第17話 緊急依頼

 「状況を整理しよう」


 いにしえのドラゴンを見送り、僕たちは腰を下ろした。

 色々と事が起きたので、一度まとめようと思う。

 

「まずはこの子、子どもドラゴンくん」

「ぎゃうっ!」

「この子は僕が面倒を見たいんだ」

「ああ、彼もそれを望んでいるだろう」


 シルリアは同意するようにうなずいてくれた。

 ただ、疑問はあったみたいで。


「“テイム”はできないのか?」

「うん。僕のギフトはスライム限定なんだ」

「そうなのか……聞いたことないギフトだな」


 だけど、それでも良いと思っている。


「一度主従関係を結べば、この子は元に戻れないかもしれない。この子は将来ボスになる存在だし、それは良くないかも」

「ふむ。一理あるな」

「僕の仕事は、あくまで立派になるまで面倒を見ることだけだ」

「ぎゃう?」


 イマイチ話を理解していなさそうな子どもドラゴンくん。

 ならば、ここは僕なりの関係を示しておこうと思う。


「だから僕たちは“友達”だよ」

「ぎゃうー!」

「ははっ、かわいいなあ!」


 “友達”には満足したようで、子どもドラゴンくんは抱き着いてくる。

 もう少し成長したら押しつぶされそうだな。


 でも、呼ぶにはちょっと名前が長いな。


「じゃあ今日から君は、“ドラン”だ!」

「ぎゃらん?」

「ははっ、そうそう!」

「ぎゃらんーっ!」


 ドラゴンと呼ぶには、まだ子どもで心もとない。

 いつか立派なドラゴンになれるよう願いを込めて、ドランだ。


「……か、かわいい」


 ちなみに、シルリアはちらちらとドランを見ていた。

 撫でさせてあげた。

 

 そして、次に気になることだ。


「あとは魔族の存在だね」

「ああ。一度撤退したのなら、次は確実に数を増やしてくるだろう。それより魔族の狙いはなんなんだ?」


 首を傾げるシルリアに、僕は憶測を話す。


「狙いは多分──“王都の乗っ取り”だ」

「なんだと!?」

「確証はないけど、そう考えれば辻褄つじつまが合う」


 僕は、王都に来てからの出来事を話した。


 まず、エリン様を衰弱死させようと執事に紛れていた、魔族のオクト。

 彼の狙いは、エリン様ともう一つ。

 『転移門』の設置だったと判明した。


 転移門とは、魔族が遠方から行き来できる門のこと。

 魔族は、結界やら門やら特有の魔法を複数持つらしい。

 長老スライムさんの知識だ。


 なぜそう言い切れるかというと、実際に目にしたからだ。

 セレティアと王都巡りをして、ギルドに行くまでの数日間。

 ヒルナーデ邸、また王都のいくつかの場所で、僕は転移門を発見していた。


「王都にそんな危険なものが! 今すぐに──」

「あ、もう全部壊したから心配しなくていいよ」

「……わかった。もうツッコまんぞ」


 すんっと元の姿勢に戻ったシルリアは、続けてたずねてくる。


「ならば、エリン公爵夫人を狙ったのもそれが関係していると?」

「うん。セキュリティ上、話せないけど……」


 エリン様は、とある仕掛けをもった指輪をしていた。

 仕掛けとは、エリン様が死んだ時に、ヒルナーデ邸の全ての魔力回路が遮断しゃだんされるというもの。

 そうなれば、おそらく転移門も発動しない。

 

 だからこそ、魔族のオクトは徐々に衰弱させて機を狙っていたんだ。

 衰弱する裏で準備を進め、侵入と死を同時に行うために。

 オクトが「魔族が動き始めた」と言っていたのは、この事だろう。


 つまり、エリン様から続く一連の騒動は、全て繋がっていたんだ。


「そこはアケアを信頼しよう。ならば、魔族はいつ来るのだろうか」

「あの時、エリン様の命はあと二週間だと言っていた。そこから逆算すると……」


 僕はシルリアにはっきりと伝えた。


「魔族の本襲撃はちょうど三日後」

「三日後だと!」

「王都の転移門は全て壊したから、場所はエスガルド森林のどこかだ」

「……!」


 すると、決意した表情でシルリアは立ち上がった。


「すぐにギルドに掛け合おう。アケアの推測を今調査の結果として報告し、冒険者たちに緊急依頼を出す」

「それが良いと思う!」

「そして──」


 シルリアはすっと手を出した。


「アケア、本当にありがとう。キミがいなければ襲撃に気づくこともできなかった」

「うん。でもまだ終わっていないよ」

「アケア、キミという奴は……!」

「もちろん」


 シルリアとしては、ここまでで十分な働きだったのかも。

 だけど、ここまできて終わりとは言わない。


「最後まで手伝うよ」

「……! ありがとう!」

「大げさだよ。僕もエスガルドには感謝しているから」


 ここで出会った人たちは守ってみせたいんだ。 


「では、帰るぞ」

「うん!」

「ぎゃう!」


 こうして、僕たちは本襲撃に備えるべく王都へ帰還するのだった。







<三人称視点>


「号外! 号外ー!」


 その日、王都のギルドから緊急依頼が要請された。


 シルリアとアケアの調査により、魔族の襲撃が迫っていると。

 ギルドは人々へ避難を呼びかけ、冒険者には協力をつのった。

 すると、危険な依頼にもかかわらず、かなりの人数が集まったのだ。


「俺はやるぞ!」

「王都は見捨てねえ!」

「ここが好きだからよお!」


 力のある冒険者たちは、次々に名乗りを上げる。

 報酬が弾むとはいえ、危険をかえりみない姿は立派だ。

 その光景に、アケアは目を見開いていた。


「すごい、みんなが団結してる……」

「ああ、みなこの王都を守りたいのだ」


 そうして、エスガルド森林を覆う本作戦が立てられることになる。




 また、緊急依頼は隣の国にまで届いていた。


 ここはフォーロス侯爵家。

 アケアが養子として迎え入れられていた家である。


「マルムよ」

「んだよ、親父」


 アケアを追い出した父と、その実子マルムだ。

 マルムは“祝福の儀”にて【剣聖】を授かっている。


 気だるそうに答えるマルムに、父は進言した。

 

「隣国エスガルドにて緊急依頼が発令された。お前も参加しろ」

「はあ? なんだそりゃ」

「ここで名を上げれば、多大な恩を売ることができる。結果的に我がフォーロス家のさらなる発展につながるのだ」

「それ、俺に何の得があんだよ」


 言う事を聞かないマルムに、父は仕方なく譲歩する。


「ならば働きの応じて褒美をくれてやる。領地の一部経営はお前に任せよう」

「ほお、なるほど」


 ニヤリとしたマルムはようやく立ち上がった。

 自身の愛剣を右手に。


「ついに俺の出番ってか」


 こうして、アケアとマルムが交わることになる。





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マルムは第1話で出てきた嫌な奴です( ゚Д゚)

フォーロス家でアケアをいじめていた主犯ですね

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