第26話 最凶

「お前達が探しているのは、俺だろう? それとも餓鬼どもか?」


 吹っ飛ばされた翡翠は、まだ動けないようだ。

 癒やしの風を巻き付けておく。


 この鬼は大嶽丸おおたけまる


 その昔、伝承では坂上田村麻呂が倒した最強クラスの鬼だそうな。

 空を自由に飛び、火の雨を降らして、雷も操ることができたとされる。

 討伐を依頼された坂上田村麻呂は、三万の軍勢で向かったが、数年も足止めを食らった。

 鈴鹿御前の協力を受けて、一騎討ちに持ち込む。

 大嶽丸は何百もの剣や矛を操って飛ばしたり、何千にも分身をしたという。


 田村麻呂は神通力を使い、千手観音や毘沙門天の力で剣や矛を撃ち落として、神通力で矢を何万に増やしたことで、大嶽丸を追い詰め最後は、ソハヤノツルギで、その首を落としたなどと言う、最悪な鬼がそこにいた。


「鬼童丸から聞いたが、人間はさあ、今害獣なんだろう? 人間自身が温暖化対策って言って何とかしようとしている。とりま…… いただきまーす」

 大柄な体が、一瞬ぶれる。


「くっ。風よ」

 殴りに行った拳を、雅美は眼前で防ぐがその拳は強力で、あっさり風を突き抜けてもろに顔で受ける。


「ぎゃあぁ」

 吹っ飛んでいき、一発で意識を刈られる。

「くっ雅美。畜生」

 建物の中なのに、炎珠がかまわず火を放つ。


 その隙に、雅美を拾いに行くと、逃げにかかる。

 同時に、満は翡翠を拾いに行く。


 エレベーターは避け、非常階段へ飛び込む。

 だがよく見れば、硬質なワイヤーが張られている。

「ちっ」

 炎珠の炎と、満の扱う水のムチが、ワイヤーを切り飛ばす。


「こら、雅美起きろ。起きないと尻を触るぞ」

 だが完全に意識が飛んでる。

 あの拳はかなり強力だったようだ。


「風の探査が欲しいよう」

「泣き言を言うな満」

 二人は、小脇に人をぶら下げているため、動きがどうしても鈍る。

 それに、探査が不得意。


 満が霧を張り巡らせば、動きは見えるが、自分たちの動きが鈍る。

 そう四種の能力者がセットなのは意味がある。


 そして相手が強かった。

「どーん。もう少しだったのに残念。以外と今の術者は弱いなぁ」

 いきなり目の前に大嶽丸が現れて、抱えていた翡翠ごと満が吹き飛ばされる。

 そのまま階段を転がり落ちていく。


「ふんっ」

 腕を振り上げるだけで、炎弾が消滅をする。

「畜生、化け物め」

「もう良いだろ、諦めろ」

 大嶽丸はいきなり分裂をして、手に持つ剣を振るってくる。


「くっ」

 躱す、躱す、躱すだが、どうしても反応が遅れる。


 雅美が重い。

 だが捨てるわけには、いかない。


 そう思っただが、彼の左肩がスパッといかれた。

 雅美が落ちる。

 その意識が、鬼から離れた。


 そう決定的な隙。

 彼はパンチを食らい、上階の踊り場まで階段を転がり上がっていった。


「うん、まあこれで終わりだな。美味そうだ」




「戻ってこなかった?」

「ええ、そう連絡が来ています」

「歳は?」

「二二歳と二三歳だそうです」

「若いな、だが解放はされていたのだろ」

「ええ。まあお気をつけて」

「分かった周知しておく」


 本家祭家から、緊急通達。

 一つ、チームが消えた。

 異常事態が起こっている。


 分家でも、そんなにバカみたいに力に差があるわけではない。

 体術や、技の扱いに家独自のものはあるが、それでも……


「子ども達は、しばらくアルバイト禁止だ」

 コミュニケーションアプリに、そんな文言が流れてきて俺達は驚愕をする。

「なっ、夏休みに小遣い無し……」

 その時、それを受け取った全員が、怒りに震えたという。


「おのれ、鬼どもめぇ」

「許さんぞぉ」

 とまあ、未成年も沢山居たのだが、切りの良い中学三年生とか高校三年の者達はイベントを考えていたようだ。


 幼馴染みから、一歩その先へ。

 そのためには、お祭り、そして花火。

 キャンプ、などなど。


 まあそんな感じで、ウキウキしていた。

 それがすべて消えたのだ。


 そのおかげで、憎悪は鬼へと向かった。

 諸悪の根源は鬼ではなく、生き霊いきすだまなのだが、彼らはその事を知らない。



 今、地球環境のために、人間は駆逐されるようだ。

 そしてその後は、スタッフがきちんと頂くようだし、問題は無い。

 徒党を組む警官、そして術者達は、今標的にされた。


 場所は、川の土手。

 連絡が入り、現場へ向かうパトカー。

 脇から何かが、出てきて、左前で跳ね飛ばしてしまった。

「むっ、今子どものようなものを轢いたぞ」

 助手席に乗っている同僚が、めんどそうにぼやく。


「緊急走行中でもまずいか、止まろう」

 最近はドラレコも付いている。


「うん? ああ畜生、左のフェンダーが潰れてやがる。報告書が面倒だ。何かいたか?」


 土手側を見下ろした状態で、同僚の動きが止まっている。

「ちっ、こんな時間に本当に子どもだったのかよ」

 文句を言いながら、覗きに行く。


「おいどこだ」

 同僚の肩に触れると、彼は法面を滑って行ってしまった。

「ああ、おい。大丈夫か?」

 だが返事はない。

 キョロキョロと階段を探す。


「あっちか、なんだって言うんだよもう…… 痛て!」

 ライトを当てると、ふくらはぎに噛みついている子鬼。


 最近は、この手は撃って良いとなっている。

 距離が近いから、抜けた後の跳弾が怖いが、そんな事を言ってられない。

 食いちぎられそうだ。

 発砲。 


 だが、その音は関係ないと思うが、囲まれていた。

 パトカーに飛び込み、救援を求める。


 その日十台もの、パトカーが壊され、多くの警官が消えた。

 そう、何かが始まった……

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