第15話 異変

 その晩、なぜか小遣い稼ぎに颯司が来なかった。

 昼間は、学校がなんだかザワついていたし。

 雫達はねていて、震動と音に気が付かなかった。


 その晩、またもトイレ前で、颯司はアマンダと向かい合う。

 颯司は急激に解放された能力のせいで、体調が最悪だった。

 頭痛に吐き気、体は全身筋肉痛のような状態。


 親たちはニヤニヤしながら喜んでいるし、よく分からない。


 体調の悪さから、アマンダにポスンと埋まる。

「おう、どうしました。主」

 これはいけないとばかりに、アマンダは颯司を部屋へと連れて行く。


「開けます」

 ドアを開け、中へ入ると、日本の中学生の部屋。


 机と、本棚。

 そこに飾られた、雫達との仲の良さそうな写真の数々。


 ただ、手にぶら下げているモノは、見たことのないのない生き物たち、その他にも、今よりも幼い彼らが、喜んで登っているのは、体高だけで三メートル近い牛のようなモノ……

 どう見ても、顔が人間のように見える。


 アマンダは知らなかったが、くだんと呼ばれる妖怪。

 厄災や天変地異、流行病などが起きると言われている。

 一般的に、コイツが生まれた時には予言を残し、すぐに死ぬとか言われているが、そうでない物も現れ、この時は逆に厄災を及ぼした。


 まだ幼かった彼らに、親たちが勉強のために見せたもの。


 その数々の怪しい写真に、アマンダは引き込まれていく。

 颯司はベッドへ寝かされていたが、ふと気が付く。

 部屋の中に、人の気配。そして丸い何かがこちらを向いている。


 風を使おうとするが、上手く行かない。

 少し体を起こし、集中をするが、やはり言うことを聞かない。

「ああそうか、これはまた夢か」

 口の中だけでそんな事をつぶやき、はっきり見えだした記憶に残るアマンダのお尻。

 丁度暗く、アマンダは写真を見るために前屈みで見ていた。


 そのため、颯司からは、足の生えたお尻が浮いているように見えた。

 最近急に女性に対して興味がでて、こんな夢まで見始めたのかと。

 手を伸ばし触ってみる。

 それは柔らかで、暖かい。


 アマンダは驚いたが、ペタペタと触る触り方に、嫌らしさを感じず振り返る。

 急に振り返ったことで、上半身が生え驚いた颯司だが、胸に手を伸ばす。

 その行為を、アマンダは体調の悪かった颯司が、きっと母親を求めていると考えた。


 少しためらったが、ベッドの中に入り込み抱きかかえながら颯司の頭をそっとなでる。


 颯司はそっと胸に顔を埋める。


 翌朝、颯司はすっきりした頭で悩む。


 横で嬉しそうな顔で眠るアマンダ。

 彼女は、甘えてくる颯司がなんとなく嬉しかった。

 母性というのだろうか?

 いい加減、アジア人は童顔で幼く見える。

 恋愛などからは外れた存在。


 だが相手の颯司は複雑。


 まあ、アマンダを横目で見ながら、着替えて下へ降りる。

 朝は落ち着いたのか、両親もにやけ顔がなくなっていた。


「行って参ります」

 そう家はどうこうなかった。


 だが、雫達が落ち合ったすぐ後、彼女達の鼻が動き怪訝そうな顔になる。


 颯司から、濃厚な女の匂いがする。

 雫と朱莉は顔を見合わせる。

「「アイツだ」」

 無論すぐに責めたりはしない。

 だが少し濃厚すぎる匂いに、疑念を持つ。

 


 でもまさか……

 風祭の両親が、そんな事など許さないだろうと言う思いがある。


 そう、基本的に結界と、警戒の風が家の中を吹いている。

 風祭家は少し特殊なのだ。


 そんな家でまさか?

 まあ、目覚めたと言っても、まだ中一男子そんなにいきなりエロい方に走らない。

 高校生とは違うのだよ。


 その日も、風祭が起きていると、教室は騒然となったが。



 その晩はきちんと颯司はやって来た。

 だが、今朝の一件で、雫と朱莉は授業中の眠りが浅く調子が悪い。


 青坊主が現れて、人を襲うということで警戒をしていた。

 ぼやっとしていた朱莉は、トイレに行きたくなり、公園のトイレへ向かった。時間が時間ですでに真っ暗。

 仕方が無く、鬼火を灯しながら用を足していた。

 まだ設備が古く、くみ取り型。


 伝承にもあるが、青坊主はトイレから出てきて脅かすことがある。

 声にならない声を上げ、朱莉は個室から出ると、火の固まりを個室にぶち込む。


「どうしたの? 大丈夫……」

 近くにいた、雫がやって来た。

 そう大体、二人はペアで近い距離で行動している。


 だが颯司が、力を増し練習がてら遊んでいた風纏装かぜまそうのおかげで、あっという間に来た。

 トイレの炎は、雫が消し、焦げ後を手慣れた感じで洗浄をする。


 朱莉は、汚したズボンと下着を警戒心が薄く、洗って乾かしていた。

 そこに、すでに颯司が来てしまった。

 今まで幾度も見られたことがある。

 だけど、朱莉も成長をしていた。

 幼いときとは違う。


 どうしようもない、気持ちが、そう今までとは違う気持ちが湧いてくる。

「ごめん。ちょっと今見ないで」

 なぜだろうドキドキが収まらない。

 恥ずかしい。顔が赤くなる。


 颯司は背中を向け、周囲を警戒してくれている。

 その背中が、いつもと違う。


 朱莉の胸の中で、パキッと音がする。

「あんた、パンツも穿かずに何してんの? ぼちぼち陸斗が来るわよ」

 片付けの終わった雫が出てくると、朱莉の状態を見て忠告をする。


「それはやだ」

 そそくさと、下着とズボンを穿く。

 その向こうで、後ろを向く颯司に気がつく。

 雫も、少し変わった颯司に気がつく。

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