第13話 ぷにぷにソード
「いくよ、スライムくん」
「ぷよっ!」
アケアが肩に乗るスライムへ声をかける。
すると、【スライム変形】によりスライムが剣に変化した。
剣をぎゅっと握ったアケアは、声高らかに宣言する。
「ぷにぷにソード!」
(((だせえ……!)))
周りは全員ださいと思うネーミングだ。
しかし、
「ではその力を見せてもらおうか」
「はい!」
両者の間に、再び緊張が走る。
数分にも感じる長い長い一秒の後、両者は同時に動いた。
「はあッ!」
シルリアは自慢の速さを生かし、斜め上から剣を振り下ろす。
下から対抗する形を取ったアケアだが、とっさに指示を出した。
「スライムくん!」
「ぷよっ!」
すると、両者の剣は
「なっ!?」
剣が交わる瞬間、ぷにぷにソードが上下に“分裂”したのだ。
結果、交差するように振るったシルリアの剣は、空を切る。
そのままアケアの腕の振りに合わせ、ぷにぷにソードは“再合体”した。
「……ッ!」
そうして、シルリアの剣だけがすり抜け、無防備な彼女の懐にぷにぷにソードが出現する。
あとは力を込めるだけだ。
「【スライム硬化】」
「くっ!」
最後にスキルでぷにぷにソードを硬化し、シルリアの胴に一発入れた。
かなり手加減したのか、それほどダメージは入っていない。
だが、周囲は一気に声を上げた。
「「「うおおっ!?」」」
相手は剣を
推薦があるとは言え、ただの志願者であるアケアが正面から彼女に剣を入れたのだ。
武器を扱う者ならば、そのすごさがよく分かる。
「まさか、そんな隠し玉があるとはな‥…!」
これにはシルリアも笑うしかない。
今の攻防だけで、アケアの強さを実感した。
「うまくいった!」
スキル【スライム変形】により、とっさに明確な形の意思を伝える判断。
それに応えるスライムの柔軟さ。
そして何より、主と従魔の仲良さからくるコンビネーションが光ったのだ。
「フッ、それは君のギフト由来の力か?」
「はい!」
「面白い。ならば──ワタシも」
「……!」
対して、シルリアも目の色を変える。
同時に、剣には
「ここまでとは思わなかった。キミにならワタシの【
シルリアのギフトは【光剣士】。
剣士系の中では、“速さ”に特化した最上位ギフトだ。
魔法は主に光属性、身体能力は速さの大幅上昇の恩恵を受ける。
「この攻防を以て試験を判別する。キミなら受けてくれると信じているぞ」
「え、ちょっ──」
だがシルリアは、恵まれたギフトと、常に上を目指す向上心を持つ。
それゆえに、彼女のギフトを用いた剣技が人に向けられることはなかった。
シルリアは、初めて本領を発揮できることが嬉しいのだ。
「【
アケアの元に、
分身にすら見える剣技は、今までより格段に速い。
“高速移動”と“光魔法の錯視”を組み合わせたシルシアの奥義だ。
(これは……!)
最上位ギフト由来の、速さと魔法。
さすがのアケアも一度で全ては受けきれない。
「ぷよよーっ!」
「なにっ!?」
ならば、剣を三つ用意すれば良い。
同時に迫る三人のシルリアの突きを、ぷにぷにソードは受け止めた。
文字通り、物理的に三つの剣身に分裂することで。
これもアケアの瞬間的な発想を【スライム変形】で伝えたのだ。
「僕の勝ちですね」
「……! しまっ──」
シルリアの奥義を止めたアケアは、そのままカンっと彼女の剣を弾いた。
剣はシルリアの手を離れ、後ろの地面に突き刺さる。
これ以上どうすることもできないシルリアは、潔く言葉にした。
「……ワ、ワタシの負けだ」
「「「うおおおおおおおっ!」」」
シルリアが負けを認めると、周りは一斉に声を上げる。
初めて至近距離で見るシルリアの剣技。
それにあっと驚いたかと思えば、アケアはさらに上をいった。
確かに興味はあったが、まさかAランク冒険者のシルリアに勝つとは思っていなかったのだ。
しかし、意外にもシルリアは清々しい顔をしていた。
「フッ、規格外というのは本当だったか」
「え?」
「セレティア・ヒルナーデ公爵令嬢から伝言があったのだ。『アケア様はとてつもないお方です』とな。まだこんな者がいるとは、世界は広いな」
強者であるアケアを前に、シルリアはふっと笑う。
美麗な容姿とは裏腹に、強い闘争心も持ち合わせているようだ。
「ちなみになんだが、そのスライムはどうやって手懐けたのだ?」
「この子のことですか?」
「ああ。キミは剣士系や魔法系のギフトを授かっているのだろう? その系統でテイムスキルを覚えるとは聞いたことが無いのだが」
実際に対峙して、シルリアはアケアの力を理解した。
剣士としても十分やっていける強さの上、得意なのは魔法だという。
ならば、戦闘系のギフトとしか考えられなかったのだ。
だが、アケアは不思議そうに首を傾げた。
「えと、なんのことだか……」
「む? ではキミはどの系統のギフトを?」
尋ねられると、アケアはいつもの回答をした。
「僕はテイマーです」
「……!? では、テイマーであの身のこなしに、魔法まで使えると言うのか!?」
「は、はい」
「なっ──」
それには、周りも含めてお決まりのツッコミだ。
「「「なわけあるかーーーーーーー!」」」
「え?」
こうしてアケアは、新技『ぷにぷにソード』を以て予備試験を合格したのだった。
「おめでとう。これでアケアを本試験に進めよう」
予備試験から少し。
ギルドに戻ったアケアは、シルリアに予備試験合格の証をもらっていた。
何かを授与された経験のないアケアは、キラキラした目でそれを見つめる。
「わあ! ありがとうございます……!」
「フッ、まだ仮免のようなものだぞ。これで喜ぶとは、先程とは同じ人物とは思えんな」
「でも嬉しくて!」
かわいいアケアには、シルリアも思わず口元を緩めた。
だが、一息ついた彼女は再度キリっとした目を向ける。
「ではアケア、本題に入って良いか」
「え、本題ですか?」
「ああ。それともう敬語はいらない。冒険者には、敵に上下関係を悟らせないため敬語を禁止するという暗黙のルールがある」
「分かりまし──分かった」
それから、シルリアは試験のことを打ち明けた。
「結論から話せば、ワタシは
「そうだったんだ」
今回の予備試験は、シルリアの提案だった。
魔法が得意なアケアに近接戦闘をさせたのも、より力を知っておくためだろう。
「でも、どうして急いでいたの?」
「公認冒険者のワタシへ、ギルドより直接の“調査案件”があったんだ」
「……!」
「だが、他の冒険者には開示できない。もし誤情報だった場合、波紋が広がってしまうだろうからな」
シルリアが焦っていたのも、秘密があったようだ。
「詳しくは了承してくれるまで話せないが、キミにしか頼めない。予備試験で確信した。ワタシの背中を任せられるのはキミだけだ」
「……!」
「だからお願いだ。無理を言っているのは承知だが、この件を本試験という名目にしてワタシと調査をしてくれないか。もちろん合格にはさせてもらう」
「シルリア……」
シルリアは深く頭を下げた。
本試験をやっている暇がないほど、急いでいるのだろう。
だが、アケアの気持ちはとっくに決まっていた。
「わかった。だから顔を上げて」
「……! い、いいのか?」
「もちろん。それを聞いて放っておけないよ」
「ありがとう、アケア!」
セレティアの伝言より、シルリアはアケアのことを軽く聞いていた。
予備試験を始める時には、すでに目を付けていたのだろう。
こうして、本試験という名目で、アケアは一件調査をすることになった。
「では、調査内容は順に説明していく。だが一つだけ先に伝えておくぞ」
「うん?」
そして、シルリアは最後に言葉を添えた。
「調査の間、キミとワタシは二人だ」
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セレティア「え?」
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