第29話 とある予兆

 「【ぷにぷに全身武装アーマー】!」


 アケアがスライム達を集合させ、本気の戦闘態勢を取った。

 魔族の力を頼ったマルムに対抗する形だ。


 アケアとマルムが対峙するのは二度目。

 だが、前回とは違ってアケアは本気だ。


 そうして、二人は再びぶつかり合った。


「テイマーが調子に乗ってんじゃねえぞ!」

「魔族にちた君には負けない!」


 半壊したフォーロス家屋敷の中、両者がぶつかる度に衝撃波が飛び交う。

 屋敷もすでにボロボロだが、マルムは構わず刃を向け続ける。


「殺す、殺す殺す! お前を殺す!」

「……!」


 その言動は、剣を重ねる度に異常になっていく。

 まるで自我を失っているかのようだ。

 攻防を繰り広げる中でも、アケアも困惑を隠せない。


(一体何が君をここまでさせるんだ!)


 その答えはマルムの口から飛び出した。


「お前がずっと憎かった!」

「……!」


 マルムは自我を失いかけている。

 この言葉は無意識に放たれた本心だろう。


 こうなるきっかけは、アケアがフォーロス家に迎えられた時にさかのぼる。

 


────


 三年前、マルムが十二歳の時。


「養子を取るだと?」


 父ガロンの言葉に、マルムは顔をしかめた。

 ガロンが『養子を取る』と口にしたからだ。


「そのつもりだ」

「なんでだよ! 俺だけで十分だろ!」


 マルムは強く反対した。

 しかし、ガロンはすでに決めた様子だ。


「お前には期待しているが、やはりギフトは運が絡むからな」

「じゃあ【祝福の儀】の結果を見てからでいいだろ!」

「そういうわけにもいかん」


 すでに口は悪いが、マルムの気持ちはまだ従順だった。

 端的に言えば、父に自分だけを見て欲しかったのだ。


 母は他界し、それから父はより厳しくなった。

 跡継ぎの責任を一身に受けたのが、マルムがゆがんだ理由かもしれない。

 

「いらねえよ、養子なんか!」

「それは当主の私が決めることだ」

「……チッ!」


 それでも、父ガロンは話を聞かず。

 すると、じきにアケアがフォーロス家に迎えられることになる。

 だが、この時すでにマルムは、養子をいじめることを決めていたのだろう。

 



 月日は流れ、マルムが魔族騒動から帰還した後。


「なんだと?」


 突如現れた“つなぎ”だという者に、マルムは誘われる。


 実は、この男もまた魔族である。

 男の上司は、アケアに【思考支配マインド・コントロール】を仕掛けた魔族──ハーティだ。


「こちらは試用ですが『強制覚醒薬』と言いまして、マルム様のさらなる力を引き出すことでしょう」

「ほう」

「これならばテイマーアケアにも勝てるかと」

「……!」


 プライドが高いマルムだ。

 条件は聞かずにすぐに手を出した。


「渡せ!」

「かしこまりました」


 だが、この後にさらなる屈辱を味わうことになる。




 数日後。


「なぜだあ!」」


 マルムはアケアに敗北したのだ。

 魔族騒動で活躍を奪われ、直接対決で負け、マルムのプライドはズタズタになっていた。


 マルムは、隣に現れた“つなぎ”の男に八つ当たりをする。


「あれを飲んだから勝てるんじゃなかったのかよ」

「あれは試用ですので」

「じゃあさっさと本物を寄こせ!」


 すると、男はニヤリとした。


「これは魔族の血を使った『強制覚醒薬』です。人間には少々・・毒ですが、力が溢れてきますよ」

「……! があああああああああ!」


 そうして、マルムは愚かにも甘い誘惑に乗った。


 それが自我を失うほど強力とも知らず。

 ここまで全て・・ハーティの思惑通りだっとは知らず──。 


────


 攻防の最中、マルムは突如苦しみ始める。


「ガ、ガアアアアアア!」

「……!」


 体中から黒い血しぶきを吹き出し、魔力をあふれさせる。

 同時に黒く染まっていく全身は、すでに人間のたいを成していない。

 これも『強制覚醒薬』の影響だ。


(これはもう、ほとんど魔族じゃないか!)


 アケアもマルムが何を摂取したかはなんとなく察している。

 だからこそ、全力で対応した。


「仕方ない!」


 次の魔族を生み出さないためなのか。

 マルムを助けるためなのか。

 動機は自分でも定かじゃないまま、アケアの体は自然に動く。


「グオオオオオオ!」

「耐えてみせろよ!」


 マルムの攻撃をぷにぷにソードで受け止め、その隙に背中からスライム達が顔を覗かせる。

 ぷにぷに全身武装アーマーの真骨頂、“全方位砲撃”だ。


『『『凍っちゃえー!』』』

「ガア!?」


 スライム達の氷魔法でマルムは凍結した。

 動かない状態で、魔族成分を取り出すべく治癒ちゆするためだ。

 しかし、マルムはすぐに動き出す。


「ガアアアアアアア!」

「……!」


 氷をぶち破り、魔族の血を全身から吹き出した。

 アケアも予想外の異常すぎるパワーだ。

 すると、マルムの体は黒い光を放ち始める。


「グワアアアアアア!」

「こ、これは……!?」


 その現象は、まれに聞く“ギフト覚醒”の予兆。

 しかし、同時に空から声が聞こえてきた。


「は~い、お疲れ様っ」

「……!」


 その声は、アケアに【思考支配マインド・コントロール】を仕掛けた魔族──ハーティの声だった。

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