第35話 奇妙な現象と噂

 まあ新学期が始まった頃には、皆忘れているだろ。

 そう思っていたが、俺達の行動はその夜のうちに同級生に広がった。


「いつも寝ているアイツが、いつも寝ている女子とキスをしてた。それも複数……」

「なんだこりゃ? 寝ている女の子って隣のクラスの。許せん。眠り男のくせに」


 おかげで、陸斗も誤爆を受けたらしく、羨ましいぞ同士よ。などというメールが来たようだ。


 さてまあ、それは良いが、骨だよ骨。


 白い光とオーロラに包まれているが、意外とキラキラしているだけで消えない。


「消えないなぁ。父さん達が苦労している」

「手伝ってあげる」

 朱莉がこそっと、炎を放つ。


 黒い炎は目立たない。

 だが見ていると、表面に何か膜のような物が張られて、そいつが、浄化をはじいているようだ。


 俺は考える。

「朱莉、もう一回」

 ベタなことに、口移したこ焼きがきた。


「違う。火の方」

 そう言うと、ああという感じで、撃ち始める。

 それを風で包み、アイツの頂点。

 一カ所に集中的に攻撃をする。


 とうさん達の攻撃と、それをじゃましないようにコントロールをして、一カ所を壊す。

 皆には見えていないだろうが、今骨の脳天には、ちゅどどどどと風に包まれた朱莉の炎が撃ち込まれる。

 すごいことに、何でも焼き尽くす炎を、アイツのシールドは弾いている。


 風に、浄化を乗せる。

 

 白い光が、宇宙から落ちてきて、骨の脳天へと吸い込まれるような光景が、夜空に浮かび上がる。


 そして、ある点で限界を超えたらしく、奴のシールドがはじけた。


 その瞬間に、周りを囲んでいた光達が、一気に雪崩れ込む。


 それは収束をして、点となり、はじけた……


 広い光と黒い炎は混ざりながら、空へと立ちのぼっていった。


 すると、その日結構大量の流れ星が降ったらしい。

 吹き上げられて燃えた骨。

 火の玉が落下をして燃え尽きる。


 中には、いくつか人工衛星が燃えたらしいが、詳細は伝えられなかった。

 物騒な事に、未登録な物が日本の上空を回っていたようだ。

 父さんからの情報だ。


 一応手を出したことを叱られるかと思ったが、褒めてもらえた。

 もう一歩で困っていたようだ。


 だが、ほのぼのしている颯司と違い、親父さん達の顔は、驚きそして少し呆れていた。

「血筋というか才能だな」

 やっと封じたと言うより滅した、がしゃどくろ。

 術を放っていた親父さん達も、実は危なかった。

 術を使うのも、個人の限界という物がある。



「ああまあ、鬼と呼ばれたあの方の遺伝子を持ったクローンだし、強化されていたんだろう」

 過去の記憶。

 多くは未だに封じられ、情報は秘匿されている。

 預かり監視をしながら、颯司を育てている風祭 飄重かざまつり ひょうえは苦笑いをする。


「情報は秘匿されて少ないが、そうだな。枠が人間からはみ出しているらしい」

 ほうという感じで、周りの三家は驚く。



「あの出力と、浄化の能力は俺達と少し違うな」

 確かにという感じで、火祭 剛炎ひまつり ごうえんが顎の無精髭をなでる。


「ああ、浄化の光。金色が混じり美しかったよ」

 一番近くで見ていた、飄重はうんうんと頷く。


「他人事みたいに言うんじゃないよ。颯司が暴走をしたとき、滅する事が出来るのか?」

 水祭 流水みずまつり ながれが、睨む。

 最近雫が、颯司に懐いているために、少し機嫌が悪い。

 もう少し距離を取って、清く正しい付き合いををしろと言ったら、最強の呪文言霊。『お父さん嫌い』を喰らったそうだ。

 三日寝込んだとか……


「いや、今でも無理だろう。アイツは強い。するなら不意打ちだな。女には弱そうだ」

 そう言ってニヤニヤしている。

 アマンダの前で見せる、ギクシャクとした態度。

 颯司の弱点として、風祭の家で共有されている。


「その辺りは後天的な物か? あのお方ははべらしていたと聞いたが」

「そうかもな。修行を積むとあのお方のようになるのかもしれんが、それまでには結果が出るだろう。滅するか、敬い奉るか」

「そうだな。力があれば、俺達が楽ができる」

「ちがいない」


 普段は、穏やかで優しい表情の颯司。

 よほどのことがなければ、このまま真っ直ぐに育つだろう。


 悪しき心に染まり、おのれを見失ったりしない限りは大丈夫だろう。

 善と悪、神と魔は表裏一体。

 阿修羅となるのか、菩薩となるのかは本人次第。


 俺達の組織でもアイツのような奴がでるんだ。

 そのおかげで、颯司は生まれたのだが…… 彼は、大事な物を失い、届かない力を求めた。

 

 そう、祭 成業まつり じょうごう元祭家の当主。

 現当主の祭 導示まつり どうじの父親。


 妻を失い、狂ってしまう。

 妻の組織、そして偉大なる術士だった父親祭 神部まつり かんべの遺伝子を使い、鬼の因子を加えた遺伝子改変を行った。


 秘密裏に行われていた実験だが、明るみに出た。

「おやめください」

 そう言って皆が押し入ったとき、ご当主は満足そうに笑っていた。


 そう、傍らで泣いていたのが、颯司。

 奥方であった、夕月様の特徴を持った男の子。


 成業様は、目を離した隙に自害をした。


 そして、俺達はすべてを廃棄し、事実を隠蔽。

 すべてを知っているのは、四人と、現当主の祭 導示まつり どうじのみ。

『その子を育て、力となるようなら迎え、害となる様なら滅せよ』


 そう言われて、一二年、いや、もう一三年。

「どうなることか……」


「風祭って言う奴、女たらしだそうだぞ」

「違うわ、風祭君がたらされているのよ。守る会を結成すべきね」

 夏休み明けには、騒動の起こる予感が吹き荒れていた……

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