第45話 過去の話

「おい、お前誘ってこい」

 横山 晃司よこやま こうじはクラスのいじめられっ子。


 始まりは、一年のくせに彼女がいるなんて、生意気だと訳の分からない理由だった。

 その子が本当に彼女なら、問題がないわけでも無いが、単なる同中で話をしていただけ。

 そして先輩は、俺達にも愛情を分けておくれと彼女にねだり、股間を蹴られて逃げられた。

 それでさらにまあ、生意気だと……

 もうね。


 そして、同じ部活に所属をするクラスメートまで、彼をぱしりとして使うようになった。


「水祭さんを? 本気ですか?」

 話を聞いて驚いた。


「ああ、なんだそりゃ? てめえ、横山のくせに意見するとは百万年はええ」

 そう彼女の家は、旧家で、武道か何かを教えていて、門下生には警察官とか暴力組織の人とかが居ると噂になっている。


 へたに関わると沈められる。

 そんな噂が立っていた。


「まあ良いですけれど、知りませんよ」


 そう言ったら殴られた。



「すみません。そういう事で行ってもらえますか?」

 説明をすると、彼女はきょとんとしている。

 初めて身近で見たけれど、まつげは長く、色白で、本当にお嬢さんという感じ。

 噂では彼女も怖いと言っていたが、そんな感じには見えない。


「ええと、すみません。よく分からないけれど、部室で同級生とか先輩が私を襲うために待機しているから…… 行って欲しいと聞こえたんだけど……」

 全くその通り。

 俺はうんうんと頷く。


「そうです。中に居るのは屑ですので、海に沈めるなり山に埋めるなり好きにしてください」

 俺はそうお願いをする。


 ついぎゅっと手を握ってしまった。


 彼女はじっと見てくる。

 手は繋いだままで、特に嫌がられていない。

 こっちがドキドキしてきた。


「ひょっとして、虐められているとか?」

「はい、そうです」

 そう言うと、うーんと、彼女は悩み始める。


「分かった何とかするから、手を離してくれる?」

「あっはい、すみません」

 手を離すと、一瞬彼女の手が霞んだ気がした。


 雫は、手をミストで消毒をした後答える。


「約束は十六時なのね?」

「はい、そうです」

「分かったわ、潰してみるから。安心をして」

 彼女はそう言って、ニコッと笑ってくれた。


 マジ天使だ……

 俺は、姿が見えなくなるまで、見送る。

 まあ教室目の前だから、二秒くらい?


 その日、これでいじめがなくなると考えたら、ものすごく嬉しくなった。

「はっ、後日、菓子折とか必要なんだろうか?」

 

 などと考えて、いたらあっという間に放課後になる。

 クラスから、ニヤニヤしながらいじめっ子達が出て行く。


 雫のクラスでも、幾人かが嬉しそうに教室を出て行く。

「なんだあれ?」

「うーん。エアサッカー部の連中が、部室で私を襲いたいらしいのよね」

「部室で襲う? なんだそりゃ?」

 そう聞くと、分かっているくせにと、雫の肘打ちが、颯司の脇腹を襲う。


 パシッと払うと、雫はくるっと回り力を逃がす。

「私に興味があって、色々としたいみたいよ」

 そう言って雫は、颯司をじっと見る。


 未だに、誘っても手を出してくれなくて雫は悩んでいた。

 嫌いなの? そう聞くと好きだよと答える。

 でもそれは、朱莉にも同じ。


 思春期のギクシャクの中で、連携のために付き合いもありかと思うが、ギクシャクしだしたときには、命が危ないと颯司は考え一歩が踏み出せない。

 無論、どっちと付き合うという問題もある。


「行こうか?」

「あーうん。潰したいからさ、先生も呼んできて、コミュニケーションアプリにメッセージを送るから分かった。うーんすでに準備はできて、部室棟の両側に見張りがいるな」

「分かった、行ってくる」

 そう言うと、ぎゅっと抱きついてくる。


 つい普段のつもりで、儀式をする。

 そうお小遣い稼ぎで、一度ミスった後、このおまじないを望むようになった。


 だがここは教室。

 音が止まる。


「じゃあ行ってくるね」

 そう言って、雫が出た後、ざわざわが始まる。

「うーん。あれ良いわね。私もしよう」

 朱莉がニヤニヤし始める。


「あの後、雫は怖かったらしくてね」

「ああ、あの時ね」

「それでまあ、戦うための儀式が始まったんだ」

「むう。私も怖いのぉ」

 朱莉がそう言うと、後ろから声が聞こえる。


「私も怖いのぉ…… ……さあ、職員室へ向かっておこうぜ」

 陸斗がそう言って、抱きついてきたので躱す。


「ああ、そうだな」


 そうして待っていると、『たすけてえ、犯される。エアサッカー部の部室』とメッセージが来る。

「先生大変です。学内で、強姦事件です」

 そう襲われているとか行っても動かない。

 重要であることを伝える。


「そんなばかな、ふざけた……」

 たまたまいた先生だが、俺達の顔をみて固まる。


 そう俺達が絡むと、小さな事件でも大きくなる。

「場所はどこだ?」

「エアサッカー部の部室です」

「あいつらか……」


 エアサッカーがどういう部活か知らない、商品としてホバータイプの円盤はある様だが、それとは関係ないらしい。


 少し前。

「おっ、本当に一人で来た」


 つかつかと近寄り、部室のドアを開ける。

「あなたたちも仲間なんでしょ? 入ったら?」

 そう言って外にいた二人を中に入れ、ドアを閉める。


 その瞬間に、部室の隙間から水が噴き出す。

 最初は、きちんと襲われるつもりだった。


 そう考えたのだが、触れられるのはもってのほか、目付きも、空気もすべていや。どう考えても我慢ができないと思い、どうせ中に居るのは、汚物ね。汚物は丸洗いと、短絡的に決めた。


 朱莉なら丸焼きだから、それよりはましだっただろう。

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