第40話 風の社
アマンダは朦朧とする意識の中で、それを見た。
小さいが、荘厳さを持った建物。
飄重殿達が掃除をしている。
だけど、子狸などは見ているだけで手伝っていない。
よろよろと立ち上がり、手伝わねばと社に近付こうとする。
「こらだめだ」
子狸に後ろから、抱きしめられて止められる。
だが身長差があり、子狸はアマンダの胸をわしづかみすることになる。
反射的に、柔軟を生かし、踵で狸の大風呂敷を蹴り飛ばす。
「んんがはっ」
ぱったり倒れて、痙攣を始めた。
「ふん。この体は、颯司のものよ」
自分でそう言ってから、悩み始める。
はて何時から?
当然そんな言葉を、交わした覚えもない。
そう素直な欲望。
「まあ良いわ。彼をモノにしてあげる」
そう言って進み出そうとして、今度は朱莉達に止められる。
「その先へ進むと死ぬわよ。結界があって風祭以外の人間は殺されるわ」
「一応、風祭の関係者ですが……」
そう答えると、思いっきり服を捲られる。
「はい、だめ。関係者じゃなく、関係しているだけの部外者ね」
服を捲られ、もろだしになっているアマンダの胸。
横で呻いていた狸は、別の意味で股間を押さえる。
その日彼は、封印がはじけたとか。
雫だけが取り残された。
「いい? 見ていて」
そう言うと朱莉の前に炎の壁ができる。
それは、朱莉の歩みと共に前に進むが、ある点がくると、シュバッっという音がしてかき消える。
「この通り、この社は風祭のものでそれ以外は近寄れないの。死体も残らないくらい裁断されるわよ」
アマンダの目は見開かれ、ゴクリと生唾を飲む。
それと同時に、関わってからまだ数ヶ月。
まだ客人であったのかと、少し悲しくなる彼女だった。
そういう理由ではないが、まだ彼女は知らない。
そして掃除が終わり、帰宅。
「それじゃあ、駐車場まで帰るぞ。夜道は危ないからな気を付けろ」
飄重が和やかに宣言をする。
そして、どうやったのか姿が薄くなり消える。
横に立ち、和やかな静と共に……
「おっ起きたのかアマンダ。帰るぞ」
和やかに颯司が出てくる。
スタスタとやって来ると、ガションとカラビナが掛けられる。
「下まで連れて行って」
朱莉と雫が颯司のしがみつく。
ついでに狸まで。
「じゃあ行くか」
そして引張られる。
「いや、ちょっと待って、そこ崖、崖、がっ……」
その日、百メートルほどの紐無しバンジーを体験をした。
おそらくチャンスは、一生に一度。
ママンにパパ。
我が儘だったわ、こんな異国の地で一生を終わるなんて、私は思ってもいなかった。それもこんなに早く……
ああ周囲の山々が、グリーンの絨毯のよう…… 綺麗。
ところが、風が谷から吹き上がってきて、速度が緩む。
その風はどんどん強くなる。
そして、地面から数メートルで、私たちは空中に浮いていた。
「ありがとう、颯司。アマンダは、早く洗って乾かした方が良いわよ」
そう言って、朱莉と雫は走っていった。
「乾かした方が良い? おう…… 」
「そうだな、川の方まで降りよう。明日の昼に駐車場に着けばいいし、つかなければ家へと歩くだけだしな」
そう言って、河原へと降りる。
私はズボンと下着を洗い、その間に颯司達は魚を獲ったり、お風呂を作ってくれたりしていた。
河原を深く掘り、水路を造って水をためる。
その中に、たき火で焼いた石を投げ込むと、水はお湯になる。
そして、土壁が張り巡らされて良い感じになる。
そう穴を掘ったりするのは、狸が行った。
狸は土祭 陸斗と申す者らしい。
幾度か言ったはずなのにと、泣いているが知らぬ。
湯に浸かっていると、体のこわばりが取れる。
成れない体験が、体をものすごく緊張させていたような気がする。
そう本当に…… 普通ならあんな、体験をすることはないだろう……
紐無しバンジー。
ううっ。思い出しただけで、またチビってしまった。
あっ、この風呂……
―― 私は何もしなかった。
出よう。
「颯司。出たいのだが」
「ああ、もう乾いている」
たき火の熱を風に乗せ、ドライヤーの要領で風を送っていたようだ。
颯司から下着を受け取るのは、何か恥ずかしい。
そうだ、何時からだろうか。
子供だと思っていたのに、何時からか私は、彼を男と見ている?
ううむ、日本人のためにすごく若く見える。
悪い事をしている気分がするが、数年すれば合法になる。
うむうむ。
「湯加減はどうだった?」
「少しぬるくなったが…… 」
「どうした?」
「いや良い風呂だった。うむ」
着替えてそそくさと、風呂場を離れる。
「じゃあ俺が入る」
狸が、元気に入って行った。
「俺も入ろうかな? 見張りは一人になるけれど大丈夫かな?」
「えーいや。不安だからもう少し」
そう聞いて、周りを見回し、彼は座り込む。
「そうだな、見張っていた方が良さそうだ」
彼の目は真剣だった。
私は、漏らした後の湯に颯司が浸かるのを、遅らせたかっただけだが……
その危険は、すぐ後に現れた。
首に襟巻きをした、えきまき熊が現れた。
後で、聞いたらツキノワグマと言うらしい。
まあその熊と、颯司が相撲レスリングをして、川へと放り込み追い返した。
その姿は颯爽として、私の胸はトクンと跳ねた。
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