第18話 知っている奴

<アケア視点>


「このエリアはG班に任せる」


 シルリアとの調査から二日後。

 明日来るであろう魔族のしゅうげきに合わせて、ギルドでは作戦の最終会議が行われていた。


「何かあれば、すぐにワタシに伝えるんだ」


 指揮を務めるのは、シルリアだ。

 公認冒険者として名高い彼女は、班に分けた冒険者の守備範囲を決めている。

 王都からの侵入は防いだけど、森のどこから来るかは分からないからだ。


 そうして、紫色の髪をまとめてシルリアは顔を上げた。


「以上だ。最後に何か質問はあるか」

「一つよろしいですか」


 最終確認を終えたシルリアに、一人の手が上がる。


「アケア殿はどこに配置されるので?」

「アケアは遊撃隊だ。一人で行動をしてもらう」

「ひ、一人で!?」


 質問者はちらりと僕を見た。


「確かにすごい実力のようですが、その、大丈夫なんですか?」

「そこはワタシを信頼してほしい。むしろ巻き込まれる者の方が可哀そうだ」

「な、なるほど……」

「あははは……」


 そう、僕は遊撃隊。

 シルリアからは、自由に動いて魔族を倒してほしいと頼まれている。


 務まるかは分からないけど、僕もその方がやりやすい。

 魔境の森では、ずっと僕一人とスライムだったわけだし。


 ちなみに、当のスライム達は現在進行で・・・・・森から送られてきている。


『あーん』

『ほいっ!』


 一匹が大きく開けた口から、スライムがぴょんぴょん飛び出してくる。

 あれは【スライム収納】を応用させた【スライムワープ】。

 スライムに限り、スライム間を移動できるという優れスキルだ。


 また、透過が付与されているので誰も気づいていない。


『こそこそ』

『気配を消すよー』


 僕は王都で作戦を進めつつ、準備を進めていたというわけだ。

 でも、スライム達はイマイチ緊張感がない。


『ねーねー』

『みてみてー』

『『『スライムマウンテン!』』』


(お願いだからおとなしくしててー!)


 そんなこんなで、僕の方は準備が出来ている。

 それから、もう一つ質問の手が上がった。


「シルリアさん、ここの守備が手薄な気がするのですが」

「ここは隣国オーディアより手助けが入るそうだ」


 え、隣国オーディアだって?

 僕の故郷じゃないか。


「なるほど。一体どのような方が?」

「侯爵家の息子だそうだ。なんでも最上位ギフト【剣聖】を授かっていると聞く」

「それは心強い!」

「急な要請のため、隣国でも東端の者しか呼べなかったそうだが、運が良かったな」


 オーディアの東端に、侯爵家……。

 思い当たるのは一つしかない。


 つまり、その剣聖というのは──。


「マルム……?」







<三人称視点>


 その日の夕方。


「おい、この俺が野宿だと?」


 とある地点にて、怒りの目を向ける者がいた。

 フォーロス家の実子マルムだ。


「ふざけんのも大概しろよ! なあ!?」

「す、すみません!」


 マルムがあたっているのは、フォーロス家の領土から派遣された冒険者だ。

 今回はマルムの護衛と協力を兼ねる。


「襲撃は明日だろ? なんで前夜からいなきゃならねんだよ」

「ま、万が一ということもありますし……」

「万が一で俺を汚えとこで寝かすのかよ! ああ!?」

「ぐっ!」


 怒り心頭のマルムは、男をドカっと蹴る。

 それには近くの少女が駆け寄った。


「だ、大丈夫ですか!」

「ああ、ありがとう……」


 だが、マルムの視界に入った少女は、次の標的となる。


「おい、なんだお前は」

「わ、私も同行させていただく冒険者“フィル”です!」


 地毛の茶髪ショートカットに、小柄な体型。

 装備も軽く動きやすさを重視している。

 それでも、キッとマルムに向ける視線は強気だ。


「ほお」


 そんな強気な表情に、マルムは少し目をかける。

 手始めに質問から始めたのだ。


「で、ギフトはなんだよ」

「それは……」

「どうした、早く言え」

「ちゅ、【中級テイマー】です」


 だが、途端マルムはぶっと吹き出した。


「アッハッハッハ! テイマーかよ! とんだ不遇ギフトじゃねえか!」

「……っ!」

「それで冒険者やってんのか!? 逆に尊敬するわ!」

「そ、そんな言い方!」


 ニヤリとしたマルムは、いじわるそうにたずねる。


「なに、お金ないの?」

「……!」


 マルムの言う事は当たっていた。

 母子家庭で育ったフィルだが、半年前に母が倒れてしまったのだ。


 そこで今の仕事に加えて、副業として精一杯冒険者もやっている。

 不遇職テイマーにもかかわらず、自分にできることをしようと。

 今回の作戦に参加したのも、報酬が弾むと聞いたからだ。


 そんな事情も知らずにバカにするマルムに、フィルは返した。

 

「そうですよ! 私にはお金が必要なんです!」

「そうかそうか、だったら稼ぐ方法ならあるぜ?」

「な、なんですか?」

「俺の奴隷になれ。幸い顔と体は良いからな。言う通りにしたら毎日お賃金くれてやるぜ?」

 

 マルムは下種げすな顔で舌なめずりをする。

 ぞっとしたフィルは、とっさに拒否した。


「そ、そんなの……!」

「ま、嫌なら無理は言わねえぜ? 優しいだろ? アッハッハッハ!」

「……っ!」


 マルムの態度に屈辱を受け、フィルは口に出してしまう。


「どうして……」

「あん?」

「どうして、そんなひどいことを言えるのですか……」


 すると、マルムは小ばかにした顔で答える。


「お前みたいな無能を見てると吐き気がすんだよ。テイマーのくせに、何かをしようとすんのがな」

「……」

「分かったら失せろ。そこのどんくせえ男も連れてけ」

「……は、はい」


 そうしてフィルは、マルムに蹴られた男を連れて引いた。





「ったく。どいつもこいつも」


 夕食後、マルムは馬車で横になっていた。

 すると、合流したエスガルドの冒険者が近くで話しているのが聞こえる。


「最近すげえ新人が現れたらしいぜ」

「ああ、あのシルリアさんに勝ったんだろ?」

「俺も見てたけどすごかったぞ」


(なんの話だ?)


 暇だったマルムは、馬車を下りて尋ねた。


「詳しく聞かせろ」

「これはマルム・フォーロス様! 詳しくとは、新人のことでしょうか!」

「ああ、それだ」

「名前はたしか“アケア”と言いまして」

「……は?」


 すると、途端にマルムは顔をしかめる。


「おい、そりゃどういう──」

「ご報告です!」

「あん?」


 だが、続きを聞こうとした中で、見張りが戻ってきた。

 

「マルム様! B地点にて魔族が現れたとのことです!」

「向こうのエリアか」

「はい! マルム様も大至急で備えるように──」

「そんなものいらん」

「え?」


 マルムはニヤリとした。


「全員に伝えろ。今からそこへ向かうとな」

「ですが持ち場を離れることに……」

「あ? 俺の言う事が聞けねえのか」

「か、かしこまりました!」


 しかし、駆けつけたフィルは反対する。


「マルム様! それではこの地点に現れた時にどうされるのですか!」

「知るか。そもそも来るか分からねえんだ。だったら俺は一体でも多く魔族を殺すんだよ。じゃねえと来た意味がねえ」

「そんな……!」


(このお坊ちゃまが……!)


 ギリっと唇とかむフィルに、マルムは上から口にした。


「それとも一人で置き去りにされるか? オーディアに戻った時には、命令違反した愚図だと肩書きを背負うことになるぜ?」

「……従います」

「フン、それでいい」


 こうして、ついに魔族との王都を賭けた戦いが始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る