第13話 ちょっと困った

 颯司は少し困っていた。

 まだ本格的な発情期にはなっていないが、母さんとは違う人の裸。

 少しドキドキしていた。


 そう、時代が時代なら、空き地に落ちていたエロ本。


 子ども達は訳も分からず、友達達と『女の人の裸だぁ』騒ぎ、年頃になるとコントロールのできない心。心臓はドキドキして、なぜか家族には言えない後ろめたさを感じた。


 そんな気持ちを起こす元が、そこを歩いている。

 彼女が、部屋へ帰ろうとすると、Tバックの紐は気にならず裸で歩いているように見える。


 その時、体の一部に少しきゅっとした痛みがあった。

 大人の男への変化が、確実に彼にも訪れた。

 第二次成長期。

 彼らの体は少しずつ変化をする。


 そしてそれと共に、彼らの体に行われていた封印が、外れ始める。

 そう安全弁。

 強力な力を、体ができていない内に使うと体が壊れる。


 そう希少な魔力回路の様なモノが焼けてしまう。

 颯司は少し特別で、それが太かっために制限されていてもかなりの術が使えた。

 真の力が解放されたとき、彼も驚くことになる。



 その日学校では、珍しく眠っていない颯司に、クラスは騒めく。


 先生すら、授業に集中できない。

 ちらちらと様子をうかがう、先生の視線が颯司とあう。

 その瞬間、颯司はにへらと笑う。


 その話は、職員室でも話題となり、起きている颯司の見学ツアーが始まってしまう。


 そう、颯司は困っていた。

 いつもの様に学校に来て、寝ようとした。

 だが、脳裏に焼き付いた、アマンダの体がまぶたの裏に浮かんでくる。


 するとだ、なぜか体の一部が反応してしまう。

 スマホで少し調べると、大人として正しい体の反応と書いてあったのだが、その時に、その類いに関連する写真が出てきた。


 そう、颯司のスマホは、特に制限などされていない。

 人間は生物であり、己の身体が成長するがままに興味を持たせる。下手に制限などして、行為が悪などと植え付ければ家の存続に関わる。


 そんな家の教えにより、ナチュラルで自由な生活をしている。


 だが、その日の颯司は、おかげで眠れなくなってしまった。

 不意に訪れた、異性への目覚め。


 誰しもが通る道である。

 ただ周囲への影響は大きかった。


「そうです。風祭が起きているんです。それが気になって授業になりませんでしたよ」

 国語教師、国野 導くにの しるべ二十八歳は語る。


「そうですな、それが普通なのですが…… 土祭はきちんと寝ていましたし」

 陸斗が編み出した、一見起きているようできちんと寝てる術は教師に見破られていたようだ。


「アイツが起きていると、授業にならん。困ったものだ……」

 ガヤガヤと対策を考える先生達。


「よし、体調が悪いなら、保健室の使用を促してみます」

 授業中に起きていることで、体調不良を心配されてしまった。


 理科教師神苑 啓しんえん ひらく三十二歳は、気合いを入れて立ち上がる。

 パサッと、髪の毛を背中へと流す。

 男だが彼の髪の毛は、顎先に達するほど長い。


 「行って注意を行いましょう」

 彼は指導書などを小脇に抱えて、カツカツと授業に向かう。

 その颯爽とした姿に、他の先生から感嘆の声が騒めきとなって起こる。


「神苑先生にお任せをいたしましょう。さて気持ちを切り替えて授業に向かおう。他の子はきちんと寝ていますね」

「ええ、だいじょぶです」

 そんな話し合いが起こるほど、颯司が授業を受けているのは衝撃であった。



 教室に入る神苑先生。

 ふむ確かに起きている。

 だがその顔は、教室の外に向けられて、体育のためグランドに集まっている三年生達に向けられている。


 一年生とは違い、三年生ともなれば、かなり体つきが違う。

 中学校が体の変化という点では、学年の差が最も大きいだろう。


「注目。時間だ、授業を始めよう。みんな居るかね」

「「はい。全員います」」

 クラス委員の山田 登やまだ のぼる君と、川元 優子かわもと ゆうこさんが答える。


「よろしい。では……」

 此処でわざとらしく時間をおく。


「ミスター風祭。体調でも悪いのかね? 起きているようだが?」

 名前を呼ばれて、流石に反応をする。


「いえ…… 特には」

 その受け答えに、クラス内に緊張が漂う。


「そうか、それなら良いが、保健室と言う場所には、優秀な教諭も居られる。伺って身体の状態を述べるのも何かの役に立つかもしれない。保険委員は人見さんだな。人見 杏実ひとみ きょうみさん。彼を保健室へといざなってくれたまえ」

「はい。行きましょ。風祭くん」


 颯司の手を引き、教室を出て行く。

 その素直な行動に、また教室が騒めく。


「静かに。これで落ち着いて授業が受けられるだろう。では、始めよう。教科書、この世の深淵について、三七五六四ページを開いて」

「先生、教科書が違います」

「そうか、すまない。ミスター風祭の事で、すこし動揺があったようだ」



 そんな頃、保健室に向かう二人。

 あまり接点のない女の子に、手を引かれて颯司は少しドキドキしながら、ぼーっと考えていた。

 朱莉や雫と違い、手の平が柔らかい。

 この子は、あまり剣術や体術の訓練をしていないのか?


 つい意識をする余り、入念にもみもみしてしまう。


 そして、杏実もドキドキしていた。

 密かに颯司は人気があった。

 繋いでいた手が緩み、離されるのかと思ったら、なでなでと指の腹が手の平を滑る。

 それは時折、ゾクッとするような快感を杏実に与える。

 

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