第15話 テイマーアケア

 「さあ、迎え撃とう」

『『『おー!』』』


 各地から危険な魔物が集まってくる中、アケアとスライム達は一致団結した。

 透過させていたスライム達も集め、迎撃態勢だ。


 対して、隣のシルリアもはっとする。


「この状況でも、アケアは……」


 迫ってきているのは、謎の黒いオーラを持った魔物たち。

 DランクがBランク相当になるという恐ろしさだ。

 しかし、アケアを行動を目にして、一瞬でもネガティブになった自分を恥じた。


「ワタシも……」


 だが実は、アケアは単純に危機に思っていないだけ。

 魔境の森でさらなる困難も乗り越えてきたからである。

 それでも、シルリアが元気づけられるには十分だった。


「ワタシも負けてられないな!」

「うん!」

『『『うんー!』』』


 アケアが周囲にスライム達を散らばらせると、シルリアは剣を構える。

 それから、トンっとアケアに背中を合わせた。


「シルリア?」

「そちら側は任せたぞ」

「了解!」


 準備は万端だ。

 そして一瞬のせいじゃくの後、魔物たちは出現した。


「「「グオオオオオオオオ!」」」

 

 先ほどのボアウルフだけではない。

 ランクもバラバラの多種多様な魔物たちだ。

 スライム達の報告通り、やはり黒いオーラを帯びている。


 それでも、シルリアはかんに向かった。

 

「はあああッ!」

「「「グギャアアアアア!」」」


 煌々こうこうとした光を放つ剣を手に、高速の剣技を振るう。

 どれだけ相手が強くても、攻撃に当たらなければ良い。

 そんな無茶苦茶な戦闘スタイルだ。

 

「こんなところで負けられるか!」


 シルリアは近い魔物から順に斬っていく。

 本気になった彼女は、一体また一体と、十体ほどの魔物を倒した。

 オーラを持ったBランク魔物もいると考えれば、大金星だろう。


「……ハァ、ハァッ」

「ギャオッ!」

「なにっ!?」


 だが、魔物の数が多すぎる。

 シルリアは一瞬の隙を狩られそうになってしまう。

 そこには後方から魔法の支援が入った。


「シルリア、大丈夫!?」

「ああ助かった! そっちは……なっ!?」


 しかし、アケアの方を振り返ると、シルリアは言葉を失った。


「三連【業火球】、範囲拡大【稲妻球】。そこは 【スライム合体】と【スライム物理耐性強化】を。こいつには【闇魔球】か……」


 アケアはスライム達を強化し、細かく指示を出している。

 さらに、自身も様々な属性を灯して、最前線で魔物を殲滅せんめつしていく。


「なんなんだ、これは……」


 まるでテイマーとは思えない。

 それどころか、最上位魔法系ギフトでもあり得ない動きだ。

 また、アケアサイドを見て気づくことがある。


(まさか、ほとんどを自分の方に向かわせたのか!?)


 アケア側とシルリア側では、魔物の数が違い過ぎる。

 もはや誘導したとしか考えられないほどに。

 その上で、シルリアのカバーもしていた。


(これが……)


 シルリアは一瞬、ブルっと身を震わせる。

 向かってきている魔物たちは、間違いなく化け物だ。

 しかし、それらなど話にならないほど頂点に君臨する者がそばにいた。


(これがアケアなのか……!)


「シルリア、もう少しだよ」

「あ、ああ!」


 こうして、アケア達は魔物の大群と戦った。





「はあ、なんとかなったあ」

『『『なったあー!』』』


 最後の一匹を倒し、アケアが額の汗をぬぐう。

 スライム達も真似をして、小さな手で上部をこすった。

 主と同じことをしたいスライム達はとてもかわいい。


 すると、シルリアが声をかける。


「ありがとうアケア。キミいなければ……」

「ううん、仲間だからね!」

「……! そ、そうか」


 アケアからすれば当然のことだ。

 だが、シルリアは少し照れるように顔を赤らめた。


「それよりも何をってるの?」

「あ、ああ、これは傷薬をまぶしたものだ。塗っておけば数日の間にケガが治る。ワタシのような近接スタイルには必須だな」

「え、ダメだよ!」


 すると、アケアはシルリアに駆け寄る。


「それじゃ跡になっちゃうよ!」

「あ、ちょっ──」

「はい、【上級治癒ハイ・ヒーリング】」

「……!?」


 急に近寄られてびっくりする中、アケアが灯した光で傷は一瞬で治癒する。


「回復魔法までできるのか!?」

「うん。そんなことより・・・・・・・、シルリアに傷を負わせたら周りに何を言われるか分からないよ」

「そんなことよりではないのだが……ありがとう」


 シルリアは、改めて“テイマーアケア”を実感する。

 同時に、心にドクンとするものを感じた。


(なんだ、この締め付けられる感じは……)


 だが、アケアはまだ尋ねたいことがあったようだ。


「あと、ここから北東方向に何かない? 巨大な魔物が住んでいるとか」

「北東……あ、あるぞ!」


 対して、シルリアは驚いたように口にした。


「北東には“いにしえのドラゴン”が棲んでいる。普段は立ち入り禁止だが……それがどうかしたのか?」


 いにしえのドラゴンは、古くからエスガルド森林に生息するボスだ。

 だが巣から出る事はなく、冒険者にも危険なことから、“聖域”として立ち入り禁止のエリアとなっていた。


 すると、アケアは首を傾げながら話す。


「黒いオーラの出所は、北東のような気がする」

「なんだと! では、古のドラゴンのわざだと?」

「分からない。でも、何かある気がしてならないんだ」

「アケア……」


 ほがらかなアケアの表情が少し曇る。

 すでにアケアを全面的に信頼しているシルリアは、迷わず口にした。


「ならば行こう。怒られた時はワタシが責任を取る」

「シルリア……ありがとう!」


 そうして、二人は古のドラゴンが棲むという“聖域”へ向かった。





「あの先が“聖域”だ」


 森の最奥付近にたどり着き、シルリアが前方を指差す。

 そこには、大きな神殿のような柱が複数立っていた。

 近くには『立ち入り禁止』の看板と、結界も張られている。


 だが、アケアは目を見開いた。


「この結界、一部が破られてる!」

「なんだって!?」

「すぐに行くべきだ!」

「わかった!」


 周囲を探索させていたスライムから、報告を受け取ったのだ。

 二人は迷わず破られた結界まで移動する。


『こっちだよー! ほらー!』

「本当だ……」


 スライムの案内に従うと、結界が強引に・・・破られた跡がある。


「魔法で突破されているみたいだよ」

「そんなことができる者がいるのか……?」

「でも、確かめに行かなきゃ!」

「ああ、ここまでくればな!」


 二人はすぐさま“聖域”へ飛び込む。

 そのまま歩くこと少し、物陰でアケアは足を止めた。

 

「シルリア、ストップ!」

「ギャオオオオオオオオオオオ……!」


 隣のシルリアを手で止めた瞬間、大地を揺るがすような轟音ごうおんひびき渡る。

 物陰から覗くと、そこには巨大なドラゴンが見えた。


「ギャオオオオオオ!」


 全体的に体は黒く、周囲にも黒の気高いオーラをまとっている。

 強化された魔物と同じようものだ。


 また、細長くも筋骨隆々な手足で、姿勢は四つん這いだ。

 首と尻尾は長く、体長は計り知れない。


 言わずもがな、“古のドラゴン”だろう。


「あれが本物の……!」

「でも様子が変だよ?」

「なに?」


 エスガルドの絵本にも出てくる伝説の存在。

 シルリアは思わず興奮するが、アケアはいぶかしげな表情を浮かべる。

 すると、アケアの言う通りにドラゴンはふらっと姿勢を崩す。


「ギャオォ……」

「「え?」」


 そしてそのまま、古のドラゴンはずしーんと横に倒れた。


「ドラゴンさん!?」

「あ、アケア!」


 明らかに弱った様子の古のドラゴンに、アケアはその場を飛び出す。


「ドラゴンさん大丈夫!? 何があったの!」

「ギャオォ……」

「しっかりするんだ! 【上級治癒ハイ・ヒーリング】!」

「ギャゥ……」 


 アケアが回復魔法をほどこすも、よくなる様子はない。

 すると、物陰からもう一匹の魔物が飛び出てくる。


「ぎゃう……」

「え!」


 出てきた魔物は、小さな古のドラゴンのようだった。

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