第17話 闇術士の実験

 颯司達とは違い、闇に生きる者達も千年前から存在をしていた。

 呪文や札を使い闇の者達を従え、暗殺や災害を起こす。



 そんな中にも、世代の交代と継承がある。

 一般人にすれば迷惑な話。


 地脈の関係でこの町は闇のものも湧きやすい。

 そのため、祭家が居を構えている。



 その子どもは何時の頃からか、公園の土管型遊具に住み着いた。

 町に連絡をして、職員が担当するがわずかな間に逃げ出してしまう。


 服もボロボロ、体はガリガリ、目はくぼみ、生きているのが不思議な感じだった。

 そして、その公園は気が付けば、蜘蛛の巣が例年より多くなっていた。


「通路を歩いても、朝晩引っかかる何とかしてくれ」

 殺虫剤を片手に、町の職員地が走っていった。


 だけど、その蜘蛛たちは駆除ができず、目立つところの他で密かに大蜘蛛が育っていた。


 引っかかり、ミイラとなった死体。

 繭になって中身は見られないが、五体程度が転がっている。


 物の怪。

 土蜘蛛たちが湧き、獲物を捕らえ育っていく。


「また行方不明者だ」

「多いな」

 所轄の警察に日々行方不明者の相談が来る。

 年寄りが増え、徘徊や、子どもの迷子。

 忙しいのにてんてこ舞い。


 やがて、警官は見つけてしまう。

 公園の奥。

 奥には、旧市街があり細い路地がある。


 駅から公園を突っ切り、飲み屋街への近道で知る人ぞ知る所。


 そこに蜘蛛の巣と、それに引っかかっている大きな繭。


「なんだありゃ?」

 だが繭は、意外と丈夫で、壊せない。

 一個持ち帰り、署へと運び込まれる。


 そこで被害者を発見をする。

 思い出す警官達。

 まだあった。


 人数を集めて、急行をする。


 トーチを使い延焼をしないように気を付け、糸を焼いていく。


 だが蜘蛛の方も、繭が無くなったことに気がついて、怒っていた。


 集まってきたやかましい者達。

 パトカーが、蜘蛛を引き寄せる。


「あっちだ」

「繭を支持している糸だけを焼け。繭は焼くな」

あちこちで、叫び声が聞こえる。


 そして……


「ぎゃああぁ、助けてくれぇ」

 一人の署員が顎で噛まれ持ち上げられる。


 全長六メートルほどの蜘蛛。

 それが周囲から幾つも降りてくる。


「なんだあれは、発砲許可。対象大グモ。全長は五メートル以上」

 一般道路の白線の長さは五メートル、そして間隔も五メートルだそれを参考に蜘蛛の長さを測る。


「撃てぇ」

 発砲許可が下りたようだ。

 警察は本来、犯人の逮捕や逃亡の防止並びに公務執行妨害等じゃ無ければ、拳銃は使用できない。だが、この頃、相次ぐ害獣が人を襲うため法が変わり、威嚇なりの発砲が許可されていた。


 無論、この蜘蛛の情報は、祭家に届く。


 各家の親に命令が行われる。


 だけど、命令を聞いていない学生達も、町中を歩くことくらいある。


「あれは何かな?」

 まだ小さい三十センチくらいだが、のっしのっしと道路を歩いている。

 見た瞬間、風が吹き頭がなくなった蜘蛛が転がる。


 すぐに周囲に探査の風が吹き抜ける。


「いやーん」

 なぜかそう言いながら、颯司に向かい、朱莉はスカートを捲る。

 赤いパンツが煌めく。


「気が散るからやめてくれ」

 横で雫も持ち上げようとしてやめた。

 颯司の向こう側で、陸斗がスチャッとスマホを構えたからだ。


「なんだか大量にいるし、でかいのもいるぞ」


「どっち?」

 朱莉は張り切っていた。

 圧倒的に増した力。

 制御が出来るようになって、使いたくて仕方が無い。


 口で言うより早いため、一斉に走り始める。

 途中の小さいのは指示をして、朱莉が焼いていく。


 そのスピードと威力。

 明らかに違う。

 雫は気が付いた。

 あの日に起こった発火現象。朱莉は制御が出来ないと言っていた。

 だが今、見えている炎は前と違い早くて濃度が濃い。


 ナパームのような粘り気のある炎。


「あれは、私の水でも簡単には消せない」

 記憶にあるのは、そう、父親達の使う一段上の力。


「いつの間に……」


 そして、やはりすごいのは颯司。

 幾つもの風が同時に吹き荒れる。

 朱莉に任せる必要の無い小物は、瞬間的に切り刻まれていく。


 やめてよみんな。

 何が…… はっまさか、二人で大人の階段を?

 半分当たりだが、半分は外れ。

 耳年増な同級生により、えっちな話を聞いてしまっていた。


 ずるい、するなら混ぜてくれても良いのに。


 雫の感性は少しズレているようだ。

 みんな仲良く…… 一部を除き。


 物の怪退治なら、みんな仲良く出良いけどね。

 などとくだらないことを言っていると、見えだしたのは大型。

 毛のびっしり生えた足。


 わしゃわしゃと動く足が、本体の向きを変える。

「ひぃぃ。あれは無理任せる」

 雫は、朱莉を前に押し出す。


 朱莉も嫌いだが、一応燃やす。


 その威力はものすごく、一瞬で体が無くなる。


「休憩をするな、まだ居るぞ」

「「ひいぃぃ」」

 悲鳴が増えた。


 それに、細い路地で火焔は使えない。

 颯司が風を放つ。

 だが最後だけ残して、様子を見る。


 蜘蛛の向こうに、人が塊でいる。


「ジャマだな」

 反射する光からすると警察っぽい。


「みんな隠れろ」

 脇の路地に逃げ込みながら、術を放つ。


「なっ、なああぁ」

 驚いたのは警察官。

 そしてその奥には、無数の切断された蜘蛛がわしゃわしゃしていた。

「何が一体?」

 知らないのは下っ端ばかり……

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俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。 久遠 れんり @recmiya

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