第29話 差
「あれが直系か?」
「見た目は変わらないが、どうして差が出るんだ?」
「うーん、一歩が早い?」
「そうだな、連携も早い」
分家筋は、連絡だけで直接戦闘は控えるようにと連絡が来ている。
目の前の公園では、大地が踊り木が倒れ風が渦巻いている。
やっと見つけた、鬼。
赤い肌、黒ずくめの奴らの中に居た一人が鬼だった。
普通のサラリーマン風だったが、体が大きくなり体は赤くなり、翼が生える。
これで鼻でも高ければ天狗のような姿。
「あれは、
伝承では、最大三〇メートルまで巨大化できる。八つの頭に赤い肌、翼を持ち自由に空を飛べたとある。
だが、実際は三メートルくらいで、飛行速度はあまり速くなく、風に抑えられていた。
「畜生、なんだあぁ」
餌を見つけに行くのに、最近は物騒だからと、かり出された。
そして、駅の近くで適当な奴を見つけて、さらう予定だった。
適当に捕まえては、車に押し込んでいた。ところが、いきなり風が周囲で強くなり、周りの組織の連中が口々にやばいと言い始めた。
車に乗り込もうとしたがドアに風が当たり、ドアが開かない。
仕方が無しに、走って逃げる。
そう追い込まれるように、人の少ない公園へと。
するといきなり地面が揺れ、幾人かが割れた土中へと落下。
風が巻き始め、触れると切れる。
あっと言う間に組織の奴らが、やられてしまった。
「ええい」
変化を解き、姿を現す。
だが、未だに相手の姿が見えない。
翼を出し、飛ぼうとするが真上から重い風が吹き下ろす。
「ぬっ、これでは飛べん」
翼が三割り、後は通力を使い飛ぶのだが、体が持ち上がらん。
そして風が再び体の周りを回り始め、その中に黒い炎が混ざり始める。
「この火はまずい」
思ったときには、まとわりつき翼や体を燃やし始める。
普通の火と違い、あっという間に体が燃えていく。
いや食われていくと、言った方が良いだろう。
最後まで、相手の姿を見ることなく、俺の意識は消失をした。
「あっという間だね」
雅美が呆れたようにそうぼやく。
彼女は様子を知るために、風を放とうとしたが、どうやっても言うことを聞いてくれなかったそうだ。
ただ俺達は、その術に圧倒された。だが、未だに違いが分からない。
ほんの少し強い気がする。
ほんの少し、早い気がする。
ほんの少し、何かが違う。
だが、実際は相手を圧倒して、滅してしまった。
警察がやって来て、半分埋まっている黒ずくめの奴らが掘り起こされて連れて行かれる。
その脇で、倒れていた木がひょこんと立ち上がり、元の穴まで移動して、何もなかった様に落ち着く。
警官も、その光景に唖然としている。
鬼達を見つけて、連絡をしてから三〇分程度の事だった。
本家の居る町から、どうやって来たのか、それすら分からない。
気が付けば、町は平穏な夕暮れに包まれていく。
色は変化し、赤から紫、そして闇が降ってくる。
「帰るか?」
「そうだな」
結局俺達は、すべてが分からないまま家へと帰る。
その晩、見たことを脳内でシミュレーションをする。
技を練り、ダウンバースト。
そこから、火の関係者が放った火を、風に乗せて相手の周りへ導く。
「うん。難しくはない」
だけど、その晩私は、眠ることができなかった……
ずっと引っかかる違い。
それが分からない。
会合でも、既得権益にしがみついた本家筋。
たいしたものじゃないという人も居る。
だけどそれは本当なの?
やっていることは普通。
そう普通なのが、気になる。
今回宣言が出される前に、いくつかの分家筋がやられたと聞いた。
そう子物と違い、鬼達は手強い。
それを手順通り簡単に滅する。
それは本当に?
差が分からないのが怖い。
本家とは一体?
「にゃあああああぁ。お願い」
机の上に積み上げられた宿題。
朱莉はすべてを、俺に差し出す。
当然無視をする。
「私のすべて…… ねえ、颯司の好きにして良いから」
小さな、胸を左手で持ち上げながらお願いをしてくる。
右手は、短いスカートを少し捲りあげる。
どこでこんな、馬鹿なことを覚えてくるんだろう。
とりあえず、俺はぶった切る。
「違うだろ、宿題は自分でやれ、あまりひどいと極武さんが継いだとき、家を出されるんじゃないか?」
「ええっ、やだ。お婿さんを取って継ぐの」
「序列を違えるのは大変だぞ。とりあえず、暑い最中にわざわざ幼馴染みに宿題を全部持ってくるなんていう事をしてちゃ駄目だろ」
そんな時、雫がアイスを持ってやって来た。
光景を見て、一瞬止まったが、理解した様だ。
「宿題をしてもらうのに、色仕掛け。どこで覚えたの?」
「えーと、おしえて、よーって言うサイト」
検索をすると、炎の女あーちゃんというハンドルネームがあった。
「えーと、夏休みの宿題が大量なんです、どうにかなりませんか?」
「その答えが、かわいいなら住所教えて? すぐに終わらしてあげるから。 とか、賢い子に色仕掛けをすれば、彼氏もできて一石二鳥。検索をせよ策れば回答は落ちている」
とまあ、いろいろ。
「色仕掛けで、ねぇ…… ねえ、颯司から見て、朱莉と私、どっちが好き?」
軽い感じで雫からそう聞かれた瞬間、その場からすべての物音が消えた……
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