第8話 静かな戦い

 頭からかぶせられた布は取られたが、 

 目隠しをされて、手は後ろ出に結ばれた。

 聞き慣れない言語。


 何かを指示しているのか騒がしい車内。


 やがて、車は止まり、おろされて引きずられていく。

 乱暴に床へと転がされ、何か指示されたのか、服が強引に脱がされる。

 当然反抗したが、思いっきり顔を蹴られる。


 それだけで、女の子は諦めてしまった。

 これは、今まで受けたことのない一方的な暴力。


 学校などで習った常識。危ないときは、人か警察を呼びなさい。

 そんなもの一体、何時どうやって?

 抵抗すると、相手を怒らせたり恨みを買うから反抗はしないように。

 でも抵抗しないと、どんどん状態はひどくなる。

 怪我をさせると、過剰防衛とかになるし被害者が加害者になりますからね。

 それ以前に、抵抗ができない。

 誰か助けてよ。

 彼女は絶望を感じるしかできなかった。


 心の奥底で言葉が浮かぶ。

 私の死体が見つかれば、警察は動くだろう。

 でも、それでは私は? 犯人が捕まっても、人は生き返れない……

 警察にとって、私たちは犯罪者を捕まえるための餌なの?


 彼らの行動。一般の常識の範囲など、簡単に越える。

 そう、一般人の常識で、非常識な人間の行動を理解するのは無理がある。

 彼らはきっと、そちら側の人達。


 不覚にも漏らしてしまう。

「ふぐうぅぅ」

 そんな恐怖の最中、目隠しが取られて、周りを囲む男達。

 友達二人も裸で転がっている。


「んんんっ」

 彼女は、動けない体を何とか動かして逃げようとする。

 だが背中に当たる何か。

 振り返ると、見下ろしてくる男。

 背中に当たったのは、そいつの足。


 手が伸びてくる。

 その男は、手から火を出す。

「んんっ」

 熱い。

 足を拘束していた何かが焼かれ、自由になった。

 だが側に居た男達の手が、足首を掴む。


「んんんっ」

 そう、子どもじゃ無い。これからどうなるのか理解をしている。

 いやだぁ。


 おかあさん。おとうさん。

 誰でもいい助けてぇ。


 そう思ったとき、閉ざされていた鉄製のドアが吹き飛んだ。


 この部屋はコンクリート製の殺風景な部屋。

 私たちが転がっている床には、円形の少し毛足の長いラグが敷かれているが、それ以外は、コンクリートが剥き出し。


 少ないダウンライトと、ソファー。それに座る男。

 そいつはグラスを持ち、サイドテーブルにワインボトルが立っている。


 だが、その男も、吹き飛んだドアに驚いたようで、振り返る。


 入ってきた者達は、全員無言。

 ちらっと状況を見て、手を振る。


 それだけで、私の足を押さえていた男達の首が落ちる。

「ふぐうぅぅ」

 その光景を見て、私はつい声を上げて後ずさる。


『てめえら何もんだぁ』

 何か言っているが、入ってきた者達は相手にしない。

 淡々と、を進める。


 ワイン男が手を振ると、炎が巻き起こり竜巻のようになったが、いきなり消える。


 その後、彼は驚き、幾度も手を振るが何も起こらない。

『そんな、馬鹿な。力が発動できない』


 そう、彼らは知らなかった。

 力が上の者ならば、相手の能力を奪える。

 無論制御は難しい。


 単純な力押しで、攻撃をする方が簡単だ。

 そう彼らは、これまで己の力だけを信じて突っ走ってきた。


 古き伝統を馬鹿にして、せっかくの継承をぶった切った。


 技を使う者達は、その事を理解し、作業を進めていく。

 おおよそ二十人もの敵は、あっさりと、そう…… 無慈悲に殺された。


「大丈夫かい?」

 その人は、優しく問いかけてくれる。

「はい」

 毛布を貰い、羽織る。


 切り刻まれてしまった制服。

 見て諦め、私たちは彼らについて行く。


 そう、どちらにしても怪しいが、血が匂うあそこに居るよりはいい。

 友達二人も付いてくる。

 途中で、適当な服を買って貰い、そのまま、制服屋さんへ。

 無理を言ったのか、あっという間にサイズを合わせて制服が出来上がる。


 その途中で、鞄が手元に帰ってきて、数時間で元通りになった。

 まるで何もなかったかのように。

 クレープは流石に無かったが、家に帰り、お母さんからの何気ない言葉を聞き、私は泣き出してしまった。

「おかえり、今日は遅かったわね。その顔どうしたの?」

 そう聞かれても、今日のことは言うことが出来ない。


 言ってしまっても、きっと信じてもらえないし、忘れなさいと言った言葉は、優しかったけれど、きっと命令。

 言えば家族ごと、どうなるのか判らない。

 私たち三人だけの秘密。


 なぜかその日から、三人とも怖くてクレープが買えなくなった。


 せっかく本土から呼んだのに、その日から、ぱったりと火鬼、水鬼、土鬼、風鬼全員と連絡が取れなくなる。

 各員、部下は五十人ほどつけていたはずだ。


 なのに誰からも連絡が無い。

「まさかなぁ」

 平和ボケをして、ちっぽけな島国に籠もっていた奴らだ。

 奴らが後れを取るなどあり得ない。


 そう我が民族、我が国は巨大。

 竜とも称される。


 俺がこれまで、どれだけの敵を屠りここまで来たのか……

 そう俺には、自身の強さへの自信と、勝ち続けた誇り。

 

「きっとあいつら、お気楽な日本人相手。簡単すぎて調子に乗っているんだろ。連絡が来たらちっと絞めとかないといかんな」


 目の前に置かれた日本地図。

 それはまだ白いが、徐々に赤く染めていく予定だ。

 白い布に描かれた日本地図。それはまるで日の丸の、赤い丸が日本列島になったかの地図。


 だがその日本は、皺の加減か、光の加減か…… 静かに潜む竜に見えた。

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