがテイムしている魔物だ。

 ならば、真の力を発揮したシロロンの能力はフィルにも還元される。


ーーーーー

フィル

MP :10000/10000

ギフト:中級テイマー(1)

スキル:【テイム】【中距離テイム】【従魔強化】【従魔解除リリース】

魔法 :風魔法(←New!) 強化魔法(←New!) 古代魔法(←New!) 

ーーーーー


「これがフェンリル! これがシロロンの力……!」


 元々260が上限だったMPは、爆上がりして10000に。

 他にも三種の魔法を覚えている。

 中でも古代魔法は、古代の血を受け継ぐ者にしか扱えない失われた魔法である。


「これなら……!」


 なぜ子犬の状態で還元されないかは調べる必要がある。

 だが、とにかく言えることは一つ。

 今のフィル達は──強い。


「いこう! シロロン! ドラン!」

「クォォォン!」

「ギャオオオ!」


 ビーストデーモンに対し、三人はそれぞれ分かれて向かっていく。

 先頭を切ったのは、神速のシロロンだ。


「クォォン!」

「グルオ!?」


 シロロンは自らが風になったような速さで飛び回り、竜巻を起こす。

 すると、ビーストデーモンをおおう黒いオーラは吹き飛んでいく。

 あとは、超火力をぶっ放すのみ。

 

「はあああ!」

「ギャオオ!」


 力を溜めていたドランは、全力の火を吹く。

 そこにフィルの古代魔法で援護を加えた。


「【爆竜息吹ファイアブレス・バースト】……!」


 古代魔法は謎多き魔法だ。

 だが今回は、古代の全盛期のドラゴンを思わせるような超火力を引き出した。

 その威力には、ビーストデーモンも耐えることができない。


「グルオ、オオオ……」


 最後にフラフラと抵抗するも、力が絶え前方に倒れる。

 無我夢中だったフィルだが、そこでようやく実感が湧いた。


「勝った……勝ったんだ!」

「クォン!」

「ギャオ!」


 すると、周りの冒険者たちはわっと集まってくる。


「「「うおおおおおおおおおお!」」」


 半ば諦めかけていた場面だったのだ。

 そこをフィルが救ったのとなれば、褒め称えるしかない。


「すごいぞフィルちゃん!」

「よくやってくれた!」

「ありがとう、本当にありがとう!」


 対して、フィルは照れながらもまず二匹を褒めた。


「いえ、私なんて。本当にすごいのはこの子たちです。ねっ?」

「クォン!」

「ギャウ!」

「あ、あれ!?」


 だが、勇ましかった姿はみるみるうちに小さくなっていく。

 

「くぉ~ん」

「ぎゃう~」

「あら可愛い」


 すると、いつもの足元サイズに戻った。

 それでも、二匹が街を救ったのは事実だ。


「ありがとうね」


 ならば、後は信じるのみ。

 フィルはふとフォーロス屋敷の方を振り返った。


「お願い。アケア君」





「んもう、なんなのよこれえ!」


 ハーティが絶え間なく動きながら、声を上げる。

 アケアの相手をする間にも、全方位から魔法が降り注いでくるからだ。


 だが、スライム達はすでに遊び始めている。

 初めて森から出たスライムもいるため、はしゃいでいるのだろう。


『先に当てた方が勝ちねー』

『いいよー』

『ねばねばネット!』

『ぬるぬる石鹸せっけん砲!』

『ぬめぬめトラップ!』

『服溶かし爆弾!』


 しかし、ハーティはたまったもんじゃない。


「アンタどんな教育してるのよ!?」

「僕は覚えがないけど……」

 

 冗談っぽくあしらってはいるが、ハーティは本気で焦っていた。

 

(こんなのどうしたら……!)


 すでに逃げ場はない。

 その上、視界全てをおおうスライムからは魔法が放たれる。

 まさかここまでスライムが多いとは思っていなかったのだ。


 そして何より、ハーティはアケアに戦慄せんりつした。


(1000匹全てに強化をかけているの!?)

 

 見渡す限り、スライムは全匹強化されていたのだ。

 それにかかるMPを想像したでも恐ろしい。

 これは【覚醒・魔女】を持つハーティですら信じられない量だった。


 対して、アケアはまだ余裕を保っている。


「意外と抑えられたな」


ーーーーー

アケア

MP :12300/30000

ギフト:スライムテイム(1420)

スキル:スライム便利系 スライム強化系 スライム戦闘系

魔法 :火魔法 水魔法 風魔法 土魔法 雷魔法 氷魔法 光魔法 闇魔法 基本魔法 特殊魔法 治癒魔法 強化魔法

ーーーーー


 アケアはエスガルド、魔族騒動、日々の依頼を経て、さらなる成長を遂げていた。

 その上、たまに森の家に帰ると、勝手にスライムが増えているのだ。

 それらをテイムし、日々経験値を得て、諸々もろもろが上昇している。


 今のアケアに死角はない。


「じゃあこれで終わりだ」

「……ッ!!」


 スライムドームは、逃がさないための監獄かんごく

 であると同時に、強すぎる自分の攻撃が、周りに被害を与えないようにするための空間だ。


「みんな、力を」

『『『うんー!』』』


 アケアが両手を左右に広げる。

 すると、スライム達の力が集まってくる。

 グラヴィル戦で見せた【満天の星空スカイ・フル・スター】のような現象だ。


 しかし、今回のスライムの数はおよそ三倍。


「や、やめなさい! なんでもするから!」

「いいや、ダメだ」


 ハーティはスライム達のトラップで身動きが取れない。

 だが、この危険な魔族を放っておくわけにもいかない。

 アケアは甘い誘惑にも惑わされず、スライム達から力を集め続けた。


「これ以上苦しむ人は出さない」

「……!」


 約1000匹のスライムの力を身に宿し、アケアの体はまばゆく輝く。

 すると、何十種の色で構成させる力の結晶は、段々とぼうちょうしていく。

 ハーティをドーム内で押し潰すほどに。


「あ、ちょっ!」

「くらえ──」


 アケアが体全体を思いっきり伸ばした。

 すると、その膨張はスライムドームを埋め尽くすほどに届く。

 スライム達の魔法で構成された力の結晶だ。


「【スライム大集合スライム・ユニオン・フォース】……!」

「きゃあああああああああああ!」


 あまりにまばゆい強大な力だ。

 これをスライムドームの外で放てば、周辺一帯には何も残らなかっただろう。


「僕の勝ちだ」


 その神々しい光に存在ごとかき消されるよう、ハーティの身は焦がれていったのだった──。


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