第16話 古のドラゴンさん

<アケア視点>


「ギャオォ……」


 聖域に着くと、森林のボス“古のドラゴン”を見つける。

 でも、僕たちの前で力尽きたように倒れた。


「大丈夫!? しっかりして!」

「ギャオ……」


 回復魔法を施しても改善する様子はない。

 すると、向こうの物陰から一匹の魔物が出てきた。


「ぎゃう……」

「え!」


 その魔物は、小さな古のドラゴンみたいだ。

 小さなドラゴンは、古のドラゴンに顔をすりすりさせる。


「ぎゃうぅ……」

「ギャオ……」


 でも、どちらも悲しそうな顔をしている。

 ここはとにかく状況を知らなければ。

 はっとした僕は、すぐさま念話をつないだ。


「長老スライムさん! ドラゴンさんの通訳をお願い!」

『ふむ、良かろう』


 長老スライムさんは魔物と会話できる。

 僕はみんなをつなげるスキルを発動させた。


「【スライム念話の輪おしゃべり】!」


 これで遠方の長老スライムさんと、ドラゴン二匹が会話をできる。

 そこで少し話した後、長老スライムさんが教えてくれた。


『まずこの子は、古のドラゴンの子のようじゃ』

「やっぱりそうなんだ」

『そして親は、何日か前にしゅうげきされたと言っておる』

「え!?」


 すると、衝撃の内容が出てきた。


『相手の正体は分からぬが、黒い体に、牙や翼が特徴的だったと』

「それってもしかして……魔族?」

『わしもその可能性が高いと思っておる』


 まさかここでも魔族が関わってくるとは。

 エリン様の件に続いて、最近よく聞くな。


『親は五人の魔族と戦ったようじゃ。その子を守るためにな』

「魔族五人を一匹で……」

『なんとか子を隠し切ることに成功した。じゃが、生命を代償にパワーアップをし続けたことで寿命・・が来てしまったようじゃ」

「だから回復魔法が効かなかったのか……」


 回復魔法は、あくまで体を元通りにする魔法。

 寿命には逆らうことができない。


『それから、お主らにすまなかったとも言っておる』

「え?」

『親は戦闘で弱っていた。だから心血を注いで魔物を強化させたようじゃ。子に誰も近づかせないためにな』

「そんな……」


 今は立ち入り禁止でも、古のドラゴンが弱っていると知ると報酬目当てに侵入する者が出るかもしれない。

 また、さらなる魔族の襲撃にも備えたんだろう。


 古のドラゴンは、子を守るために精一杯だったんだ。

 それを責めようとは思わない。

 

『そして、お願いがあると』

「お願い?」

『ここまで辿り着いた強き者に、子を託したいと。最後のお願いだそうじゃ』

「さ、最後って……!」


 僕は古のドラゴンに駆け寄る。


「まだ死んじゃダメだよ! この子が悲しむよ!」

「ギャウ」

『アケア、残念じゃが寿命じゃ』

「でも……!」


 正直分かっている。

 寿命だけは魔法でもどうにもならないと。

 でも、せっかく愛してくれた親がいるのにあんまりじゃないか。


 そんな時、後方から雄叫びが聞こえてくる。


「グオオオオオオオオ!」

「「……!」」


 巨大なトカゲのような魔物だ。

 古のドラゴンと同等の体格を持ち、姿形も似ている。

 その姿には、隣のシルリアが声を上げた。


「あれは『ドラヴォ』か! 五十年に一度、聖域を賭けて古のドラゴンと決戦をすると言われる魔物だ!」

「そんな、このタイミングで!」


 魔物の世界は“弱肉強食”。

 状態に関係なく、その時に勝った者が上に立つ。

 でも、僕とシルリアは見過ごせなかった。


「今はやめるんだ!」

「ワタシたちが代わりに相手になるぞ!」


 だけど、後ろでずしんと地面が鳴る。


「ギャオオオオオオオ!」

「ドラゴンさん!?」

「いま無理をしてはダメだ!」


 古のドラゴンが立ち上がったんだ。

 僕たちは止めようとするも、長老スライムさんの念話が入る。


『戦わせてやってくれ』

「どうして!」

『親が言っておる。最後は勝ち方というものを子に見せてやりたいと』

「……!」


 すると、古のドラゴンは子に目を向けた。


「ギャウ」

「ぎゃう……」


 よく見ていろ。

 そう言ったように思えた。


 そして、五十年の一度の決着をつけるため、両雄が激突する。


「ギャオオオオオオオ!」

「グオオオオオオオオ!」


 真正面からの体当たりだ。

 だけど、全開のドラヴォに古のドラゴンは当たり負けしてしまう。


「ギャオっ……!」

「ドラゴンさん!」

「ぎゃうー!」


 それでも、子どもの声を聞いた古のドラゴンは踏ん張った。


「ギャオオオオオオ!」

「グオオッ!?」


 すぐに態勢を持ち直し、そのまま空中戦に持ち込む。


 もう寿命が尽きかけているはずなのに、ドラゴンさんは機敏な動きを見せる。

 空を飛び、体当たりし、遠方からは火を吹く。

 最後の力を振り絞る古のドラゴンに、僕たちは自然と応援していた。


「がんばれ、ドラゴンさん!」

「もう少しだぞ!」

「ぎゃうぅ!」

『『『がんばれー!』』』


 五十年に一度、二匹は聖域を賭けて戦う。

 ライバルのドラヴォも弱いはずがない。

 それでも、最後に見せる親の勇姿はたくましかった。


「ギャオオオオオ!」

「グオオオォォ……」


 力の限りを尽くした古のドラゴンが勝利したんだ。

 フラフラながらも、古のドラゴンはドラヴォが去るのを見届ける。

 その後、すぐに横に倒れてしまった。


「ギャオ……」

「ぎゃう……」


 今度こそ寿命がきてしまったんだ。

 駆け寄った子ドラゴンをうつろな目で見つめ、愛情を注ぐ。

 最後の親子の時間なんだろう。


「ギャオ」

「ぎゃ、ぎゃう!」


 そして、伝えたい事を伝えたのか、僕の方にも目を向けた。


「ギャウ」

「……わかった」


 子を頼む。

 最後のお願いに僕もうなずいた。


 さっきは戸惑ったけど、今の戦いで決意することができた。

 あの立派な姿になるまで子ドラゴンの面倒を見ると。


 そして、古のドラゴンの体が光り始める。


「ギャオ……」

「ぎゃう、ぎゃうー!」


 経験値の時と同じ現象だ。

 でも今回は誰が倒したでもない。

 このエスガルド森林全体に行き渡り、また生命を育むことだろう。


「立派だったよ、ドラゴンさん」

「ギャオ」


 光が完全に消え、子ドラゴンはひとりぼっちになってしまった。


「ぎゃう……」


 まるで昔の自分を見ているみたいだ。

 その時は誰も手を差し伸べてくれなかった。

 だから、この子には僕が手を差し伸べたい。


「子ドラゴンくん」

「ぎゃう……」

「一緒に来る?」

「……」


 子ドラゴンは寂しさを払うように頭を振る。

 それから、涙を浮かばせながらも、子ドラゴンは明るく振る舞った。


「ぎゃう!」

「わかった! おいで!」

「ぎゃうぅー!」


 僕たちに希望を抱くように──。

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