第二章 異物混入

第10話 海外産オタク。才能あり。

「ねぇねぇ、そこの彼女。観光? 俺ら時間があるから案内するよ。君、おもしろい格好しているね。その刀本物? 見せてくれるかなぁ」

 一人がそう聞き、もう一人も聞いてくる。


「うーん。そうそう。言葉は分かる? パスポートも見せてくれるかなぁ」

 そう、彼女に声をかけたのは、一般的には警官と呼ばれる二人。


 模造刀でも確かケースのでも入れないと駄目だったよなあ。

 彼女は、普通の忍者よろしく、背中に背負っている。


 その状態に介入するため、雫にお願いをして姿を隠し、警官達の後ろで不意に姿を現わす。

 彼女が変な人なら、これで釣れるはず。


 一応、手では、印を結ぶ振り。

 実際は指を組んでカエルを作る。

 親父達が子どもの頃、流行って居たようだ。


 実際の九字護身法くじごしんぼうも子どもの頃に覚えた。

 なんだか、かっこよく見えたんだよ。

「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」

 そう言いながら、シュパパと印を結んでみる。


 彼女はぽーっと俺をみていて、警官も流石に気が付いたようだが、なんだコイツとみている。

 身分証明として、我が家のバッチを見せる。

 そう、この地区にいる警官なら知っているはず。丈夫で燃えない身分証明は俺達のたしなみ。

 もし死んでも、これがくっ付いていれば、解剖に回らず本人確認で終わる。

 解剖されると秘術が施された体、非常にまずいのだよ。


「なんだぁ」

 若い方が怪訝そうにのぞき込み、すぐに気が付く。

「あっ。これは」

「お屋敷の御客人でしたか。護衛いたしましょうか?」

 少し年を取った方が気を使ってくる。


「いえ結構です。ありがとうございました」

 そう言って警官を追い返す。


 一応彼女の刀、目釘は抜いたので、抜こうとしたら刀身は鞘に残るはず。

 刀身を見ようとしたら、紙でも楔にして打ち込めば、簡単に刃は抜けないだろう。


 そう思っていたが、おとなしく帰ってくれた。


『九字って、中学校の二年の頃、必須だったよね。到る所で、臨・兵・闘・者と聞こえたもんだ』と、父さんが言っていた。

 俺達は、小学校で習った。


 まあ、それは良い、えーと。

「アイム、かざまつり。 ホエア、アー、ユーフロム」

「えーと、フランスです」

「あいしー。えーと…… えっ、フランス?」

 彼女が日本語を喋っていることに、気が付いた。


「はい。アニメ大好きで、日本語を覚えました。拙者、アマンダ・ストークいえ、ストーク・アマンダと申します」

 お控えなすってと言う感じで、説明された。

 大昔渡世人とか、香具師 《やし》が使っていた、仁義を切る方法。

 香具師とは露天屋さんのこと、ネット上では単に奴として使っているけれど。

 あの作法って知らないんだよね。


 まあざっと、生まれとか自分の略歴を言っう、ご挨拶なんだけど。

 世話になる家に、私はどこどこ生まれの誰べえですというようなかんじ。

 今度覚えよう。



「ねえ、その子どうするの?」

 とりあえず家へと連れて行くのだが。


「ああ詳細というか予定を聞くの忘れた。彼女の能力に惹かれちゃって」

「へーあるんだ」

 そう言っているとき、陸斗は3Dスキャナで撮影をしていた。

 最近のブームらしい。


 嘘だと思うが、CADで使うSTLファイルを読むと、土のフィギュアが作れるとか?

「颯司。我を見くびるな」

 そう言って、校庭に朱莉の裸像を造ったときは、死ぬほど殴られていた。

 でもそう言うときにも、あいつはデータ取りに夢中だった。

 避ける振りをしながら、素早く体を触っていた。

 朱莉は気が付いていなかったようだが……

 俺も特には告げ口をしないが、俺には見えた。


 そんな陸斗だが、雫には絶対手を出さない。

 出すと、確実に殺される。


 あいつは、俺らが九割方死んでいてもとぼける。

「あれーなんで?」

 そんな事を言って済まそうとする。


 その時は、本当の本当に、いとも簡単に殺されかかった。

 奴が、にっと笑った一瞬で、体を包む水の膜。


 一度包まれると、逃げられない。

 今なら俺は、風を使い吹き飛ばせる。

 だが、土祭の術では無理だ。

 ストローを作っても、あっという間に覆われるんだよ。


 水と土は相性が悪いらしい。

 土と風は、力の差が出る。

 強ければ、土の防壁を俺は破れない。

 だが、陸斗の壁なら、俺の方がまだ強い。


 火も、陸斗の術に防がれる。

 だが、朱莉の体術は別だ。

 衝撃だけが、壁を突き抜ける。

 気を練り込んでいるのだが、前は俺でもできなかった。



 奴の説明は体術が絡むと、飛び抜けてちんぷんかんぷんになる。

「気を錬って、体から拳にぐわーっと乗せて、いけーって。すると思ったように障害物は無視をするの」

「どうやって?」

 こっちは、無視をさせる方法が知りたいんだよ。


「だからぁ、異物にダメージを与えてもしかないじゃん。陸斗は壁の向こう側なんだし」

 バカじゃない? そんな感じできょとんとされた。


 その時、二度と朱莉から教えを請うのはやめようと、心に決めた。


 だが実際は、朱莉が言った『障害物は無視をするの』が正解だった。

 すべてはイメージ。

 壁の向こうで衝撃波を撃ち出す。

 拳の先で気を撃ち出すが、意識的に少し遠くで撃ち出すようにする。


 悔しいが奴の言ったことを理解できなかったのは、己の未熟だった。

 それ以降少し見直したが、今度は特に習うことがなくなってしまった。


 それにその事以外は、相変わらず、言うことを理解できないし。

『肩? 痛ければ外せば良いじゃん』『痛み? 痛くないと思えば良いのよ』『首? 一八〇度くらい回らない?』

 確かに、あいつは体が柔らかい。

 男には無理なものがあるんだよ。



 それはさておき。

「言うとおり、あるな」

 親父はそう言って、彼女を家に上げた。


「わー。忍者屋敷」

 そう言って、彼女は壁を叩き始める。

 隠し扉が開く。


 俺は言う。

「放り出すぞ」

 そう家は、色々と仕掛けがある。

 長年造られた秘密の抜け穴とか沢山。

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