俺達は暗闇の底で、そっと世界を守る。
久遠 れんり
第一章 少年達の日常
第1話 風
その夜、俺は狸とにらみ合いをしていた。
「あの狐は俺達の獲物だ」
「
「我らの一族では、狐というのだ」
奴は目をそらしながら、もごもごと言い訳をする。
「そんな事を言って、お前のじいさんに聞くが良いのか?」
「くっ。いつもながら、口の減らない奴め」
相手は、坊ちゃん刈りの
土系能力者の本家筋。
俺達は、平安の頃からの同業者。
祭と言う文字は、祀りとも政とも書く。
総本家『祭』家の元『土』『風』『火』『水』の四家が各能力者を束ねる。
そして、その分家は、苗字にその属性を持つ。
そして今、俺達は中学生になり、本格的な修行が始まった。
「今日の目標は鎌鼬。春になって浮かれている奴ら」
そう奴らも、春は繁殖の季節らしい。
「このエリアは俺達の管理。出て行け」
「修行中は関係ないはずだ、それに手を焼いて取り逃がし、被害者を増やしているとグループ通知に来たぞ」
そう言うと、ぐぬぬと言う顔をする。
そう、関係者用のグループ通知。
結構ハイテクなのだ。
小物は一匹三千円。
俺達のお小遣い。
そして、この歳から色々な獲物に慣れるのは俺達の役目。
ただまあ、俺達に回ってくる対象は、親父達が、手を出すまでも無いレベルの物の怪退治。
「くそがっ」
そう言って、土祭君はたばこを咥える。
「たばこは、二〇歳からだぞ」
実は知っているが忠告をする。
「あんな物と一緒にするな、儀式用だ」
「対魔たばこか、もっと体に悪いぞ」
そう言うと、彼は吠える。
「力がある者には判らんさ」
対魔たばこは、一時的に能力を跳ね上げる。
だがその分、疲れるのだよ……
「時間内に見つけられるかな? 相手は素早いぞ」
「ぬかせ……」
そうして気配を追うと、すでに……
「あら、遅かったわね」
そこにいたのは、
鎌鼬一匹をぶら下げ、撮影中。
手元で、通知音が鳴る。
「うらーいぃ」
そう、アプリ、裏家業ラインの通知音。
「颯司も手ぶらなの? 珍しいわね」
「ああ、ちょっとコイツと遊んでいてね」
「いいわねぇ。余裕がある人は」
俺達の風は不可視で威力がある。
他の奴らからは、羨ましいらしい。
だが、複数出してコントロールをすると、割れそうに頭が痛くなる。
これは内緒だ。
風を周囲に散らし鎌鼬を探る。
うん? これは
だがその前に、大きなものが居る。
なんだか判らないが、あれはやばい気がする。
俺は、朱莉を助けるために急ぐ。
体の周囲に風を纏い、速度を上げる。
近くまで行ったが、先に叫び声が聞こえる。
「きゃあぁ」
夜中の叫び声、本当ならかなり遠くまで聞こえただろう。
風で層を作り遠くまで、声が行かないように防ぐ。
朱莉は鎌鼬に気を取られていたのか、腕を切られていた。
鎧の肩紐ごと。
相手は大鎌切。
体長二メートルほど。
両手の鎌が鋭く光る。
「朱莉離れろ。後ろには雫が来ているはずだ。手当てして貰え。それに紐を直せ。みえてんぞ」
そう肩紐を切られ、ついでにシャツまで……
朱莉のかわいく、ささやかな胸が見えている。
「なっ。見たわね」
現場から引きながら、怒る。
相手は鎌をブンブンと振ってくる。
そして意外とやっかいなのが、槍のような腕。
だが、鎌は切れなくとも関節は柔らかい。
短期決戦、四つの風を操作する。
危ない腕を落とし、首を落とす。
そうしないとこいつら、首を落としても攻撃をしてくることがある。
ついでに、振り返りがてら、逃げていた鎌鼬の首をはねる。
朱莉に文句を言われそうだが、仕方が無い。
逃がすよりは良い。
風を広げて探る。とりあえず、近場にはいないようだ。
「さてと、朱莉は無事に雫と会ったようだが、その後を陸斗が来ていたが…… ああ。雫の水かな?」
気にしたとおり、陸斗が十メートルほど飛んでいった。
炎の壁は使うと明るくなるから使わないだろうが、水に気を付けながら二人の元へ向かう。
「
腰に手を当て、朱莉が仁王立ち。
「だめよ。そんなささやかな胸くらいで」
雫から突っ込まれる。
「なんですって?」
取っ組み合いになりそうなとき、陸斗が声をかける。
「じゃあ俺でも良いな。何度も見たぞ」
そう俺達は、幼馴染みでライバル。
別にロミオとジュリエットのようなことはない。
能力は生まれながら持つ特性。
だが術の特性は、その家が与える。
どうやるのかは緻密だが、俺達には手術跡がある。
そう、子どもの頃からみんなで仲良く訓練をして、それこそ制御の出来ない頃は怪我もしたし、服も破けたさ。
そう体術や剣術も修行の中にある。
術だけではなく、近接の組み手は必須だしな。
投げ打ち決める。
拳から術を打ち込み、内部からの破壊なども普通に出来る。
そう、体術では今、みんな五分五分。
女子は小学校の五年くらいから強いのだよ。
身長とかも変わらないし。
でだ、せっかく陸斗が声をかけたのに、キャイキャイと言い合いガン無視。
俺は陸斗の肩をガシッと掴み慰める。
「もういないか?」
「ああ、この周囲には、いないな」
「朱莉の怪我は?」
「野良の大鎌切だ。倒したぞ」
「あれって、五千円か?」
「そうだな」
本当の妖怪にならないと、一万円は超えてこない。
物の怪と妖怪、境は曖昧だが、妖怪の方が強い。
そして、俺達には金額で返ってくる。
「早く妖怪を倒したい」
「そんな事を言ってると、出てくるぞ」
そんな事を言い会いながら、家へと帰る。
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