第34話 恨み溜て

 そいつは、どのくらいの時を経たのか分からない。

 戦国の世で、沢山のもののふ達が夢破れて散っていった。


 地の農民達が、穴を掘り、転がっている者達を埋めた。

 そこには、碑の代わりに川の石が一つ立てられた。

 そして時が経つと忘れられ、その山里は、森に埋もれた。


 周囲に町が有り、そこで起こった出来事。

 人の生活など、上手くいけば良いが、人の暮らしなど千差万別。

 恨みそねみ、そんなものがたまたま中心となるこの地に流れてきた。

 そしてたまり、やがてドロドロしたものは実体を持ち、周囲にあった骨を利用して妖怪へと変化をした。


 夏の暑い盛り、祭や花火大会で盛り上がる中、闇の中にそいつは現れた。


「最悪……」

 周囲では、異常が起こったため花火大会を中止する旨、アナウンスが流れている。


「やばい、急いで買わなきゃ」

 そんな事を叫びながら、朱莉が走っていく。

 周囲では、朱莉の言葉とは少し違い、やばい逃げなきゃと叫び声が聞こえる。


「アイツ浴衣を着ている自覚がないな。しかしなんだありゃ?」

 小高い山を下りてくる骸骨。


「さあ? 骨っぽいしなんだろ」

 そんな事があっても、雫は颯司の腕を放さない。

 今日は皆、浴衣を着ているから、ふにょん感が強め。


 アマンダが最近颯司と距離が近く、待ち合わせ場所にも腕を組んで現れた。

 彼女は、なんとなく、何かを狙っている気がする。

 速やかに、颯司の左側を雫は確保をした。


 そうして会場へ来たのに、これだ……


 当然だが、皆があの妖怪に気がついたのだろう。

 半狂乱で走っていく。

 山の中腹、住宅地が踏み潰され、まるで怪獣映画のよう。

  


 そんな中で、朱莉は必死でものを買い集める。

 店主も投げ売り状態。

 朱莉と見つめ合い、無言で値段交渉が決まる。

 五個買いな。一個おまけしてやる。

 乗ったわ。

 そんなやり取りがされる。


 大量の焼きそばとお好み焼き。

 イカ焼きと、たこ焼き。

 荷物持ちの陸斗が、そろそろ効率的な持ち方について、考察を始めた。


 そんな時、生暖かい風が吹き抜ける。


 山の方では、風に乗った炎が、花火のように舞い踊る。


 だが通常の炎では燃えず、色が変わる。


 浄化の風。

 浄化の炎。

 それは白く輝き、大きな骨を包み込んでいく。


 だが、奴が吠えた。

 その音圧は、周囲を囲む風と炎をはじき飛ばす。

「ありゃなんだ? あれ? 浄化をはじき飛ばした」


 利用する人の居ないテーブル席の一角を占拠して、俺達は親父達の戦いを眺める。


 たこ焼きと、御茶で。

 周りでは、人達が走り回っていたが、俺達の様子を見て、足が止まる人が出てきてしまった。


「おわっ、なんだあれ」

 若い男が、骨の固まりを指さす。

 その周囲を回る、白い炎たち。

 浄化の風は、白きオーロラのようにゆらゆらと輝く。


 だが足元では、足止めされたために、住宅が踏み潰されていく。


 足元の赤い炎、上空の白い炎、中間の骨。

 それは、幻想的な、巨大な何かのオブジェのように見える。


「綺麗……」

 誰かが言う。


 月は満月に近い。

 潰されている家の人は災難だが、皆は逃げる足が止まり、魅入っていく。


 放送では、立ち止まらないでくださいと騒いでいる。

 まだ片付けが終わっていない屋台では、声がかかり始める。

「今なら一割引だよ」

 多分、仕込んだものが痛むなら、売ってしまえと言うことのようだ。


「見ているだけで、行かなくて良いのですか?」

 アマンダがそっと聞いてくる。


「ああ親父達がいるからな、下手に手を出すとジャマになる」

「そうでございますか」

 そう言うと、たこ焼きを口に放り込み、変な顔をする。


「中の堅いものはなんですか?」

 そう言って、変な顔をしていたアマンダが見せてくる。

「食いかけで口を開くな。タコだよオクトパス。クラーケン」

 そう言うと、やめろというのに口を開けたままあわあわし始めた。


 ティッシュを渡すと、出しやがった。

 イタリアと違い、フランスでは食わなかったっけ?

「美味いのに」

「そうね美味しいよね」

 皆が、見せつけるように食い始めた。


 それを見て、彼女はまた口に放り込む。

 もぎゅもぎゅしていたが、やはり変な顔。

「勿体ないから出すなよ」

 そう言うと、眉間に皺が寄る。


 じっと見ていたが、その顔が、近寄ってくる。

「んんんっ」

 口移しで俺の口の中へ、タコが押し込まれた。


「なんて言うことを……」

 勿体ないし食うけどさ。


 それを見ていた約二人。

 口をもぎゅもぎゅさせながら近寄ってくる。

「こら待て、ナニをする気だ?」

「アマンダだけはずるい。平等にすべき。それが、颯司の責任」

「なんだそれ、んんんっ」

 朱莉を気にしていたら、雫にされた。


 しかも押し込んだ後、違う食感のものが口の中で暴れる。

「あーずるい、雫」

 なぜか朱莉は、雫の後ろに並ぶ。


 そして、気がつけば周囲から注目を浴びていた。

 見れば、クラスの奴らまで幾人か居る。


 非常にやばい。

 夏休み明け、最大のトピックス、トレンドは完全にこちらを向く。

 そう思ったら、朱莉の順番らしい。


「おおおっ」

 なぜかどよめきが起こる。


「畜生っ」

 近くでそんな声が聞こえて、誰かが走っていった。

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