第28話 魔族側の力

 フォーロス家の地下、牢獄にて。


「おらっ、さっさと歩け!」

「……」


 メイド達が閉じ込められている場所に、少年が連れて来られた。

 その姿にはメイド達も目を見開く。


「「「アケア様!」」」


 姿を見せたのは、半年前に勘当されたアケアだ。

 しかし、目は焦点が合っておらず、正気を失っている。

 さっき受けた【思考支配マインド・コントロール】の影響だろう。


 すると、アケアを連れて来た魔族がにやりとする。


「これがお前たちの希望か? 随分あっさりだったなあ」

「「「……っ!」」」

「このガキ、我らがハーティ様の太ももに挟まれやがって。ちくしょう羨まし──ぶへっ!」

「「「……!?」」」


 だが、魔族の口は途中で閉じられた。

 ふいに振り向いたアケアが、肘打ちで気絶させたのだ。

 ぱんぱんっと手を払うと、アケアはメイド達に振り返る。


「みんな、助けに来たよ」

「「「ア、アケア様!」」」


 やはりというべきか、アケアは【思考支配マインド・コントロール】を受けていなかった。

 あらかじめスライムを仕込んでおいたようだ。


「ありがとうね」

『むむむ、テレパシー!』


 オカルトスライム。

 まじないや幻術に精通しており、怪しげな能力を持つ。

 魔法以外のことは大抵詳しく、役に立たなそうで意外と役立つスライムだ。


 しかし、アケアは途端に心臓を抑えた。


「ぐっ! ハァ、ハァ……!」

「「アケア様!?」」」


 すると、若干赤面してつぶやく。


「ど、ドキドキした……」

「「「はい?」」」


 アケアは、グラマラスな魔族ハーティにいたずらをされた。

 太ももで顔を挟まれ、上からにやにやと見下され、スカートの中の大人の下着も見せつけられたのだ。


 だが、【思考支配マインド・コントロール】を防いだことを気づかれるわけにはいかず。

 つまり、反応しないように心を無にして耐えていたのだ。


 年頃の男の子にしては脅威の精神力である。

 これも全てメイド達を助けるためだ。


「牢獄の場所を知りたかったからさ」

「「「……?」」」


 しかし、そんな事情はメイド達は知るはずもなく。

 ふうと一息ついたアケアは、何事もなかったかのように彼女達を解放した。


「どうぞ」

「「「あ、ありがとうございます!」」」

 

 すると、メイド達はわっとアケアに集まった。


「生きておられたのですね!」

「どうしてこちらへ!?」

「ポーラから話を聞いたのですか!?」


 だが、時間はあまりない。


「詳しいことは後でね。でも、みんなが閉じ込められていることはポーラから直接聞いたんだ」

「「「……!」」」


 昨日ギルドに訪れたのは、アケアと一番仲が良かったポーラだった。

 ここ数日の間にアケアはフィルと評判を上げていたため、それを聞いてお願いしたのだろう。


 そうして、事情を聞いたアケアはメイド達の場所を突き止めるため、【思考支配マインド・コントロール】を受けたフリをされていたというわけだ。


「屋敷は魔族だらけだ。何があったか分かる?」

「いえ、私達も何が何だか。ただ、こうなったのはマルム様が帰られてからです」


 メイドは数日前を思い出すように話した。


 マルムはアケアに敗れた後、やつれた様子で帰宅。

 すぐにガルムに用があると言い、二人で話していた。

 だが、そこからガルムの姿は見えておらず、変な者たちも出入りし、メイド達は不当に捕らえられたという。


「ということなのです」

「……わかった」


 マルムに何かあったとすれば、アケアと戦ったすぐ後だろう。

 アケアは考えながらも、とにかくメイド達を安全な場所へ案内した。


「僕についてきて」





「ここから脱出するんだ」


 地上と地下の中間で、アケアは大きめの穴を指差す。

 同時に、仕事終わりのスライムが顔を出した。


『穴掘ったよー!』

『たくさん掘ったよー!』

『上までつながってるよー!』


 モグラスライム。

 地中を住処としているスライムだ。

 穴掘り、土魔法、土関係ならなんでもござれの便利屋さんである。


 アケアは魔族にバレないよう、モグラスライムに穴を掘らせていたようだ。

 対して、メイドは心配そうにたずねた。


「アケア様はどうされるのですか?」

「僕にはまだやることがある」

「お、お気をつけて……!」


 それから少し。

 メイド達を見送った所で、アケアは再び地上を目指した。


 その瞬間──


「よう」

「……!?」


 突如、上から大きな斬撃が飛んでくる。

 とっさに回避したアケアだが、見上げた先の男に目を開く。


「この前ぶりだな」

「マルム!」


 現れたのはマルムだ。

 目は以前に増してギラつき、怒りの表情を浮かばせる。

 すでに臨戦態勢のようだ。


 そんなマルムに、アケアは一つたずねる。


「こんなところでやるのか。君の屋敷がボロボロに──」

「知らねえよ」

「……!!」


 警告に対して、マルムはぶおんっと剣を振るう。

 その威力は凄まじく、屋敷は半壊した。

 前までとは明らかに桁違いのパワーだ。


「俺はお前をぶっ殺せればそれでいい。屋敷なんぞ知るか」

「本気なんだね」

「だからそう言ってるだろうがあ!」

「……!」


 広くなったフィールドで、マルムはアケアに斬りかかった。

 正面から受けたアケアは、すでに気づくことがある。


(なんだこの力!)


「そんなもんかあ!」

「ぐっ……!」


 攻撃を弾き合い、両者は一度離れる。

 だが、立ち位置は珍しくアケアが押されていた。

 準備できていなかったのもあるが、それ以上にマルムが強くなっているのだ。


「その程度かよ、クソ孤児が」

「……わかった。君を迎え撃つ!」


 すると、アケアもぷにぷにソードを手にする。

 この前は出す間でもなかったアケアの専用武器だ。

 それでも、マルムは真っ向から向かってくる。


「小賢しい武器が! ──【剣聖一閃グローリー・ブレイド】ォォ!」

「……ッ!」


 マルムの無数の剣が迫る。

 強く速く、まさに剣聖にふさわしき二十連撃だ。


(剣聖由来のスキル! これほどのものを使えたのか!?)


 ギフトを授かった者は、自身の成長に応じてスキル・魔法が解放されていく。

 もちろん強いものは解放条件は厳しい。


 だが、このスキルは相当上位だと思われる。

 少なくとも前回のマルムでは発動できなかった。


 考えられる要因は二つ。

 急激に成長したか、何らかの手段で強制的に解放したかだ。

 しかし、マルムは確実に後者。

 

(かすかに魔族の魔力がした……)


 魔族に施しを受けて体を強化したことで、スキルを解放したのだろう。

 アケアは冷たい視線でマルムを見つめる。


「君は魔族そちら側にちたんだな」

「黙れ。お前にとやかく言われる筋合いは無い。俺はただお前を殺せればそれでいい」

「……」


 さらに、言動もひどくなっている。

 今のマルムは、まるでアケアに執着する化け物だ。

 ならばと、アケアも決意を固めた。


「じゃあ、ここで倒すのがせめてもの救いだ」

「いいね、来いよ」


 バッと手を上げたアケアに、スライム達が集まってくる。


「【ぷにぷに全身武装アーマー】!」


 アケアとマルムの二度目のたい

 今回は全力同士でぶつかる──。

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