第30話 マッチポンプ

 アケアとマルムが戦っていた頃、フォーロス領の市街地。


「ぷよ! ぷよよ!」


 アケアのスライムがぴょんぴょんと跳ねる。

 何やら慌てた様子だ。

 その近くにはフィルが待機していた。


「スライム君、異常があったの!?」

「ぷよ!」


 スライムはうんっとうなずく。


 このスライムは伝達係だ。

 『ソコソコ平原』に散らばったスライム偵察ていさつ隊から情報を受け取り、フィルや他の冒険者たちへ伝えるための。


「じゃあ本当に魔物が街に向かって!?」


 前日、アケアはフィルに「街を守る準備をしてほしい」と頼んでいた。

 もし想定する最悪の事態が起きれば、アケアが屋敷にいる間に街が襲われると考えたからだ。

 つまり、アケアの言っていた“万が一”が当たってしまった。


 それでも、フィルは冒険者たちと出来る限りの準備をした。


「通達! 冒険者は街を守るように包囲網を!」

『『『了解!』』』


 通信機器を使い、フィルは全冒険者に指示を出す。

 一斉に攻めてきたとしても、『ソコソコ平原』レベルの魔物なら対処できると考えてのことだ。


 加えて、アケアのスライムもそれなりにいる。

 これで準備は万端のはず・・だった。


 その時、フィルの近くの二匹がとある方向を目がけて吠える。


「くぅん!」

「ぎゃう!」

「え、どうしたの!?」


 子犬のシロロン(昨日命名)と、ドラゴンのドランだ。


「くぅん……」

「ぎゃう……」


 その目は、まだ見ぬ強敵の気配を感じ取っているようだった。


 





 再び、フォーロス家の屋敷。


「グアアアアアアア!」


 マルムが悲鳴にも聞こえる大声を上げ、黒い光を放ち始める。


 その姿は、アケアがエスガルドの王都で聞いた“とある話”に似ていた。

 ギフトはごく稀に覚醒・・することがあると。


「まさか覚醒するのか!?」

「グアアアアアアアアア!」


 ギフト覚醒とは、大いなる力を持つ者のみが到達できる領域。

 覚醒条件はギフトによって違うが、共通する条件は『ギフトの最大限の力を引き出している』こと。

 つまり、ギフトの潜在能力を究極まで引き出した者のみが限界突破をするのだ。

 

 そんな覚醒ギフトの保持者には、さらなる力が与えられる。

 身体能力・魔法において、通常ギフトとは一線を画すものが授けられるのだ。


「グアアアアアア!」

「なんて威圧感だ!」


 現に、覚醒している最中のマルムですら、凄まじい威圧感だ。

 アケアはその力を身に染みて感じている。


「グアアッ!」

「……!」


 そして、マルムの黒い光が収まる。

 すると、一瞬マルムが冷静に戻った──のもつかの間、空から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「は~い、お疲れ様っ」

「……!?」

 

 アケアが振り向いた先にいたのは、ハーティだ。

 玄関で【思考支配マインド・コントロール】を仕掛けた、メイドの格好の魔族である。


「無事に覚醒できたわね。じゃ回収~」

「グアア!?」


 ハーティはマルムへ手を向けると、彼の体が吸収されていく

 ほとんど魔族のマルムは、体が魔力で構成されている。

 すると、マルムはそのままハーティの手の中へ消えた。


「な、何をしたんだ!?」

「うふふっ、私の狙いは最初から“覚醒ギフト”なの」

「……!」


 今の行動により、ハーティはマルムの覚醒した【剣聖】を奪ったようだ。


 ギフトを授かるのは人間のみ。

 ギフトを覚醒させられるのもまた人間のみだ。


 そこでハーティは、色々と仕掛けてマルムのギフトを育てた。

 覚醒させた後に自分のものにするために。

 魔族にさせたのも吸収しやすいからである。


 つまり、ハーティは初めから、覚醒後のギフトを奪うつもりでマルムに近づいたのだ。

 

「マルムのふくしゅう心を利用したのか」

「そうよぉ。人間って簡単よねぇ、復讐のためならころっと騙されちゃうもの」

「……っ」


 所詮しょせんマルムは前座でしかなかった。

 魔族の思惑はどこまでも上をいく。

 

「でも、マルム君にはもうちょっと頑張ってほしかったなぁ」

「なに?」

「本当はもう一つ・・・・覚醒したギフトがほしかったから」


 ハーティは妖艶ようえんな表情をアケアに向ける。

 

「あなたの【スライムテイム】もほしいの。もちろん覚醒させた上でねっ」

「……!」

「マルム君が頑張ったら、戦いの中で覚醒すると思ったのにぃ」


 どこまでも狡猾こうかつなハーティである。

 マルムとアケアの因縁の知り、全てを計算した上でマッチポンプしていたのだ。

 アケアはギリっと歯を噛みしめる。


「その力でどうするつもりだ!」

「どうするも何も、これが趣味なの」

「趣味?」

「そ。人をもてあそんで、培ったものを全て奪って。これ以上楽しいことはないわっ」


 それを聞けば、アケアは陰謀いんぼうを止めるしかない。


「じゃあ僕が相手になる!」

「も~、ちょっと待ちなさいよ」


 すると、ハーティは体をくねくねさせて恍惚こうこつとした表情を浮かべる。


「あーん、来た来た♡」

「?」

「マルム君のが馴染なじんできたみたい」


 それから、抑えていた魔力を爆発させる。


「お姉さんも結構強いんだからっ」

「……!?」


 アケアですら感じた事のない魔力量だ。

 以前の子爵級魔族グラヴィルとも比較にならない。

 だが、アケアは何か違和感を覚えた。


「まさか……」

「その通りよん」


 マルムの【剣聖】以外の威圧感を感じたのだ。

 すると、ハーティは舌を出しながら答える。


「私は三つの覚醒ギフトを持ってる」

「……!!」


ーーーーー

ハーティ


所持ギフト:【覚醒・魔女】【覚醒・上級治癒士】【覚醒・剣聖】(←New!)

ーーーーー


 幻の存在である“覚醒ギフト”を、ハーティは三つも所持している。

 そのどれもが最上位と呼ばれるギフトばかりだ。

 今回の顛末てんまつと同じような手段を使って、手に入れたのだろう。


「では改めまして」


 うふんっとセクシーポーズを取りながら、ハーティは自己紹介をした。


はくしゃく級魔族のハーティですっ」

「……!」


 アケアにさらなる敵が立ちはだかる──。




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