第23話 祝杯と次の目的地

 「「「かんぱ~い!」」」


 王都のギルドにて、お酒を片手に持った冒険者たちの声が響く。

 

 魔族騒動の翌日。

 傷を癒した冒険者たちは、ギルドで大盛り上がりしていた。

 祝杯の中心にいるのは、もちろんアケアだ。


「「「アケアばんざーい!」」」

「あ、あはは……」


 彗星すいせいの如く王都に現れ、魔族騒動に尽力した少年アケア。

 彼がいなければ、王都は滅んでいたかもしれない。

 冒険者たちもそのことをよく理解している。


「命を救われました!」

「どこでそんな強さを!?」

「本当のギフト教えてくださいよ!」


「ほ、本当にテイマーだよ……」


 冒険者たちはわいわいとアケアに寄り付く。

 すると、後方から紫髪のリーダーが声をかけてきた。


「あれを見てテイマーをバカにする者などいないだろう」

「シルリア……」

「むしろ、キミがテイマーで最初に歴史に名を残すだろうな」

「はは、大げさだよ」


 アケアはそう答えるが、シルリアは確信したように口にした。

 それから、シルリアは周りと視線を合わせてうなずき合う。


「ではアケア。キミを正式に認可する」

「え、なにを?」

「キミは今日から冒険者だ。超飛び級でBランクのな」

「ありがとう──って、えええええ!?」


 魔族騒動で後回しになっていた認可の件だ。

 だが、証を受け取ったアケアは声を上げる。


 Bランク冒険者は、上位5%未満。

 ほんの一握りしか到達できない猛者の領域だ。

 どの国のギルドを見ても、認可でBランクは歴史上初となる。

 

「い、いいのかな」

「もちろんだ。むしろAランクを認められなくて申し訳ない」

「それはさすがに……」


 シルリアなりの冗談かと思ったアケアだが、彼女の顔は本気だった。

 何度もギルドに掛け合ったように見える。


 しかし、通常依頼を一件も受けていないアケアをAランクにするのは、ギルド側の制度で難しかったようだ。


「だが、おめでとう。アケアならAランクもすぐだろう」

「ありがとう……」


 シルリアと同じく周りもうんうんとうなずき、アケアを尊敬している。

 誇張無しに一国の王都を救ったのは、誰もが認める事実なのだ。

 その表情は、アケアにとっても嬉しいものだった。

 

「似合うか分からないけど、頑張るよ!」

「どこまでも謙虚けんきょな奴だな!」

「「「あっはっは!」」」


 そうして、もう一度乾杯をするアケア達だった。





「Bランクの資格をもらっちゃったよ」


 宴はしばらく経ち、アケアは二階の席に座っている。

 すると、正面の少女がふふっと微笑んだ。


「アケア様なら当然です」

「そうかなあ」


 アケアと席を共にしているのは、セレティアだ。

 いつもはハーフアップにしている金髪を下ろしている。

 

 貴族令嬢がギルドに来ることなど滅多にないが、大活躍したアケアを祝いたいと自ら駆けつけたようだ。


「ドレイク様に怒られたりしなかったの?」

「お父様はああ見えて甘々ですから」

「んーたしかに」


 強面こわもてのドレイク・ヒルナーデは、実は穏やかな人である。


「それに、わたしも楽しい時間は好きですので」

「そっか! ……!」


 アケアがちらりと視線を向けると、すでに三杯のジョッキが空いていた。


(意外と飲んでる……余裕そうなのに)


 対して、セレティアもふふんと胸を張る。


「社交の場などもありますので。ある程度は飲めますよ」

「そ、そっか」


 さらにグビっといくセレティアを、アケアはおおと眺める。

 セレティアの意外な一面を知った瞬間だった。

 それから、軽い会話の後にセレティアが口を開く。


「まさか森での出会いからこんなことになるとは、思ってもみませんでした」

「僕もだよ」

「改めて感謝いたします」

「そ、そんなのいいよ!」


 頭を下げるセレティアに、アケアは急いで立ち上がる。

 まだまだ貴族に頭を下げられるのは慣れないみたいだ。

 

「これからは冒険者として活動なさるんですか?」

「うーん、分からないけどそれが一番なのかな」


 最近は目の前のことに必死で、アケアは今後を考えていなかった。

 一度森の家に帰ろうとは思っていたが、それからはまだ決めかねているようだ。


「アケア様が何をされるにしても、ヒルナーデ家を以てサポートいたします」

「本当!」

「はい。むしろ多大な恩を少しずつでもお返しさせてください」

「……!」


 にっこりと笑ったセレティアの表情に、アケアはドキっとしてしまう。

 改めて公爵令嬢と仲良くなれたのは、不思議な縁だと感じているようだ。


「ちょっと夜風を浴びてくるよ」

「はい。いってらっしゃいませ」


 そうして、しばらく話し込んだ後に、アケアは酔い覚ましに外へ出た。





「うーーーーんっと」


 夜風に当たり、アケアはぐっと腕を伸ばす。

 楽しいのは確かだが、褒められ慣れていないために少し疲れたようだ。

 すると、茶髪ショートの少女が声をかけてくる。


「あ、あの!」

「ん?」

「あの時は助けてくれてありがとうございました!」


 両手を前に包んで話しかけてきたのは、フィル。

 マルムの護衛として付き従っていた冒険者だ。

 アケアは作戦終了後に、彼女に渡したスライムを返してもらっている。


「アケア君が駆けつけてくれなかったら、私は今頃……」

「ううん、みんなが頑張ったから間に合ったんだよ。あと敬語はダメらしいからね」

「あ、そうだった」


 それから、フィルは思い切って言葉にした。


「私、テイマーなの!」

「……!」

「不遇職だと思っていたのに、アケア君にはすごく憧れた。スライム達と力を合わせて、みんなで戦う姿に」

「大げさだってば」


 謙遜けんそんをするアケアだが、フィルは首を横に振った。


「アケア君は私たちテイマーの希望だよ!」

「!」

「だからありがとう。私も頑張る!」

「……うん」


 ここに来て初めての感謝のパターンだった。

 アケアも不遇職だと勘当された身だからこそ、なおさら心にくるものがある。

 すると、今度はアケアから提案をした。


「今度一緒に依頼受ける?」

「い、いいの!」

「もちろん。僕もテイマー仲間を見つけられて嬉しいよ」

「やった! ……あ、でも」


 両手を上げて喜んだフィルだが、途端に歯切れが悪くなる。

 すると、後方から一人の男がフィルへ声をかける。


「フィルさん、そろそろ時間です」

「あなたは?」

「これはアケア殿。申し遅れました、私はフォーロス領でギルド長をしておりますグラムと言います」


 フォーロス領の冒険者も今作戦に参加したため、挨拶に来たようだ。

 ならばと、アケアはたずねたいことがある。


「マルム・フォーロス侯爵子息はどうなりましたか」

「……分かりません。ですが、作戦に参加したフォーロス冒険者は、マルム様に“強制招集”をかけられています」

「え?」


 明らかに不穏な言葉だ。

 フィルが口をつぐんだのもこのせいだろう。

 

「詳しい話を聞いても良いですか」


 そうして、アケアはフォーロス領の冒険者たちと話を進めた。

 次なる目的地は決まったかもしれない。




 



「魔族を倒したのが、あのクズだと?」


 暗い部屋の中、マルムはイラついていた。

 魔族騒動で功績を残せなかったことに加え、伝手より今回の顛末てんまつを聞いたのだ。


 その中で、“テイマーのアケア”が大活躍したという話を耳にした。

 死んだとは思っていたが、ギフトも名前も同じ違う人物とは考えにくい。


「あれにそんなことができるはずねえだろ……!」


 沸々ふつふつと湧いてくる怒りを抑えられない。

 すると、暗闇から一人の男が現れる。


「マルム・フォーロス様ですね」

「誰だてめえは!」

「私はとある者の“つなぎ”でございます。この度は一つお話があって訪れました」

「は? 出て行け!」


 怒りをぶつけるマルムだが、次の言葉にはピタリと手を止めた。


「その“テイマーアケア”を超える力を手に入れられるとしたら、いかがでしょう」

「……なんだと? 続きを話せ」

「仰せのままに」


 男はマルムに取り入ることに成功する。

 ニヤリと一瞬覗かせた目は、赤色に輝いていた──。

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