第3話 土
俺は土祭。
代々自分たちも持つ能力を使い、魔のもの。
妖怪などを狩ってきた。
陰陽師とかの係累だと思うが、文献が戦国の世で失われて残っていない。
一時期は、
父上が使う防壁は強固で、他の家の者が使う術には負けない。
だがどうしたって、地味なため。その辺りが残念だ。
さて…… 今日は、臨時収入が入った颯司のおごりでカラオケに来ている。
いつものことだが、今、俺一人が歌い続ける。
歌は、まあ、野坂昭如さんが歌った黒の舟唄とか。
歌詞がいい。
この歌が言うように、男と女にはわかり合えない理由があるんだ。
そう、きっと目には見えないが、深くて暗い谷が……
「はい、あーん。それでさあ、床にたれるまで誰も教えてくれないんだよ。ひどくない」
そう言いながら、まるで生け花のように、颯司の口にポテトが差し込まれる。
「それまで、起きない方がすごいな」
どうやっているのか、普通にしゃべる颯司。
ああ、風をつかっているのか。
「そう。だからね。寝ていたら何されても起きないから」
そう言って、雫が変な顔をしているのは、ウインクをしようとして、できていないのだろう。
そして、よだれストレス解消なのか、さっきから颯司の口に、あーんと言いながらポテトを突っ込んでいる行為は止まらない。
カラオケに来て、颯司と雫は二人の世界。
朱莉は、珍しくレポートをひたすら書いている。
『有効な毒殺と草花?の混合についての考察』?
そっとしておこう……
雫は、お嬢さんぽい。
黒髪ストレート、ちょっときつめの挑戦的な切れ長の目。
朱莉は火の家系と合う感じで短髪。刈り上げでは無くショートボブ。
少し尖った顎だが、目はくりっとしている。
二人とも、まだ体も成長中でガキっぽい。
うおっと、何でか二人に睨まれた。
俺はプリティな体つき。颯司は俺の髪型をおかっぱと言うが、普通のツーブロックでもみあげが無いだけなんだが……
つまり、ほとんど颯司と同じ髪型なんだよ。
顔が少し丸いだけで、イメージがかなり違う。
颯司の方がちょっと、顎がスリムで、二重で眉がキリッとして。
目は二つだし眉も二つ。
鼻は一つだし口も一つ。
同じじゃねえか。
目が一重で、ちょっと太ったから、鼻が団子だけど、口はキュートだし……
身長も変わらないし、体重は勝っている。
いいや……
誰も歌わないから、おれは『船を出すなら九月』を入れる。
レパートリーは多い。
『うらみます』や『世情』。
中島みゆきさんから離れて、『兄妹心中』『呪い』 とうぜん山崎ハコさんだ。
『奇妙な果実』も良い。
昔アメリカでは、木に黒人がぶら下がっていた時代があった、それを歌った曲だ。
忘れているが、俺はまだ十二歳。
十一月が誕生月。
漢字で十一は土になるだろう。
クールだ。
そして、小学校四年くらいから、雫達に身長で負け、勝たなきゃと一生懸命食べたら、まあ横に増えた。
まあ土系列は、盾と同じだから体重はあった方が良い。きっとね。
畜生、またいつものことだ。
ドアの所や壁の隅に、俺の曲を聴こうと人がやって来る。
仕方が無いから、颯司の肩を叩く。
振り向いた颯司。ポテトを目一杯突っ込まれて、怖いよ。
指さすと、理解をしてくれて、室内を浄化の風が吹き抜ける。
からっとした、聖なる爽やかな風。
それだけでギャラリー達は、苦しみもだえながら強制的に浄化される。
浄化系は、俺以外使えるが、颯司以外は、物理的損害が出るから駄目だ。
土も実は出来るらしいのだが、父上があまり教えるのを喜ばない。
そう土による浄化。
それは確かに、出来る。
だがその浄化は時間がかかり、四十九日間。夜な夜なその断末魔の声が繰り返し聞こえる。
風や火、水による浄化の方が早い。
結局、一時間は俺のオンステージ。
その後は、リポートの終わった朱莉が『ライオン』を歌い出す。有名アニメのオープニング。
そこから、いきなり三人が参戦をし始める。
悩むんだよ。
昔からの連れだから、誘われると付いてくるけど、俺本当に来て良いのかなって……
「ばかだなあ、俺達は先祖代々の繋がり。いつも一緒で連携を取らなきゃ駄目だよ」
颯司はそう言ってくれる。
だけど、いつもいちゃつくお前たちを見るのは、心に来るんだよ。
あれは、小学校の高学年から思っていた事。
颯司は別だが、気が付いてしまった。
こいつらに負けたくないという気持ちや、女のくせにと言う俺の心の裏返し。
それは、二人に対して俺を見て欲しい。気にしてほしいと言う気持ちだった。
それが好きだからだと…… 最近俺は判った。
無論、まだそれが恋だとか、愛だとかなのかはちょっと判らないし、たぶん違うと思う。でも家族とも違う。何か判らないモヤモヤ。
でも、誘われないと辛い。
こうして毎回、カラオケでもゲーセンでも、出かけるとなぜかストレスを溜めて家に帰る。
「押忍。お疲れ様です」
門下生は、俺を見ると挨拶をしてくる。
「よし来い。だれからだぁ」
そして、心に抱えたもの。そのモヤモヤのおかげで、俺は強くなる。
「陸斗坊ちゃん。また機嫌が悪いのか……」
「どうもその様だな。お互い怪我をしないようにしよう」
「そうだな」
とばっちりは、門下生達に投げられる。
「ナニをしている。来い」
「はい。よろしくお願いします」
土祭流は、一撃にすべてを掛ける。
風祭のような、スピード重視のひらひらでは無い。
かといって、水祭のようなすべてを受け流す、パリィがすべてでも無い。
火祭は家と風祭の中間。
ひらひらとしながら、苛烈な一撃が来る。
だがうちは、何処まで行ってもどんと構えて、一撃。
男の、剛の剣であり、拳。
どちらにしろ一撃。
だけど。くっ、今日は汗が目にしみるなあ。
男の子だもん。大丈夫。
「さあ、つぎぃ」
今日も彼は、夕日の差し込む道場の中。青春の何かをすべて、周りを包む赤い光の中で吐き出す。
頑張れ陸斗。
君のことを見てくれる目はきっと近くにある。
「あれが、土祭のぼっちゃんか……」
「ああ、そうみたいだなぁ」
―― ほら、すぐそこに……
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