第30話 判断

「朱莉と雫、どっちが好き? か、だと…… そんなもの選べる類いのわけがない」

 おれは全力で逃げた……


 判断などできねえ……

 というか、選んだ瞬間にチームが崩壊しそうな気がする。


「えーつまんない。そこはさ、嘘でもお前だよって言ってくれれば良いじゃない」

 雫はそんなことを言い出す。まあ本気で聞いたわけでもないが、少しは期待もした。


「本当か?」

 そう言って、じっと見る。

 すると、ぽっと赤くなって、あわあわし始める。


「やだ、嘘…… 聞くなら、本当のことがいい。頑張る」

 そう言って、なぜか気合いが入ったようだ。


「だがまあ、努力もせずに、人を頼ろうなんて言う人間は、駄目だよな」

 朱莉をじっと見る。


「そうよね、人間としてだめよね」

 雫が乗ってくる。

 そして小さくガッツポーズ。


 まだ、朱莉は誰かを探し、スマホをいじっている。


「ほらそんな事をしている間に、大分済ませるだろう。やれ」

 そう言われて、スマホの画面から顔を上げる。


「えぇー」

 しっしと追い立てる仕草を、颯司にされて朱莉は渋々机に向かう。


「皆はしないの?」

「もう終わったぞ」

「うん、もう終わったよ」

 二人が揃って答える。


「ええっ、ずるい。いつやったの?」

「最初の一週間。もう絵日記も天気調べも終わったし」

 当然そんな宿題はない。と颯司は思っていたが、実は夏の体験と言うものがあった。


「えー。あっホントだ」

 六枚程度の紙が持ち上げられる。


「えっ」

 颯司は思わず声が出る。

「結構面倒なのよ、花火大会だと雨天延期とかあるから描けないしね」

 雫がのんきに言っているとき、颯司はあわてて自分の部屋へともどる。


「嘘だ、そんなものは見ていない」

 そんな事を言いながら階段を上がり、思い出す。

「ああそうだ、これは描けないと思って後回しにして…… すっかり忘れていた」

 丁度、被害者巡りが入ってきて、すっかり忘れていた。


「だが、あれは描けんな」

 部屋に戻る足が止まり、また居間へと戻る。


「あれ? なかったの」

「いや描けないと思って後回しにした、適当にイベントがあったら描くよ」

「へえ、真面目ね。私なんか、宿題をやっている朱莉が夏休みが終わるって叫んでいるところとか描いたわよ」

「そこまで置かないし、描き直しね」

 ふっふっふと、朱莉が意地悪そうに笑う。


 その頃、陸斗は変化をした颯司と朱莉に気がつき、彼なりに技の工夫を行っていた。

「負けるものか」

 だが彼の封印が解けるのはいつの日なのか?



 そしてその頃親達は、目撃地点のマークから、奴らを追い込んでいた。


 目的地は、長野県辺り。


 今はもう誰も住んでいない別荘地が山間にあった。

 大昔、流行っときに造られた小さなスキー場、そこに併設をする施設。

 今はただの廃墟群である。


 そこにいきなり火柱が上がる。


 そこにいた者達は、あわてて建物から飛び出して、応戦をするが、術者の姿はどこにも見えない。


 町中とは違い、ハンドガンなどを装備をしているが、敵が見えない以上どうしようもない。

 ただ、きょろきょろして慌てふためく。


 だが、奥から出てきた連中は、軽く周囲を見回すと、周囲に火が飛んで行く。


 それは気配を読んで放たれたものだが、風がじゃまをする。

「どこだぁ、隠れていないで出てこい」

 どこまでも響く声。


 その中の一人が腕を振るうと、地が裂け木々がなぎ倒される。


 だが、見えない。

 敵が見えないところから、一方的な攻撃がやって来る。


 もう、組織の連中は倒され、土に食われていた。

「ええい、忌々しい」

 都合、六匹ほどの鬼達が一斉に違う方向へ逃げ始める。


 だが、分散したところに、風と火、そして大地が襲いかかり、何者も切断をする強烈な水が襲いかかる。


 普通の人間を瞬殺する鬼達が、次々に倒されていく。

「このお、卑怯者どもがぁ」

 呪いとも言える言葉を残し、消滅をしていった。


「これで終わりかな」

 土祭 大地つちまつり だいち水祭 流水みずまつり ながれ

 火祭 剛炎ひまつり きわむ風祭 飄重かざまつり ひょうえ

 親達が姿をを現す。


「ここにいるもの達は、さっきので終わりだ」

 日本では、平時でも九万人もの行方不明者がいる。

 その中で、異常な犯罪に巻き込まれたのは幾人居るのか?



 当然、ここだけが拠点ではなく、まだ異変は終わっていなかった。

 追われた者達は、闇へともぐり、その発見を難しくする。


「ねえ、君がかえでちゃんかい?」

「はい」

 楓は思っていた以上に好みの男性が現れて、ドキドキする。


「先ずは、食事でも行こう」

「はい」

 少しためらったが、自分に向かって伸ばされた手を取ってしまう。


「かわいいねえ。思わず食べちゃいたいくらいだ」

 そうマッチングアプリ。

 プチ家出の彼女は、そんなものを頼り、出会ってしまった。

 自らの足で、その罠へと飛び込んでしまう。


 この人なら、エッチくらい良いかな。

 そんなことを考えながら、夕闇に消えていく。

 その判断は、本当に正解だったのか……

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