第4話 風

 颯司は昨日と同じ所に立っていた。

 あれから、親父殿に鎌切が出たのが気になると言われて、調べに来た。


 他の連中は、今頃むじなを追いかけている。

 最近狢というとアナグマのことを言うようだが、界隈では人を騙す奴ら。

 つまり、物の怪だ。


 酔っ払いのオッサンが、屋台の肉まんを買うと泥団子だったり、女の子に誘われ付いて行った後、稲の植わった田んぼの中で裸で暴れていたりしたらしい。

 大事な所を、ヒルに食われたとか。



「風よ、吹き抜けよ」

 薄く広く探査をする。

 何が出るとか、明確に判っていない調査というのは、非常に面倒で手間がかかる。


 風祭 颯司が、一人野原で調査をしている頃、他のみんなは、狢を探していた。


「あれーいないわよ」

「そうねえ。颯司どうしたのかしら?」

 かみ合わない会話。


 そして、約一名追われていた。

 どう見ても、人間のやばい組織に絡んだような人達。

「畜生なんだよ」

 そう物の怪と違い、あやかしや、妖魔などは人間に取り憑いたり化けたりする。

 そして、そういう奴らは真面目な仕事に就くことは無い。


 そう親父どの達の仕事、何かがあったのだろう。

 小遣い稼ぎのために家を出てからすぐに、複数の人間に追いかけられている音に気が付く。

 そう地面からの震動は、俺に情報を伝える。


 奴らと、離れた所に妙な動きをする車。

「あー面倒」


 本当はしたくないが、道路を陥没させる。

 多くは水道が原因とされているが、親父達の戦闘のためだったりすることもある。

 

「ちっ。回り込め」

 足止めをしたが、二チーム十人ほどが、俺を追っている。

 俺はみんなを巻き添えにしないよう、昨日の草原へ向けて走って行く。

 こんな事なら、鎌鼬を殲滅するんじゃ無かった。

 そう思うがもう遅い。


「異常はないなぁ。昨日のやつが単なる野良なのか、山の方から降りてきたのかだな…… うん? これは、陸斗? あいつ間違えたのか…… いや。ああそうか」

 そう言うと、颯司は風を投げる。



「ぐわっ」

 追いかけていた奴らのアキレス腱がはじける。


「うん? なんで」

 陸斗はキョロキョロと、周りを探す。


 すると、震動も無しに颯司が現れる。

「またお前は、震動くらい出せよ。今日は違う場所だぞ。間違えたのか?」

 忍び足モード。風で体を浮かせている。

 真面目に使えば、普通の階段で、エスカレーターごっこが出来る。


「馬鹿言え、昨日の鎌切が気になるらしくて、親父から特命だ。お前は何をしたんだ? 十人か?」

 わざと周囲を見回してみる。


「判らん。家を出たら追ってきた。俺のファンだろう」

 俺を見て、安心をしたのか、陸斗の顔から力が抜ける。


涙活るいかつじゃなく、絶活ぜっかつの同士か。不毛だな」

 奴らの装備、無線やバッテリーのケーブルを切断をして、孤立させると、周囲をつむじ風で囲う。そう鎌鼬を創る。触れば危険。サンドブラストタイプで色々なモノを削ることが出来る。


「絶活って何だよ?」

 変な顔をしながら聞いてくる。


「絶望活動。社会生活に絶望した者達が集い、安寧を求めて崖から静かに飛び降りる…… 増しに、まします。…… ラーメン」

 神への言葉は、有名店へと変化する。ああ信者がいるから使う言葉はにたようなモノか。

『天にまします我らの父よ、ねがわくはみ名をあがめさせたまえ』

『全部まします、我らの父よ、ねがわくはお山をあがめさせたまえ』

 一緒だな。

 また、つまらぬことを考えてしまった……


「なんだ、その不毛な活動」

 そんな事を言う陸斗は、放っといて、風に導かれて集う彼らに問う。


「さっき俺が言った。でだ、あんたら何者かな? 日本じゃ銃は禁止だよ」

 彼ら、手に手に銃を持っている。

 コンバットコマンダーかな? 米国の支給品か?

「黙れ。化け物共がぁ」

 短気なようで撃ってくるが、俺の風はそんなモノじゃあ突き通せない。


 風だけではなく、中に色々飛んでいるのだよ。

 そう思ったが、抜けてきた。

 まあ随分それてはいるが……


「あぶねえなぁ、当たったら怪我をするじゃないか」

 撃ったやつの銃を手ごとすりおろす。


「うがぎゃあ」

 奇妙な悲鳴。


「他の奴らも、物騒なモノを出すなよ。股間の大事なモノを切り落とすぞ」

 相手が男だと、この脅しは意外と効く。

 ついでに少し温度を下げた風を通す。

 どうだ冷たいだろう。

 陰圧にすれば、気温は下がるんだよ。


「やめてくれ。我々は…… 国の者だ。我々が追っていた事件に首を突っ込まれて。つい」

「親がやった仕事に対して、子どもを拉致してどういう了見だ? 一度死んでみるか?」

「そんな事をすれば君達だって罪に……」

「なると思うか? ここは丁度鎌鼬の目撃例が挙がっている場所。不幸でしたね」

 わざとらしく、ゆっくりと右手を挙げる。

 


 無論単なる脅しだ。意味は無い。

 だが、勝手に勘違いをしてくれたようだ。

「それはすまない。だが、そこの土祭の家は会ってもくれず、詳細は陛下に聞けなどと……」

「まあ陛下は知らないだろうが、その周囲を探れば、きっと拉致され説明くらいは聞かせてもらえただろうに。その後、命がどうなるかは知らんが。まあ今更一緒だけどね。国家安全管理局、国家脅威対策室? なんじゃこりゃ」

 彼らは、あわてて身分証明を探す。

 だから今読んでいるモノが、そうなんだが。

 無くなったのに気が付かなかったようだ。


 その晩、全員分の身分証明は親父に渡した。

 彼らは、帰したよ。ボロボロだったけど。


 そして俺達は遅くなってけれど、狢を探しに行く。

「おい待てよ」

「やせろ」

 二人仲良く……

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