第20話 不遇職の救世主
「あとは僕に任せて」
魔族の力に絶望し、マルムは護衛を見捨てて逃走。
そこへ駆けつけたのが、アケアとスライム達だ。
すると、【
「今のを受けるか。何者だ」
「僕はアケア。この子たちは僕の仲間だよ」
「スライムを連れた少年アケア……そうか、貴様が!」
その答えに魔族は口角を上げる。
オクトの件もあったため、何らかの情報を得ているのだろう。
そうして、今度は興味を持ったように魔族から攻撃を仕掛ける。
「先程の剣聖と違って少々楽しめそうだな!」
「そんな暇はないんだけど!」
アケアも受ける形で応じ、両者激しい攻防になる。
そんな中、アケアの後方でフィルは目を疑っていた。
(この人、もしかしてテイマーなの?)
アケアが複数のスライムを連れていたからだ。
だが、普通のテイマーにはとても見えない。
「な、なんだこの力は!?」
「遅いよ」
「ぷよっ!」
マルムを絶望させた魔族に対し、アケアは圧倒しているのだ。
テイマーの不遇さは、フィルは身を以て知っている。
しかし、アケアの戦いを見ていると常識が次々に崩れていく。
「す、すごい……」
スライム達と巧みに連携を取り、自らも拳を振るう。
その見事な戦い方で、あっという間に魔族を追い詰めた。
「な、なぜだ! なぜ人間がこれほど!」
「悪いけど、僕も急いでいるんだ」
「ぐわあああああっ!」
そして、とどめの一撃。
ヒルナーデ邸でも見せた【神罰の拳】により、魔族は浄化されていく。
「「「……っ」」」
それには、周りもついポカンとしてしまう。
マルムがあれほど苦労した相手に、ものの数分で勝ったのだから。
だが、一早く正気を取り戻したフィルが、アケアに駆け寄った。
「あ、あの、ありがとうございました!」
「ううん、遅れてごめん。それより、皆さんはオーディアからの助っ人で間違いないですか?」
「はい。私たちは、マルム・フォーロス侯爵子息様の護衛です」
アケアはふむとうなずいた。
「やっぱりか」
「え?」
「いえ、なんでも。ところで、その方はどちらへ?」
「そ、それが……」
口ごもるフィルの代わりに、立ち上がった冒険者が答える。
「あの人は逃げましたよ。俺たちを置いてね」
「え?」
「最後はひどいものでした。回復してくれた
「……っ」
冒険者はひどく失望した顔だ。
対して、アケアを何かを思ったように口をつぐむ。
だが、ここはまだ戦場。
色々と言うのは後だ。
「事情は分かりました。それでは、皆さんは安全な所へ」
「え、でも!」
「
アケアはフィル達を
「それとこの子を」
「ス、スライム?」
「ぷよっ!」
何が何だか分からないが、次のアケアの言葉は安心できた。
「結構強いんですよ。みんなをキャンプまで守ってくれます」
「……!」
「では、僕はこれで」
ふっと背中を見せるアケアだが、心の中で念話を飛ばしていた。
(君達も隠れてついて行ってあげて)
『『『りょー!』』』
フィル達の護衛として、もう十匹のスライムに指示を出した。
これで確実に帰ることができるだろう。
すると、最後にフィルがたずねた。
「あのアケアさんはどちらへ!?」
「僕はまだ行くところがありますので。お気をつけて!」
「あっ!」
そうして、すぐに行ってしまった。
速すぎる移動により、すでに姿は見えない。
「アケアさん……」
その名前を口にすると、フィルはドクンと胸が高鳴る。
自分と同じ年頃で、自分と同じ
なのに、あの強さと優しさを併せ持っている。
フィルにとって、アケアはまさに“不遇職の救世主”だった。
「……っ」
アケアが駆けつけてくれた時の姿を思い出すフィル。
彼の代わりに、手渡されたスライムをぎゅっと抱いた。
「また会えるかな」
「ぷよ?」
一方その頃。
「クソが、クソがあ!」
マルムは息を切らしながら、まだ魔族の方向から逃げていた。
口は悪くとも怯えている様子は、
「なんで俺がこんな目に!」
自分の弱さが一番の原因だろう。
だが、怒りと恐怖で混乱したマルムは、依頼を受けさせた父すら恨む気持ちに陥っていた。
「周りが
「誰かいるのか」
「……!?」
すると、前方から美しき声が聞こえてくる。
そのままスっと姿を見せたのは、総指揮のシルリアだ。
マルムの姿に、シルリアは姿勢を正した。
「これは失礼を。マルム・フォーロス侯爵子息様ですね」
「あ、ああ!」
「お仲間方はどうされたのですか」
「……っ!」
だが、その質問には顔をしかめて答える。
「し、知らねえ! 俺だけが生き残ったんだ!」
「……分かりました」
対して、シルリアはあえて聞き返さず。
先ほどの“囮”発言も聞こえていた距離ではあったが、それには触れなかった。
すると、代わりに一つ尋ねた。
「では、あえて聞く。キミは努力をしたか」
「は?」
「毎朝剣を振り、日中の鍛錬も欠かさず、夕方も己を磨く。キミはそんな日々を送っていたか」
「なにを……」
シルリアがじっとマルムを見つめる。
「仲間を見捨てる者は剣士とは言えない」
「……っ!」
「……失礼しました」
すると、シルリアは目を逸らして口にした。
「後方にはキャンプがございます。マルム様はどうぞそちらへ。我が国へのご協力感謝いたします」
「てめえ!」
「我々は急いでおりますので」
「……!」
それから、最後に合った目はひどく冷たい。
失望を通り越して呆れたような、全てを察したような目だった。
「あの目は……」
今思えば、見たことのある目だ。
領民にあたった時。
メイドにあたった時。
今作戦で冒険者に怒鳴った時。
マルムはようやくその目の意味を知り、頭に血が昇る。
「許さん……許さんぞ!」
★
「もう少し耐えるのだ!」
ここは、エスガルド森林A地点。
現在、最も魔族が出現している場所だ。
「もう少し耐え、なんとか戦況を維持するのだ!」
「「「おお!」」」
地点指揮官を中心に、冒険者たちは奮起する。
しかし、犠牲が出ていないとはいえ、厳しい戦いにはなっていた。
相手にしているのは五人もの魔族だからだ。
「指揮官、前線が崩れます!」
「ぐっ!」
陣形を張り、多数の罠を仕掛け、なんとか戦線を保ってきた。
しかし、ほとんど崩壊寸前だ。
──そんな時に少年は現れる。
「【七色の砲撃】」
『『『うおー!』』』
冒険者たちの後方から、七色の光線が走っていく。
それらは魔族を捉え、宙に綺麗な花火のような爆発が浮かび上がった。
「「「……ッ!」」」
見た事もない魔法だ。
その超常現象に冒険者たちは確信した。
「この力は!」
「来て下さったのか!」
「だが、他の地点は!?」
姿を現した少年は、報告で答える。
「B・C・D地点、全て制圧完了しました」
「「「アケア殿!」」」
B地点、魔族二人。
C地点、魔族四人。
D地点、魔族三人。
アケアはそれらを全て制圧し、ここに降り立つ。
そして、最終決戦には紫髪の
「つまり、ここを乗り切ればワタシ達の勝利だ」
「「「シルリアさん!」」」
後ろからはアケアの友達も駆けつける。
「ぎゃうぎゃう!」
「「「ええ、ドラゴン!?」」」
アケアが連れてきたドランだ。
ドランは将来この森のボスになる存在。
ならば、守りたいと思うのも当然だ。
アケア達の参戦により、冒険者たちはほっと安堵する。
しかし、魔族側は
「残るはここだけか」
「ああ、だが時間稼ぎは終わったな」
「“あの人”はいつも遅刻なさる」
すると、空から次元を破ったように、一人の魔族が姿を見せた。
あくびをしながら眠たげに現れたのだ。
「ふわ~あ、だりい」
「「「……!」」」
だが、その瞬間、アケアを含めた冒険者たちは目を見開く。
眠たげな魔族から感じる、異様な雰囲気を感じ取ったのだ。
今までの魔族とは、明らかに
そうして、魔族の一人は代わりに紹介をした。
「恐れるがいい。この方こそが──子爵級魔族グラヴィル様だ」
両者陣営の大将が登場し、ここが最終決戦地となる。
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