第22話 ぷにぷに全身武装(アーマー)

 「変身!」


 アケアを包むようにスライム達が集合する。

 次に姿を見せた時には──


「ぷにぷに全身武装アーマー!」


 アケアとスライム達は一体化していた。


 今のアケアは、水色の一式装備を着ているみたいだ。

 顔だけは見えているが、全身にスライムをまとっている。

 ぷにぷにソードがスライムの剣ならば、ぷにぷに全身武装アーマーはスライムの全身装備である。


 そんな姿に、グラヴィルは顔をしかめる。


「……ふざけているのか」

「いいや、大真面目!」

「そうか」


 その確認さえ取れれば良い。


「ならば死ね」

「……!」


 グラヴィルが構えた手から、特大の魔力が浮かび上がる。

 バチバチと赤黒い火花がほとばしる魔力は、森全体を滅ぼしかねない威力を持つ。

 それでも、グラヴィルは容赦なく放った。

 

「森ごと消え去るが良い。【極悪魔光線デス・デーモン・レイ】」


 対してアケアは──真っ直ぐ突っ込んだ・・・・・・・・・


「うおお!」

「は?」


 グラヴィルは思わず目を疑う。

 全てを破壊する光線を真っ向から受け、アケアはそのまま突っ切ってくるのだ。

 だが、よく見ればトリックが判明する。


「バ、バカな!」


『むきむき!』

『あーーん!』


 物理耐性に優れる『マッスルスライム』が衝撃を吸収。

 魔力をも食べる『食いしん坊スライム』が魔力を吸収。


 この二匹が盾となることで、アケアは直接光線を浴びていないようだ。

 二匹を信頼しているアケアは、かわす必要すらない。


「とりゃ!」

「チィッ!」


 そのまま剣で迫ったアケアに対し、グラヴィルは間一髪で回避した。


 しかし、アケアのターンは終わっていない。

 背中を覆うスライムが、にゅっと顔を覗かせたのだ。


『はじめまして』

「は?」

『さようなら──【神光球】」

「がはッ……!!」


 光魔法を覚えた『神父スライム』だ。

 魔族には光属性がよく効く。


(こんな神父がいてたまるか……!)


 グラヴィルの考えももっともだが、ここは戦場。

 ズルなどは存在しない。

 

 そうして、宙に留まったアケアは忠告した。


「油断しない方が良いよ」

「てんめえっ……!」


 これが、ぷにぷに全身武装アーマーの力だ。


 まず、アケア自身の強化魔法だけでは【極悪魔光線デス・デーモン・レイ】を防げなかっただろう。

 そのはずが、光線に突っ込むという前代未聞のカウンターを見せた。


 また、防具のはずのスライムは、どこからでも顔を出せる。

 隙があれば、アケアの全身から魔法を放てるのだ。


 つまり、ぷにぷに全身武装アーマーは“攻防一体の構え”。

 スライム達と一体化することで攻撃・防御は大幅に強化され、飛行をも可能にした超戦闘形態だ。


 しかし、グラヴィルは納得できない。


「こんなふざけた見た目で!」

「僕は大真面目なのに!」


 両者は再び激しくぶつかり合う。


「俺をナメるなあああああ!」

「……」


 冒険者から見れば、グラヴィルの力も異次元だ。

 体中から腕を生やし、放つ魔力は大きな破壊力を持つ。

 それでも、アケア達には及ばない。


『魔力ぱくっ!』

『カッチカチだもんね!』

『魔法で中和!』


「んなっ……!?」


 ぷにぷに全身武装アーマーの至る所からスライムが顔を覗かせては、次々に対処されていく。

 そこで頭に血が昇り、攻撃ばかりに集中すれば、今度はアケアが牙を向く。


「甘い!」

「しまっ──ぐはっ!」


 ぷにぷにソードがようやくグラヴィルを捉えた。

 多くの属性が乗った剣はグラヴィルの体を斬り裂き、様々な弱体化を付与する。


 加えて、アケアの背後からはスライム達が顔を出した。


『『『ニヤリ』』』

「……ッ!」

『『『七色の砲撃ーーー!』』』

「ぐああああああああああっ!」


 斬撃と魔法をもろに食らい、グラヴィルは致命傷を負う。

 翼がもがれたことで、徐々に高度も落としていく。


「……ぐっ」


 その中で、グラヴィルは理解してしまった。

 耐えがたくつじょくだが、アケアは自分より上の存在であると。

 ならばと、プランを変更した。


 グラヴィルの目的は勝つことではない。

 あくまで、強者の絶望した顔を見ることだ。


「だったら、全員死ね」

「……!」


 グラヴィルは自らの胸に手を突っ込む。

 すると、魔力が異常な膨張を見せる。

 その行動と言動に、アケアは一早く察知した。


「シルリア! もっと離れて防御体制を!」

「ど、どうしたと言うんだ!」

「グラヴィルが自爆する!」

「……!」


 死なばもろとも。

 勝てないと悟ったグラヴィルは、残りの力を全て消費して自爆を計る。

 最後に特大の絶望の顔を見るために。


「カッハッハッハ! 王都ごと消えてなくなれ!」


 あふれんばかりの魔力だ。

 これが爆発すれば、離れた王都すらも巻き込みかねない。

 だが、アケアは冷静に言葉にした。


「スライム、全員・・出動」

「……!?」


 アケアは、ぷにぷに全身武装アーマーにスライム百匹を費やした。

 グラヴィルのもく論見ろみ通りなら、これで全匹のはずだった。

 だが、アケアのスライムはそんなものではない。


『『『いくぞー!』』』

「……ッ!」


 アケアの号令で、さらにスライム達が姿を見せる。

 その数にグラヴィルは戦慄した。


(この数、一体どこから……!)


 答えを言うなら、最初から・・・・

 すでに連れて来ていたスライム達を、アケアは最後まで取っておいたのだ。

 その数──およそ五百匹。

 

「みんな、一番得意な魔法を」

『『『りょー!』』』


 アケアが指示を出すと、スライム達はぴょーんと跳ねて魔法を放った。

 この現象は後に大きく語られることになる。




 その日、エスガルド森林に満天の星空が広がったという。

 王都では、避難民が森林方向を見ていた。

  

「見ろよあれ!」

「何が起きてるんだ……」

「すごく綺麗……」


 様々な色の星が光り輝き、暗い夜を照らす。

 また、セレティアもヒルナーデ邸から目撃していたようだ。


「あれは、もしかして……」


 この綺麗な星々が全て“スライム”だったことは、森にいた者しか知らないだろう。




「終わりにしよう」


 スライム達は、空から得意な魔法を放った。

 属性や特性、何十種類にもなる多様な色は、綺麗な星空のように見えた。


 その魔法は、全てアケアの拳に集まる。


「ま、まさか!」

「その通りだよ」


 自爆が抑えられないなら、被害が出ないところまでぶっ飛ばすしかない。

 グラヴィルが爆発する寸前、アケアは下から拳を振り上げた。


「空の彼方まで飛んでいけ」

「く、くそがっ……!」


 拳からは、スライム達の魔法の結晶が放たれた。


「──【満天の星空スカイ・フル・スター】」

「ぐわあああああああっ!」

 

 キラキラとした多色の光に導かれ、グラヴィルは上空へと上がっていく。

 やがて姿が見えなくなったところで、爆発音が聞こえてくる。


 すると、アケアの魔法も広がり、夜空は一層明るくなっていた。


「特大の星だね」


 こうして、空のちりになったグラヴィルは、王都の人々に綺麗な一幕を見せてくれたのだった──。

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