第51話 憂鬱
「陸斗君ありがとう」
そう言って、仕事が片付いたと、嬉しそうに走って行く女の子。
たいした事はない。
職員室から、配布用の資料を持って来ていた女の子を手伝っただけ。
だが、陸斗の鼻の穴は広がり、喜びを噛み締める。
中学校の時は、たとえ近くに俺しかいなくとも、彼女ではないが女の子達は歯を食いしばり荷物を運んだ。そう何があろうとも、たのんでくることはなかった。
だが、痩せたのが幸いしたのか、最近は声をかけられる。
内容的には、ちょっとした手伝いや、小銭がないから貸して。
パンを買いに行くなら、これを買ってきて……
うん? 良いのかこれ? 近寄りがたい相手から、ぱしり?
まあいい、少しはましになったと思える。
高校生なんだ。
多少青春のいちぺいじに残る何かを……
―― おかしい。
雫と颯司の距離が近い。
「朱莉ちゃんどうしたの? 君の番だよ」
朱莉は男に囲まれ、休み時間に花札をしていた。
誰にでも適当にあわせ、人当たりの良い彼女は人気がある。
雫は、凜とした佇まいで気後れをするらしい。
颯司も同じタイプだが、女の子達はそんな壁を乗り越える。
だが、高校に入ってから、雫が必ず側にいる。
まあ部室水没事件もあったし、危険もある。
颯司が居れば安全。
だけどぉ。むぅー。
「ほい、月見で一杯」
「なんの猪鹿蝶」
「あー。俺の一人負け?」
「点差、一二〇点。和喜君の払い、千二百円ね」
「だああぁ」
どうも一〇倍レートで掛けているようだ。
最大点差でも二六四点。だが、高校生には辛い。
そもそも、和喜と葛野が朱莉を負けさせて、デートに誘うつもりだったが、花札と言われて負け続け、小遣いを毟られる状況になっていた。
それは先生に、花札を没収されるまで続くことになる。
端から見るとそれは楽しそうで、殺伐とした本人達と違い周りはほのぼのした感じで見ていた。
「朱莉は男子に人気があるな」
「何? 焼き餅?」
「いや、そういう訳じゃない」
「そう?」
颯司達は、その光景をほのぼのしていると見ているグループだ。
そんな光景を見つめている、大部分のグループ。
主役になれないクラスのモブ達は、なんとかして切っ掛けを掴み仲良くなりたいと願うが、なかなか歩み寄れない。
特に、雫は指定されている、組織の娘だと噂が流れている。
彼女の周りで騒ぎがあり、そうそうに幾人もの人間が学校からいなくなった。
きっとバラバラにされ、海に撒かれたとか言われている。
颯司に声をかけ、雫の逆鱗に触れると消されてしまう。
そんな話が、まことしやかに……
そんな中、一人の女の子は困っていた。
この春くらいから、お父さんとお母さんの雰囲気が変わった。
元々、仲はあまり良くなかったのだが、お父さんの様子が変わりお母さんが激怒していた。
それからは、口をきかない日々が続く。
そして、日常生活の中で、たまにお父さんが固まる。
その様子が気持ち悪い。
姿形はお父さんなのだが、本当に人間だろうか?
一人の女から広がった感染。
元々浮気をする人間は、貞操の垣根が低い。
感染は簡単に広がっていったようだ。
その数は、まだ少ないが彼の希望である国家の掌握。
そのために動き始める。
先ずは経済的な独占。
株などを公開している以上、危険性はある。
繋がりのない個人投資家の株がある日集まる。
それは企業にとっての恐怖でしかない。
そして、武。
人数こそがすべて。
ニコニコ顔の警察官が、いきなり武力ほう起。
そんな望みが、今静かに広がる。
そして、個人レベルでは広がりが弱いため、そういうサービスの所に幾人かが通い始める。
その嬢は売り上げが悪く、せっかく来客を離したくなかった。
それに、いま目の前にぶら下がった三万円。
それを受け取り、本番をしてしまう。
そして、感染をする。
そして避妊具無しならば、口からもうつる。
そう、町を越えて、急激に広がり始めた。
それは前回の鬼そうどうとは違い、目に見える被害者がおらず発見が遅れる。
いきなり企業が乗っ取られ始めるまで、気がつかない。
数ヶ月後、
颯司のクラスメイト、
「ねえお父さん。お母さんと別れるの?」
「うん? 何でそう思うんだい」
無表情で彼は振り返る。
この数年夫婦仲が悪く、お父さんは思い詰めて表情が乏しくなっていた。
だけどこれは、おかしい。
「―― お父さん。私の名前…… 分かる?」
「おかしな子だな、当然さ……」
その時、丁度リンクを通じて、祐一が情報を拾ってしまった。
そう、感染者に時折起こるフリーズ。
それはわずかな時間だが、タイミングが悪かった。
「愛美、どうしたんだ一体?」
言葉を紡ぐまでの一瞬。
それがひどく奇妙に思えた。
その事を切っ掛けに、彼女は翌日颯司に声をかける。
どっちが主かは分からない。
「ねえ、風祭くん。助けてほしいの」
雫と二人がこちらを向く。
うっ美男美女の迫力。
だがそれに負けず、ひょっとすると、颯司の守備範囲に私もはいるかも。
彼女は今日声をかけるため、お肌のケアと眉毛を整え、十分に睡眠を取って準備をしてきた。
朝から普段は浴びないシャワーまで浴びて。
「うちのお父さんが、おかしいの」
「へぇ??」
突然そんなことを言われても、困惑をするしかない。
「井戸口さんの御父様、関西の人なの?」
雫もそう思ったようだ。
お父さん、おもしろい人なんだぁ……
彼女はその反応で気がつく。
「多分二人が思ったのは違う……」
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