第27話 出逢い

「お食事お食事」

 嬉しそうに喜んでいるのは、鬼童丸。

 食事をして、大分おっきくなってきた。

 もう少しで、高校生くらい。


 この年くらいになると、妙に美形なため、ナンパができる。


「ねえ、そこの女の子たち、時間ある?」

「えっ、あっはい」

 モテそうな切れ長の目をした美形。


 鬼達は、今流行の顔をコピーした。


 まだ、少し薄暗くなったばかりの時間。

 友達と二人。

 警戒心は薄く、相手は若そうだけれど美形。

 このチャンスには乗らなければぁ。


 彼女達は、ノリノリで相手をする。

「いやあ最近ここいらに、引っ越してきて、ほら地図はスマホで分かるけれど、店の評判は、星じゃなく、地元の人に聞きたいじゃない」

 彼はしれっとそんな事を言う。


「あーまぁ、そうですね。評判が良いけれどいくと最悪ってありますものね」

「だよね、おごるから店紹介をしてくれない?」

「ちょっと待ってください」


 そう言って彼女達は、相談を始める。

「おごってくれるならこの辺り?」

「いやあそこは、好き嫌いが分かれるから、無難にこの辺りは?」

「あんたオッサン?」

 居酒屋は、却下された。

 見た目高校生くらいを、何を思って居酒屋へ連れて行こうとしたのかは不明である。


「いや、酔わせてさ」

「未成年を飲ませば店も罰金なの、できるわけないじゃん」

「じゃあイタリアンでも行って、その後に宅飲み? あたし二年ほど彼氏いないんだわ。それにこの子なら、元彼に会っても自慢ができる」

「えー。私も欲しい」

「あんた彼氏いるじゃん」

「モチ、別れる。ソッコーで」

 そう言って、満面の笑み。


 最近は、親しくなればとりあえず寝てみるという。

 そんな軽さが流行。

 彼女達は、その類いだった。


 彼のおごりで、イタリアンのアラカルトでシェアをしながら食べる。

 ワインを飲み、彼女らは気合いを入れる。


「これで帰るのは勿体ないでしょ。うちが近くなの来ない?」

 彼女は彼の手を取り、じっと見つめる。


「じゃあ、少しだけ、まあ送っていきます」

 そうして彼女達は、家に送り鬼を招いてしまう。


「いただきまーす」

 二人がかりで、彼を襲い、大満足後。

 かれに食われることになる。


「げっ。食い過ぎだ。一人は、お持ち帰りにすれば良かった……」

 体が顫動運動せんどううんどうをする様に、変化をする。だが、食べた分だけ体が大きくなり、服がキツい。

 高校一年生が、いきなり三年生くらいとなった。


「服を買わなきゃな」

 彼は、彼女達が勧めてくれていたショップへと向かう。



「鬼は、鬼はいねぇが」

「それって逆だろ?」

「そうか?」

 なまはげは、『泣ぐは居ねがー』『悪いは居ねがー』と家々を回るが、角は有っても本来鬼では無い。


 年に一度、決まった時期に人間の世界に訪れる来訪神らいほうしんだそうだ。


「でもいたぞ」

 かれが、顎で指し示したのは女。

 橋姫はしひめが鬼となったのは、夫を横取りされて嫉妬に狂ったから。


 そう、彼女は嫉妬深い。

 女といちゃつく男を見れば襲ってくる。

 そう、理不尽なこと。


 だが、その日は、様子が違った。



「あんたら早く逃げな」

「はい、ありがとうございます」

 一般市民が逃げた後。

 目の前に居る女の口は、頬の辺りまで裂け、凶悪そうな牙が見える。


 そこから始まった戦闘は、こそっとはいかなかった。


 公園の木はなぎ倒され、公園脇の道路では戦闘の余波で車がひっくり返る。

 それはすぐに撮影をされて、拡散をされていく。


「やべえ、顔を隠せ」

「マスクしかねえよ」

「色々がぐだぐだだ」

「仕方がねえ」


 彼らは珍しく、男ばかりの世代だったようだ。


 仲は良いのだが、モチベーションに斑がある。


「風で落とせ、土檻で閉じ込める」

 凶暴な鬼。

 意識の大半が、そちらに向いてしまった。


 そう騒ぎになって、やって来るものは警察と野次馬、そして鬼の仲間……


 土檻を造ろうとしていた、土橋どばしの背中から腹に剣が一本突き通る。

「がはっ」


 風谷かぜたにはあわてて周囲を探査する。

 目の前に居た、橋姫はしひめから目を離してしまった。

 当然噛みつかれる。

 首から盛大に血が吹き出る。


「畜生」

 火向ひむかいが炎をばら撒く、しかし、橋姫の動きが速く、捉えきれない。

 そして、そっちに集中をしていると、首がなくなった流水ながれが倒れ込んでくる。

「ちく…… がっ」

 気が付けば、腹から剣が生えていた。


「ふっふ。こいつらの肉は、何か美味いんだよ。帰るぞ」

 鬼達が力を取り戻す度、こちら側の被害が、徐々に加速をしていく。



「またやられたようだ。消息不明。直前まで派手な立ち回りをして、ネット上に動画が上がっていたが、その後何かが起こったようだな」


 総本家、祭家でも危険性が認知されていく。

 そうして子ども達は、いよいよもって外出禁止となる。


「もう、なんなのよ。鬼なんかスカッと退治してよ」

 朱莉はやっと補習が終わり、夏休み本番。そして完全外出禁止が発動。

 補習は、例外措置。苦笑いをしながら許可をくれたらしい。そして、そう。近所の俺達の家へと来るくらいなら、問題は無いが、外はだめ。

 特に町中では、日々人が消えていると父さん達から聞いた。

 いきなり日本は、物騒になった様だ……


 だが……

「あんた誰? 体からそんなに死臭をさせて」

 縁がある者達は、出逢うようだ。

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