第27話 フォーロス家へ

 「フォーロス家への面談許可が出たよ」


 テーブル席にて、アケアが話を始めた。

 正面に座っているのはフィルだ。


 ここはギルドの酒場。

 数日フィルと共に依頼をこなしたアケアは、今日も二人で会っていた。

 ほんの先程、フォーロス家からの面談許可証を受け取ったからだ。


「じゃあ明日行くんだね」

「そのつもりだよ」

「……それ、私も連れて行ってもらうことできないかな」

「え?」


 すると、フィルがふいにたずねた。


「目的は、当主ガロン様から子息マルム様へ、冒険者に不当な扱いをしないよう持ち掛けることだよね」

「うん」

「私たちフォーロス領の冒険者の事だからさ。全部アケア君に頼るわけにはいかないよ」

「……」


 フィルは責任感も強い子だ。

 だが、アケアは首をに振った。


「今回は僕だけで行くよ」

「ど、どうして?」

「……少し嫌な予感がするんだ」


 すると、アケアは許可証をじっと見る。

 確信はなくとも感じ取っていたようだ。


(かすかに魔族の魔力がする……)


 受け取った許可証が怪しいかもしれないと。

 もし本当に魔族が絡んでいるなら、フィルを連れていくのは危険である。

 色々と考えて、やはり一人で行こうと決意したようだ。


「だから気持ちだけ受け取っておくよ」

「そっかあ……」

「でも、フィルには別の事を頼みたい」

「え、ほんと!」


 しょんぼりしたフィルだが、頼まれ事にはパッと目を開く。

 憧れのアケアに頼られることが嬉しいのだ。

 

「これはできれば他の冒険者さんにも掛け合ってみて」

「わかったよ。それで何をしたら良いの?」


 アケアは、真剣な面持ちで答えた。


「街を守る準備をしてほしい」

「……え?」


 だが、それはあまりに不穏な言葉だ。

 フィルは思わず、身を乗り出して聞き返してしまう。


「ど、どういう意味!?」

「落ち着いて。万が一のことを考えてだから」

「でも、備えた方が良いってことだよね?」

「……うん」


 アケアには何か考えがあるようだ。


「もしかしたらだけど──」


 それから何かを伝えようとした時、受付嬢の声が聞こえてきた。


「アケア様はいらっしゃいますかー?」

「……! あ、ここに」

「あなたに訪問客です」


 手を上げて場所を示すと、アケアの元に走ってくる者がいる。

 黒いフードを被っており、外見は分からない。


 だが、アケアの前でフードを取ると、その顔には驚かざるを得ない。


「アケア様! アケア様なのですね!」

「……! 君は!」


 焦った声を上げたのは、見知った顔だったのだから──。







「なんだか懐かしいな」


 翌日。

 アケアはフォーロス家の屋敷に訪れていた。


「まあ、半年ちょっと前なんだけど」


 アケアが勘当されてからは、半年と少し。

 だが、その期間に色々な事が起きたおかげで懐かしく思えたのだ。


 そうして時間通りになると、自然に門が開く。


「迎えは……来ないか」


 普通ならば、メイドなり執事なりを迎えに寄こすだろう。

 だが、相手がアケアだと分かっている以上、誰も来なくても不思議ではなかった。

 それでも、アケアはしっかりと前を向く。


(マルムの好きにはさせない)


 目的はあくまで、これ以上冒険者たちが不利益をこうむらないため。

 過去の話をしにきたのではない、とアケアももう一度決心した。


「失礼いたします」


 門から屋敷前へと辿り着き、アケアは玄関に足を踏み入れた。

 だが、何か様子がおかしい。


「あ、あの……?」


 屋敷が静か過ぎるのだ。

 物音一つ聞こえず、話し声もまるで無い。


 あまり屋敷に入ったことはないアケアでも、さすがにおかしいことは分かった。

 すると、正面の階段から一人の女性が歩いてくる。


「ごきげんよう。私は『ハーティ』と言うわ」

「こ、こんにちは」


 出てきたのは、ハーティ。

 メイドの格好をしたグラマラスな女性だ。


 大きく膨らんだ胸部のボタンを外し、ウエストはきゅっと絞まっている。

 スカートも短く、太ももをちらりと覗かせている。

 全体的に人間離れしたスタイルだ。


 ハーティにアケアは深々と頭を下げる。


「私はアケアと申します。本日は許可をいただきありがとうございます」

「これはこれは」


 対して、ハーティはふふっと笑う。


「お話は伺っております。それでは──」

「え?」

「【思考支配マインド・コントロール】」

「……!」


 パチンと指を鳴らすと、アケアの目の焦点が合わなくなる。

 ハーティが魔法を仕掛けたのだ。

 すると、ハーティはニンマリとした表情でアケアに駆け寄る。


「ほーら、大したことじゃないっ。テイマーのアケアとやら」

「……」


 ハーティは宙を歩き、ぺちぺちとアケアの顔を太ももで挟む。

 明らかにアケアを誘惑して遊んでいる。


「うりうり、どうだい坊や? お姉さんの太ももは」

「…………」

「下着もサービスしてあげるわよ? かわいいお年頃だったら確実に反応してるわよねえ」

「………………」


 しかし、アケアは無反応だ。

 まるで自らの意思を失っているように。

 この様子に、ハーティは【思考支配マインド・コントロール】できていると確信した。


「ほらね」


 そうして、ハーティは後方に告げる。


「じゃ、はず通りに」

「「「かしこまりました」」」


 すると、いつの間にかずらりと執事姿の者が並んでいた。

 全員が翼を生やし、金色の瞳を輝かせている。

 つまり、ハーティを含めて全員“魔族”だ。

 

「うふっ、これで計画は順調ね」


 そうして、ハーティは笑みをこぼした。





 しばらく経ち、フォーロス家の地下。


「どうか、お願い……!」


 牢獄にて、女性が閉じ込められていた。

 薄汚れているが、メイドの格好をしている。

 また、他にもメイドがいるようだ。


 ここにいるのは、元から・・・フォーロス家にいたメイド達だ。


「大丈夫よ」

「きっと助けを呼んで来てくれるわ」

「ええ……」


 彼女らが思っているのは、命からがら唯一外に出られたメイドだ。


 その名前は──ポーラ。

 アケアと一番仲が良かったメイドである。


 すると、地上から一人の少年が魔族によって連れられて来た。

 その姿には、メイド達は目を見開く。


「「「……!」」」


 連れられて来たのは、目の焦点が合わないアケアだった。

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