第41話 私、人間やめました
「やれやれ、困ったもんだ」
襟巻き熊と戦い、疲れたの声だけで颯司は帰ってくる。
「強いですね」
「ああ、でも神事中だから、生き物は殺しちゃいけないんだよ」
それを聞いて、私は首をひねる。
そっと指を差す、その先には串に刺さって焼かれている魚。
「あーなんだろう、四本足? 二足歩行だから鳥とかまでは食べて良くって、それ以上はだめ? なんかそんな決まりがあるんだよ。もちろん魚も大丈夫」
そう言って少し困りながら、にっこりと笑う。
日本の謎こだわり。
しきたり……
敷居を踏んではいけません。
畳の縁も踏んではいけません。
パパさんの顔を、またいじゃいけません。
お箸を舐めないとか、色々とこだわりがあります。
ドアを開けっぱなしで、トイレに座っていてはいけませんとか。
本当に謎。
下着を着けていないと叱られるし。
フランスでは、逆に体を締め付けると怒られるし……
「おっ出たか。じゃあ俺も入ろう」
颯司がそう言って動き出すので、私は止める。
「ちょっと待った、あの大きさなら、お湯を代えないとだめ」
颯司が行くのを止め、不思議そうな顔をする。
「うん? あーそうかな」
「何で俺を見るんだよ」
悪気はなかったが、陸斗を見たら睨まれた。
「分かったよ」
別の所に、穴がボコンとできて、水が溜まり始める。
もうさっきのお風呂は、影も形もない。
狸の技も素晴らしい。
颯司は風を扱う。
朱莉は、火。
雫は、水。
不思議なこと……
「こら、もう脱いでいるから来るな」
「はっ、私ったら何を……」
皆が不思議と考えていたら、子供が欲しくなって、つい襲おうとしてしまった。
本能という物は恐ろしいわね。
すごすごと出てくると、狸が居た。
狸も雄だけど、なんとなく嫌。
そうそれは仕方が無い、私の中のパッションが反応しないの。
沈黙の中で、狸がなぜかもじもじしている。
じっと見る。
もじもじが激しくなる。
ふむ。おもしろい。
日本人のシャイさ加減は別格ね。
襟元を緩め、ちらっと見せる。
もじもじ……
もう少し広げる。
ガバッと開く。
もじもじを超え、向こうを向いてしまった。
つまんない…… あっ。
さっきお風呂に入って、下を着けていない。
胸をただで見せてしまった。
むうっ。
そんな事をしていると、颯司が出てきた。
こう言うのを烏が?? 行者?
「また着ていない。きちんと下着を着けないと、形が崩れるのにって母さんが言っていたぞ。アマンダくらい大きいと垂れるんだってさ」
そんなことを、静さんは、そうね。あの年でも凜としてつんと……
「それはいけません」
あわてて、下着を着ける。
颯司はもう慣れたのかじっと見てる。
狸は、顔を被い指の間だからチラチラと見ている。
ふむおもしろい。
そんな馬鹿なことをされたせいか、陸斗の封印は限界を超えた。
奇しくも、無数のおっぱいに追いかけられたようだ。
「おい、どうした、大丈夫か?」
颯司に起こされて、陸斗は飛び起き周りを確認する。
「あっ、ちょっとトイレに行ってくる」
そう言って下流に行き、ザバーンと音がする。
川に落ちたらしい。
だけど、ヘラヘラと笑いながら戻ってきた。
そう、狸さんは、パンツを汚していた。
それをごまかすために、飛び込んだ。
その朝から、陸斗は熱が出て、颯司は二人を抱えて走ることになった。
なんとか集合場所にたどり着いて、無事に帰る。
ただ途中、右に陸斗を抱え、左にアマンダを抱えて走ったのだが、衝撃がある度にアマンダから声が漏れ、それがものすごく気になった。
「あっ、あうっ。んあっ」
そんな感じで、もうね。
さて例年以上に過酷だったキャンプだが、アマンダはこれからお仕事がある。
まあ注意を聞き、受け入れるかどうかは、本人次第。
「さて、この結晶は昨日、社より頂いてきたものだ。これを心臓の近くに埋めることで、力を発することが出来るようになる。このように」
飄重殿が手を振ると、目が幻でも見ているかのように引きつけられる。
だけどその手の軌跡に従い、風が発生し空気が揺らぐ。
どうやって可視化しているのかは分からないけれど、それは確かに起こった。
静殿も、横で和やかに笑っている。
「分かりました、受け入れます」
「よろしい、それでは。この結晶の使用により、だれもが力を発揮できる物では無いことを承知し、それについて……」
なんかうだうだと、免責について説明された。
「いいかね」
「はい」
近くの、石の寝台に乗り、目を閉じる。
静殿がやって来て、小さなツボの栓を抜く。
何か甘い匂いがして、思わず息を止める。
すごく強力なデコピンが来た。
「息を止めない」
「はい……」
そして私は、意識を失う……
ふと気が付く、見知った天井だ……
でも……
体の節々が痛く、だるく、目眩まで……
起きようとして、胸の中心に痛みが走る。
それは、縫われたような傷ではなく、粘土か何かをこねて、指でこすったような跡。
「はうううっ」
呻いていると、静殿がやって来て何も言わず、またデコピン。
何かバットか何かで、フルスイングされたような痛みが走る。
「まだ、じっとしといて」
「だめです、漏れます」
そう言うと、寝たままできる、尿瓶とか言うものを持ってこられた……
「はい、しーっとして」
「できません」
「面倒な子ね」
ぐっとお腹を押された……
「あっあああ……」
「はい、お上手」
こんな苦労をして、私は人間をやめた。
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