第7話 アケアの決意
<アケア視点>
「私の母が、未知の病なのです」
隣国の公爵令嬢セレティアが、森に来た理由を教えてくれた。
「未知の病……」
「はい。宮廷魔術師に、宮廷治癒士、有名な錬金術師もあたりました。ですが、いずれの方も原因が分からないとおっしゃって……」
セレティアの表情は、事態の深刻さを訴えている。
「すぐに死ぬことはなさそうなのですが、ずっと体調が優れなく……」
「それで、最後の砦として森へ来たと?」
「はい。魔境の森は、未開の地。もしかしたら、我々が知らない回復草などもあるのではないかと」
「なるほど……」
どうやらかなり追い詰められて、ここへ来たみたいだ。
「じゃあ、少し待ってて」
「は、はい……?」
彼女の話を聞き、少し一行から距離を取る。
そのまま、一番の物知りである長老スライムさんに念話を飛ばしてみた。
「聞こえる?」
『うむ。話も聞いておったぞ』
「さすがだね。それでどう思う?」
『そうじゃのう。容態を見てみんことには分からんが……アケアはすでに“協力したい”と思っておるんじゃろう?』
長老スライムさんには、僕の気持ちはお見通しだったみたいだ。
「うん。でも、少しの間拠点を離れることになるよ」
『そんなもの良いわい。スライム達はわしが指示を出す。近辺の主を倒したことで、しばらく厄介事もないじゃろう』
確かにそんな話だったな。
近辺の主を倒しておいて良かった。
また、スライム達へは遠くからでも強化を付与できる。
長老スライムさんが指示をしてくれるなら、残るスライムも安心できそうだ。
『それに、いざとなれば
「そうだね! じゃあ、残るスライム達をお願いね」
『うむ。向こうに着いたら、また念話を飛ばすが良いぞ』
「ありがとう!」
話がまとまったところで、僕は再び一行に戻った。
「セレティア、良かったら僕を連れて行ってくれないかな」
「アケア様をですか!?」
「もしかしたら、何か助けられることがあるかも」
「……!」
僕の答えが予想外だったのか、セレティアは周りと確認を取る。
それでも、全員が肯定的な表情に見えた。
まさにテイマーにもすがる思いなんだろう。
「本当に心強いです! よろしくお願いいたします!」
「じゃあ、もう暗いから明日の朝一に戻ろう。森の出口までは案内するよ」
「はい!」
こうして、僕は隣国のエスガルドへ行くことを決意したのだった。
★
<三人称視点>
その夜、近くの洞窟にて。
「姫様、お召し物をお預かりします」
「ええ、ありがとう」
赤髪の騎士レイルは、セレティアの服を脱がしていく。
日中の戦闘により、汗や血がついてしまっているからだ。
それから、レイルは再度周りをきょろきょろとした。
「……私も脱いで大丈夫だろうか」
「大丈夫だよ。護衛もアケア様も紳士よ」
「そうですね」
二人が
すでにアケアを信頼しているレイルも、着ている装備を全て脱いだ。
「それで、本当に君に頼めるのか? 温かいお湯を」
「ぽよ~っ!」
レイルが話しかけたのは、手に乗せているスライムだ。
彼女の質問に、スライムは魔法で応える。
口からぴゅーっと温水を生み出したのだ。
「わあ、温かい……」
「これも魔法の効果か。まったく、少年には頭が上がらないな」
「ぽよよっ!」
水魔法と火魔法の応用だろう。
川などでは身が冷えるため、アケアが提案したのだろう。
また、念話はできないが、正確にコミュニケーションを取るスライムにも驚いているみたいだ。
そうして、シャワーのように温水を浴びながら、二人は安心して会話を始めた。
「それにしても……驚きでしたね、まさか森にあのような少年がいるとは」
「ええ。正直もうダメかと思いました」
「すみません、騎士である私がいながら」
「もう、そうは言ってないでしょ。みんなが助かったから、それでいいの」
レイルに対しては、セレティアの口調も砕けている。
幼少の頃より騎士として傍にいたため、セレティアにとっては姉のような存在なのだろう。
だからこそ、レイルにしか言えないこともある。
「アケア様であれば、本当にお母様を治してしまうかも」
「はい。プレッシャーになるので少年には言っていませんが、私も密かに期待をしております」
「やはりレイルもだったのね」
「彼には不思議な魅力がありますからね」
すでにセレティアは、アケアにただならぬ感情を抱いていた。
魔法うんぬんだけでなく、優しさなどの人格も備わっているからだ。
そして、そのことをレイルも見抜いている。
「お母様の病気が治れば、いよいよ姫様も行動に移せますね」
「行動?」
「はい。アケア様にご感心があるのでしょう」
「……! レ、レイルっ!」
少しいじわるなレイルの言い方に、セレティアは顔を真っ赤にする。
「身分こそありませんが、あれほどの存在ならばお父様もきっと喜ばれるかと」
「だ、だから~!」
「はは、動揺が隠せておりませんよ」
「もうレイルのいじわるぅ」
仲良さげな会話と共に、お互いの汗を流し終える。
それから、レイルはすっと立ち上がった時だった。
「ではそろそろ服を……ん?」
「ぽよっ!」」
服を着ようとしたところで、スライムが訴えかけてくる。
自身の体をくねくねさせ、何かをアピールしているようだ。
「まさか、自分を使ってくれと?」
「ぽよ!」
「……ふむ」
確かにスライムの感触は気持ち良かった。
ボディスポンジのような用途も出来るだろう。
だが、未知のものをいきなりセレティアに使わせるわけにもいかない。
「ならば、まず私から試させてもらうぞ」
「ぽよ~っ!」
許可を得たスライムは、途端に姿を変えた。
薄く広く伸び、レイルの体全体に張り付いたのだ。
その瞬間、レイルはびくんっと声を上げる。
「は、はぅあっ!?」
「レイル!?」
そして、スライムは思う存分レイルの体を洗い始める。
「ぽよよよ~っ!」
「ふ、ふわああああああ!」
レイルはスライムに為されるがままだ。
体の自由を奪われ、顔を紅潮させている。
彼女の尋常ではない姿に、セレティアも困惑するばかりだ。
「レ、レイル! 一体どうしたっていうの!」
「姫様は近づいてはなりません!」
そうして、うねうねされること数分。
ようやく洗い流しが終わった。
「……ハァ、ハァ、ハァ」
「レイル、大丈夫!? 心地よい顔をしているけれど!」
レイルは息を切らし、疲れから四つん這いになっている。
だが、決して苦しそうでない。
その様子に、セレティアは心配しつつも若干興味を持っている。
しかし、レイルは許可を出さなかった。
「姫様……これはいけません、姫様にはまだ早すぎます」
「どういう意味よ!?」
「と、とにかくダメです。これを許可した暁には、お父上に何と言われるか……」
「お父様に? わ、訳が分からないわ……」
とにもかくにも、セレティアは許可をもらえなかった。
それでも、二人は森の疲れを癒すことができただろう。
一方その頃、見張りをしているアケア。
彼には、スライムから絶えず念話が飛んできていた。
『ねえねえ、レイルの体はねー』
(ダメダメ! それを聞いちゃまずいよ!)
『そうなのー?』
しかし、内容を聞くわけにはいかず。
(というか、変なことしてないよね!?)
『ただ出来ることをやっただけだよー』
(なんか怪しい!?)
そして、必死に念話から気を逸らすアケアであった。
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ぼくはエロいスライムじゃないよ!
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