第36話 得手不得手

 今日も今日とて、暑い。

「遊びに行かない? もう外出禁止は解けたんでしょう」

「ああ、まあな」


 電話をすると、珍しく陸斗も行く様だ。


 少し遠いが、レジャーランドのプール。

 運転手の後居 郷ごおる ごうさんが、監視役というか、保護者としてついてきた。

 彼も、力は弱いが風を使える。


 針の穴を通すような、精密なコントロールができる。

 後ろに立つんじゃねえが口癖だ。


「では若、車の方で待機しております」

 そう行って帰ろうとする。


「いや、暑いしプールに入れば良いじゃん。護衛だろ」

 そう言うと、困った感じになる彼。


「あーそうですね。護衛です。ちなみに此処の深さは?」

 前に来たときの記憶を思い出す。


「知らないけれど、そんなに深くないはず」

「そうですか。ならば」

 そう言って、やっと一緒に来てくれた。


 そう言って中へ入ると、彼の色の白さと鍛え上げた筋肉が目を引く。

 隣に立つアマンダと二人、非常に目だつ。


「さてと、流されに行こう」

 陸斗は浮き輪を持って、そそくさと流れるプールへと向かう。


「ゆったり流されるのも良いけれど、競争しない?」

 雫が、競泳用のプールを指さす。


 そうなぜか、アミューズメントな所に、ガチ勢用のプールと、飛び込み専用プールなどもある。


 そうかと思えば、半身が浸かる程度の水深で、歩くためのコースもある。

 そこは、まあお年寄り向けでだとされるが、流れるプールの底をくぐる所があり、そこは天井がアクリルで透明。

 密かな人気スポットになっている。


 そして凶悪なウォータースライダー。

 もう、うねうねのクルックル。


 過去ここでは、幾多のお姉さんが、手ぶらででてくる羽目となった。

 紐が、ほどけるのだよ。


 そして、アマンダに誘われて、ものすごいにやけ顔で後居さんが並んでいた。

 何も考えないアマンダは、順番が来て頭から飛び込む。

 その横には、危険ですから足から滑ってくださいの文字。


「次行ってください、下に付いたら速やかに、安全な所へ移動してください」

 そう言われながら、後居さんは滑り始める。


 途中で、布を一つ拾う。

「アマンダおじょうちゃん落としたな」

 だがもう一つ。

 やべえ。

 角度を変え、滑走スピードを変え、背中から風を使い加速する。


 プールへと到着をして、アマンダはすっくと立ち上がる。

 この数ヶ月鍛え上げた肉体、多少の衝撃など物ともしない。

 だが後ろから来たのは、高速の後居さん。


 もろにちゅどーんと命中して、二人が絡まるように吹っ飛ぶ。

 水に浮いている二人。

「大丈夫ですか?」

 監視員は、様子を見に来て、見てはいけない物を見てしまう。


 立ち上がろうとする、アマンダ。

「立たないでください、危険です」

 ハッという感じに、アマンダは姿勢を低くする。


 そっと、後居さんが布を渡す。

「あっ」

 やっと気がつき、水着を着け始める。


 後居さんの鼻からは、鮮血が滴っていた。

 それはぶつかった衝撃か、それとも……


「もう浮いているの飽きた」

 朱莉はもう我慢ができないようだ。


 我関せずで流れていく陸斗。


「どうする、上がるか?」

「そうねさっきの勝ちの分、アイス」

「分かったよ」

 さっき、雫と競争をした。

 飛び込み、ひとかきしたら雫のレーンだけ、流れるプールになっていた。

 轟々と流れ、他のレーンは当然逆流だ。


 当たり前だが、あっという間にスタート地点に戻るだけなら良いが、他のレーンなで巻き込んで、雫のレーンに吸い寄せられていく。


 見たことない男の子や女の子。

 ひとまとめになって、流されてしまった。


 雫は、喜びながらプールサイドへと上がったが、振り返って愕然とした。

 颯司が見たことない女の子と、プールの真ん中でいちゃついていた。

 それを見て、雫はつい、水の上を全局疾走。


「真面目に泳いでよ、この子誰?」

 そんな事を聞かれても、俺は知らないし、口ごもってしまう。


「あっわたし、戸成となりの中に通っています。福平 霞ふくひら かすみです」

「へー何年生? おれ、幽奇北中一年生の風祭 颯司かざまつり そうじ。よろしくね」


 挨拶をしながら、奇妙な感覚を覚える。

 この子人間じゃない。


「私は、水祭 雫みずまつり しずく

「ふふっ、仲が良いけれど、雫さん、水の上に座っていると目だつわよ」

 そう言って、彼女は行ってしまった。


 さっき一緒に流されていた、男の人と一緒に。

 彼は、霞の兄である福平 凪ふくひら なぎだった。


「むうっ」

「雫、監視員さんが困っているから、中に入れ。泳ぐぞ」


 監視員は困っていた。

 プールサイドを走った場合は危険だから、速やかに注意をすることになったている。だがプールの上も、人を蹴ったり、危険じゃないのか……


 そして先ほどの異変。

 いい加減不思議なことが起こるのが、この町幽奇市である。

 だが…… 答えが出ないまま、彼は頭を抱えることになる。



「さっきの人ね、仲間みたいよ」

「そうなのか?」

「うん。一見人間ぽいけれど、我らの長にも成れるかも」

「ふーん。あの女の子もそうなのか?」

「あの子は人間、でも力を使っていた」

「じゃあ敵か?」

「どうなんだろ?」


そんなことを言いながら、消えていった。

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