第22話 無慈悲な宣言

「昨日の勉強が…… 記憶が消えてるぅ」

 朝っぱらから、朱莉が叫ぶ。


 昨夜は、物の怪達がおかしかった。

 妙に空気もざわついていた。

 そしてあれは……


 気が付けば、皆夕方まで爆睡。

「やば」

 いつもの様に、指令に従い飛び出す。


「なあに? 子鬼が活性化?」

「珍しいわね」

 そう言いながらも、川の上流へと昇って行く。


 水の流れは、時に向こうの世界と繋がる。

 滝となり流れ落ちるところを念入りに探していく。


 こう言うときは、雫が強い。

 水は、雫の意のままに動き流れを変える。


 空間のゆがみを風で読む。


「無いぞ……」

「うん。水のよどみも無い」

 ふと見つめ合い、下流へと向かう。

 たまに洞、つまり暗渠とかのトンネルが繋がることがある。


 走っていく俺たちを見て、遅れていた陸斗や朱莉が、ニタニタしながら追いかけてくる。

「探査ご苦労様」

「ああ、上の方にゆがみはない」

「じゃあ、側溝とか暗渠ね」


 川が少し広がり、交わる川が増える。


 皆が別れたとき、この世の物では無い空気が、瘴気をもって吹き抜ける。


「あっちは、朱莉。大丈夫か?」

 追いかけて少し上流へ。


 すると、川の法面のりめんぽっかり空いた暗渠の出口そこから、怪しい空気が流れ出ていた。


 その風に当たると、体中を虫が這い回るような不快さを感じる。

「朱莉」

 水に体が半分浸かり、岩にもたれるように倒れていた。


 声をかけると目が覚めたが、言うことがおかしい。

「うん。頭が痛いから、キスして」

「ふざけるな、頭から血が出てる」

「うん。わたし初めてだもん……」

 これはいけない。相当強く頭を打ったようだ。


 治癒の風と、浄化の風。

 浄化の風は、この一帯を包むくらい広く、そして強く。


 すると、空間の揺らぎは消えた。

 朱莉を抱えるように後頭部を見ると、血は止まり、傷もなくなっていた。

「なんか、反応が良くなったな」

 治療といっても普通はもっと時間がかかるのに、スパッと治っている。


 まあいい、後は、出てきた子鬼を見つけて、滅するのみ。

 朱莉を抱えたまま、上の道路へと飛び上がる。


 風を広げ、注意深く探す。


「いた、一と二。三これで終わりか?」

 見つけた瞬間に切り、そして払う。

 向こうの者は浄化をしないと蘇る。


 抱っこされながら、ぼーっとしていた意識が蘇る。

 あれ? 颯司……

 さっき何か言った気がする。

 あー。キスしてとか言ったよね。


 はうううっ。恥ずかしいぃ。

 そして、現在進行形で抱かれている。

 そう抱かれている。

 颯司に抱かれて…… 言葉にするとえっちぃ。


 この前封印が取れ、気持ちがまだ不安定なようだ。


 腕の中で、怪しくうひゃうひゃと朱莉は喜ぶ。

 おかげで、雫達が来たときには、なぜか足が立たずガクガクしていた。


 だけど……

「これは駄目だな、送っていくよ」

「えっ、それならあたしが持つわ」

「いえ大丈夫です。颯司お願い」

 雫の申し出をぶった切る。


 抱っこは、おんぶに変わるが、颯司の手が私の太ももに食い込み、私お股の敏感なところが良い感じにこすれて……


 ズボンが濡れていてラッキーだったわ。

 そう連れて帰られ、私はシャワーを浴び……

 時間が無いのに一時間も。


 かなりのぼせて、布団に入り、また手が勝手に……

 私何時からこんなにエッチになったんだろう……

 前からだね。

 ただ前はこんなに気持ちよくなかったぁ……


「朱莉。朝よ起きなさい」

「へっ? 朝?」


 私は最悪な朝を迎える。


「今日のとこ覚えているか?」

 数時間ぶりの、颯司。

 顔を見るだけで、色々と思い出して、顔が真っ赤になるし、体も反応をする。


 ウヒャーとか言いたい。

 毎日こんなのだと、私死ぬかもしれない。

「朱莉、大丈夫か?」

 颯司に手を引かれる。

 ちょっとふらついたようだ。


 彼の手が、額にやって来る。

 ああドキドキが、止まらない。

「熱くないか?」

「どれ?」

 雫の手は、まるで超低温。


「ひゃっ」

「大丈夫よ。この猿」

「えっ? 猿?」

 雫が口パクで伝えてくる。


さかるんじゃないわよ」

「盛るってなに?」

「言って欲しい?」

 雫の指が私のお腹の方を指さす。


「あっ…… 結構です」

 自分では分からないけれど、人だと匂いが分かるらしい。

 シートを引いていても、やっぱり駄目だとか。


 もう頭がうひゃうひゃ状態で、学校へ行き……

 私は寝た。


 ええ、学校へ行き、席に着く。するともうパブロフの犬状態。

 テストだからと気合いで昨日は乗り切ったのに、今日はもうだめ。

 背筋を伸ばし、なんとか起きようとする努力ポジションのまま、陸斗のように寝たらしい。


 友人が見ると、努力をしたせいか、半眼で白目だったらしい。

「無表情で、半眼で白目。背筋はピンだもの。シャーペンはきっちり握って……」

 そう言って笑っていた。

 後ろなんだから、起こしてよね。


「ああ、そうそう。先生が言っていたわよ。『点数が足りない子は補習をします』ですって」

「えっ何時?」

「当然今じゃないでしょ、休み。夏休みに頑張れ。高校の特進クラスみたいでかっこいい」

 思わず、ケラケラ笑う友人を燃やしたくなった。

 能力の無駄使いは駄目ね。


 警察には捕まらないけれど、一〇年くらい座敷牢で反省させられそう。

 今日だけで、四教科真っ白。

 昨日は…… 名前くらいは書いたわね。

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