第三章 暗躍する者達

第20話 封印

「おおい。この木だよな」

「そうだ」


 ある神社で、元境内だったところに生えているご神木、大人の事情で、神社の境内は分断されて、そこに道路を通すため、いくつかのご神木が切られることになった。


 請け負ったのは伐採業者。

 一応御神酒を揚げ、祈りお清めをする。


 クレーンで吊りながら、大きな枝から伐採を行っていく。


 そこまではよかった。


 だが幹を切り始めると、妙な感覚。

「おう、なんだ、チェーンソーの刃がはじかれる」


 もう少し上で切ると、緑青の浮いた銅の箱が木の中に埋まっていた、これは面倒な事になった。


 遺跡とかその辺りが出ると、調査が入り工事が止まる。

 伐採の期日は切られている。


「普通の遺跡とかとも違う、切っちまえ」

 だがそれは、最悪な判断だった。


 箱は切れた、ただ中の空洞には、人の遺体と剣が封じられていた。箱が破られたとき、何かが抜け出した。


 結局警察が呼ばれ、調査が始まった。


 そこに封じられていたのは、生き霊いきすだま、過去の怨霊。それも質の悪いもので、取り憑いた者ごと魔封じの剣で縫い止め封じていた。


 青銅の箱に入れて埋めた後、それを守るため木を植えたようだ。

 そのため、這い上がってきたまま、木に動きを封じられていた。


 その封印を破った。


 千年の恨みを持ったそれは、職をなくして公園でねていた男に取り憑く。


「よいせ。うん? この体、強者か?」

 千年前に比べ、日本人の体は大きい。

 少し勘違いをした様だ。


「それに、なんだこれは?」

 公園は良いとして、回りに見える景色は全く違う。

「石造りの塔……」


 奇妙な牛車が走り回り、騒がしい音。

 周囲を徘徊して、今の知識を少し得る。

 この男の意識は、取り憑いたときに眠りに入り、役にはたたない。

 

 小さな商店街だが、記憶にある古の時代とは違い、すべての店舗は大きく物があふれている。

 昔は、良心市が並んでいたようなものだった。


「ずいぶんと、変わったようだな」

 道行く人々も上等な服を纏い、履き物まで履いている。


 どう見ても怪しいが、見かけはうらぶれた浮浪者、人々は気に掛けない。


 だが、学校帰りにそれを見つけた者達がいた。


「おいあれ」

「ああ、巣を見つけて退治しようぜ」

「汚物は消毒。世のためだな」

 好き勝手に持論を述べる高校生達。


 切っ掛けは、塾の帰り、公園で一人の男にぶつかったこと。

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 卑屈にそう言った男を殴った。

 だけど、男は謝り逃げるだけ。


 それを追いかけたとき、人間の歪んだ本性を自身で感じる。

 弱いものを追い込む、狩猟にも似た支配欲、征服欲。


 彼は仲間と共に、その意識の気持ちよさを共感させる。


 学校で、意志の弱い女の子を見つけ、脅しておもちゃとした。

 そして、夜になれば弱い物を見つけて追い込む。


 反抗をしてこない相手に対しての、一方的な暴力。

 彼らは日々積もっていた、親や教師からの叱責、その鬱憤を吐き出す。


 俺達だって頑張っているんだ。

 成績が上がらなくても、仕方ねぇじゃ無いか。


「どうだぁ、和希。高校生でこんな経験。勝ち組だぞ」

「ありがとうございます」

 仲間の部屋で、塾の時間まで女の子に奉仕させる。


 暴力と言葉で脅し、写真を撮り、安全を確保。

 彼らはそう思っていた。


 所持品からそれが発見され、問題となるがそれを知ることは無い。


 塾でまたストレスを溜め、コンビニ帰り、公園へと向かう。


「獲物はいたか?」

「いやぁ、どこだ。いつもはこの辺りにいたんだが……」


 その矢先、公園内で火がたかれているのを見つける。


 それは、覆われよく見ないと気がつかない。


 だが、匂う。

 何か肉が焼かれている匂い。


 そう男は、ネズミを捕まえ、そのまま食えば病気になるくらいの知識はあるため、目立たないように火をたき、焼いていた。


 あの時代の普通。


「いたぜ、なんか焼いてる?」

「ネズミだよあれ」

「げー。勉強をしないとああなるんだぜ」

「やかましい。いくぞ」


 彼らは囲むように近寄っていく。

 彼女、役野 和希やくの わきは、彼らが暴力の後かならず、求めてくる事を知っている。

 そのため、帰らず待たされる。


 公園の藪の中、トイレ多分その辺りで……


「おっさん。駄目だよ公園で火を使っちゃあ」

 そう声をかけたが、じっと火を見ているだけ。


「前と反応が違ううな?」

「いいさ。少し壊れたか?」


 彼らは、人の怖さを知らない。

 人間、判断の基本は、自らの知識と経験が元になる。


 実際、目の前の男は憑依されたことにより、身体のリミッターが外れ、限界突破状態。


 薄暗い公園、男の姿がかすみ、殴られた。一人の首がいきなりズレ、頚椎脱臼で命があっさり無くなる。


「物取りか?」

 倒れた友人は動かない。


「おっおい、何しやがる」

 この時逃げれば、まだ命はあった。

「馬鹿野郎、お前は、泣いて逃げれば良いんだよぉ」


 死への、一歩を踏み出す。


 それは一瞬、頭がねじれ首が粉砕される。

 悲鳴を上げる一瞬さえ許されなかった。


 男は静かに、持ち物を漁るがよく分からない物ばかり。

「おなご、主も仲間か?」

 和希は、ふるふると首を振る。


 だが男は、小動物のような態度を見抜く。

「この世界のこと、ちくと教えてくれ」

 和希のお母さんは、飲み屋を営み帰りは遅い、家に彼を連れ帰ると、風呂にいれ、着ていたものを洗濯をする。


 亡くなったお父さんの物が着られて、食事と知識を与える。

 三日ほどいたが、丁度彼らの持ち物から画像が見つかり騒ぎになる前にいなくなっていた。

 

 彼女は探したが、見つけられることは無かった。

 情を交わしたが、奴らとは違う優しさに、本当の行為。なぜクラスの女の子が求めるのか。その意味を知った。行為中の暖かさと愛しさ。

 そして気が狂いそうな快感。


 そして、ある所にあった、暴力組織の上位が静かに入れ替わったという。

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