第21話 子爵級魔族
「この方こそが──子爵級魔族グラヴィル様だ」
紹介と共に、一人の魔族が姿を見せた。
冒険者たちはその姿に目を見開く。
「なんてオーラだ……」
「明らかに格が違う……」
「魔族の階級なんてあったのか?」
魔族についてはまだまだ知らないことも多い。
グラヴィルの参戦によって、もう一つの事実が浮かび上がったことになる。
“今までの魔族は全て階級
「「「……っ」」」
階級無しの魔族ですら、冒険者側は一人も倒せていない。
それにもかかわらず、男爵・子爵と二階級も上の魔族が出て来てしまった。
冒険者側は途端に顔をひきつる。
一人の少年を除いて。
「あれは僕がやります」
「「「……!」」」
一人、前に出たのはアケアだ。
それにはシルリアが声をかける。
「頼めるのか、アケア」
「うん。元からそのつもりだよ」
アケアの規格外さを誰より知っているシルリア。
彼女でも確認を取らなければならないほど、グラヴィルの放つオーラは異様だ。
それでも、アケアを信じる他ないのもまた事実。
「ありがとう。頼む」
「任せて」
『『『まかせてー!』』』
すると、アケアに対してグラヴィルが口を開く。
「よう。お前が暴れてくれたアケアだろ?」
「そうだ。でも襲ってきたのはそっちからのはずだよ」
「ああ、だから恨みなんかねえよ。ただ、楽しみなだけだ」
「?」
口角を異常に上げたグラヴィルは、見下すように言葉にした。
「強者が絶望する時の顔がなあ!」
「……」
対して、アケアは冷静に返す。
「言いたいことはそれだけ?」
「ああ」
「じゃあ始めよう」
「いいぜ、その目」
軽い挨拶を終えると、両者は戦闘態勢に入った。
グラヴィルが力を入れると、体全体から赤黒い魔力がほとばしる。
魔族特有の魔力の中でも、段違いの
すると、周囲は自然と左右に散らばり始めた。
「お前たちこっちだ!」
「「「シルリアさん!」」」
「おい行くぞ」
「「「ああ」」」
冒険者側・魔族側、どちらも“大将に巻き込まれたくない”のだ。
それほど、今から始まる戦いが凄まじいものになることが予想できた。
そうして、ついに異次元の二人がぶつかり合う。
「じゃあ、いくぜ!」
「……!」
まるで消えたように移動したグラヴィル。
だが、スライム達はしっかりその姿を捉えていた。
『『『うりゃー!』』』
「おお?」
グラヴィルがアケアに迫る中、正確に魔法を放ったのだ。
しかし、ノーダメージのグラヴィルはにやりとするばかり。
「数が多いな。“百匹”といったところか」
「……」
「ま、雑魚には変わりねえがな!」
『『『うわわー!』』』
グラヴィルが指を動かすと、スライム達が潜む木々が爆発していく。
アケアの強化を受けたスライム達は強いが、実は一対一においてはそれほど優れていない。
魔法を口から出すしか攻撃手段がないからだ。
つまり、正面から向き合った時は
ならば、やはりアケアが前に出るしかない。
「自己強化、いつもの」
「ほう」
バーのマスターに頼むノリで、アケアは自己強化を施す。
【物理耐性付与】【魔法耐性付与】
【身体強化付与】【魔力常時供給】
【生命促進付与】【常時回復付与】
それから、例の剣も手にする。
「スライムくん、ぷにぷにソード!」
『ぷよー!』
強化魔法と専用武器、アケアの戦闘態勢だ。
それにはグラヴィルも目を見開く。
「カッハッハ! てめえ、まじで何者だ!」
「ただのテイマーですけど!」
「ああ、そうかよ!」
そのまま、両者は宙でぶつかり合った。
目を見開いたグラヴィルだが、表情はまるで楽しんでいるようだ。
グラヴィルの趣味は、強者を叩き潰すこと。
ならば、相手が強ければ強いほど、絶望させた時の
だが、簡単にやられるアケアではない。
「ハッ、面白い武器だな!」
「そっちもね!」
ぷにぷにソードの特徴は、“変幻自在な形”。
剣の概念に囚われないアケアの自由な発想と、スライムの適応性により、その場に応じた最適解の形を生み出せる。
しかし、グラヴィルの魔族の力も異次元だった。
肩から新たな腕を生やし、四方八方から突然魔力が降り注ぐ。
アケアの剣が無法ならば、グラヴィルの体も無法である。
両者に差があるとすれば──仲間の存在だ。
「
『『『いえっさー!』』』
アケアはぷにぷにソードで応戦しながら、スライム達に声をかける。
だが、具体的な指示は出していない。
森で過ごした日々を信じ、独自の動きに任せたのだ。
すると、スライム達は思い思いに追撃を開始する。
『ぼぼぼー!』
『こおれー!』
『とんでけー!』
『一緒に打つよ!』
『うん、せーの!』
『『『ほいー!』』』
「チィッ! こいつらァ……!」
アケアのスライム達は、一対一には優れていない。
だが、透過し、草木に身を隠し、小さな体から特大の魔法を放つ。
つまり、魔法砲台としてはこれ以上なく強い。
さらに厄介なのは、アケアとのコンビネーションだ。
「隙だらけだよ!」
「ぐっ!」
『『『そうくるよねー!』』』
「ぐわああああああっ!」
寝食を共にし、紡いできた絆はただじゃない。
アケアとスライム達は、お互いの行動が手に取るように分かる。
気がつけば、グラヴィルは多大なダメージを追っていた。
「ハァ、ハァ……」
「「「グラヴィル様!」」」
大きな翼は破れ、傷の修復は間に合っていない。
魔力を防御に回している分、回復に費やせていないのだ。
魔族の生命エネルギーである魔力が尽きれば、動くことはできない。
アケアはぷにぷにソードを向けて命じた。
「観念しろグラヴィル。王都は渡さない」
「ハァ、ハァ……フッ、仲間か」
グラヴィルも
ならばこそ、自分も
「俺もそうしてやるよ!」
「……!?」
グラヴィルが両手を広げた瞬間、周りの魔族が苦しみ始める。
「な、なんだ……!?」
「魔力が吸われる!?」
「グ、グラヴィル様!?」
グラヴィルが魔族の魔力を吸い取っているのだ。
「てめえらに価値はねえ。さっさと魔力を寄こせぇ!」
「「「うわあああああっ!」」」
また、周囲だけではない。
アケアが制圧したB・C・D地点からも魔力が集まってくる。
あらかじめ魔族たちに仕掛けをしていたのかもしれない。
そうして、グラヴィルの姿が変貌する。
「カーハッハッハ!」
ただでさえ禍々しかった魔力は、より濃く。
翼や牙は復活するどころか、恐ろしさを増している。
存在するだけで空間を
「力が、力が溢れてくるぞ……!」
魔族全員分の魔力を吸収し、グラヴィルの魔力は何倍にも膨れ上がった。
この姿には、冒険者たちは顔を青ざめた。
「なんだよあれ……!」
「心臓が苦しい……!」
「もっと距離を取るんだ……!」
その場に立つことすらできず、さらに距離を取る。
彼らと同じく、シルリアやドランも見つめることしかできなった。
「アケア……!」
「ぎゃう……!」
それでもアケアは、恐れずに立っている。
ブオンとぷにぷにソードを振り払うと、彼の周囲だけは綺麗な空間に戻った。
それから、グラヴィルを真っ直ぐ見つめて口を開く。
「仲間は利用するためにいるんじゃない」
「あァ?」
「仲間は力を合わせるためにいるんだ!」
そして、グラヴィルに対抗するように手を上げた。
「スライムくん、集合!」
『『『うおー!』』』
スライム達が一斉にアケアに集まり、姿を変えていく。
ぷにぷにソードに変形する時のようだ。
だが、明らかに数が多いスライム達は、やがてアケアを包み込む。
「変身!」
そして、再び姿を見せた時には──
「ぷにぷに
アケアとスライム達は一体化していた。
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