第43話 制御

「ねえ、颯司きゅん」

「きゅん?」

「うん、風がね言うことを聞かないの」

 アマンダの背後では、風が吹き荒れていた。


 颯司は制御を奪う。

 途端に風は静かになる。


 颯司が見ている前で、アマンダは膝をつく。


「意識の収束が甘いから、言うことを聞かないんだよ。もっと何か集中ができる環境で操作をした方が良い」

 そう聞かされて、アマンダは考えた。


 そう彼女なりに必死で……


 翌日も訓練場に呼ばれる。

 もう夕方、本当なら、狩りにいきたい時間。


 アマンダは台の上に立ち、颯司を迎える。


「そこの椅子に座り、みていてくださーい」

 少しアマンダを見上げる感じで、颯司廃すに座る。


 珍しく訓練場には灯りが持ち込まれて、非常に明るい。


「では行きます」

 珍しく、緊張した面持ちで、アマンダは術を錬り始める。

 命令に従い、風が威力を増していく。

 ゆっくりと吹き始め、彼女を中心にして渦を巻き始める。


 そうシールドのように、彼女を覆う。

「ほう。良いじゃないか」


 だが、その後、威力を上げようとしたんだろう。

 風の巻き方は激しくなり、彼女の制御を外れてしまう。


 するとだ…… 彼女のワンピースを巻き上げ……

 もろだし……


 無言の時間。

 風は、急激に収まる。

「失敗です。もう一度」

 また風は、吹き荒れる。


 そしてまたばふっと……


 丁度そこに、皆が来た。

 颯司は、陸斗を見つけると、椅子に座る役を変わる。


 するとなんと言うことでしょう、アマンダのミスは出なくなったのです。


「忙しいと思うが、アマンダの訓練を見てやってくれ」

 颯司は、陸斗にお願いをする。


「いいけれど、なんで? 制御をミスったとき俺じゃあ、コントロールができないけど」

「いいんだ。この役はお前にしかできない」


 その後なぜか制御が上手くなったアマンダ。


 どうも、意識外の奇妙な制御が働いていたようだ。

 見せたいわけではないけれど、見て欲しい。


 下の水場に、それだけで、謎の雫が滴っていた。


 陸斗にかわった瞬間、それすら収まったようだ。

 

 そう、それは、アマンダ自身も理解ができなかった。

 とにかく無事に修行は進んだ。


 だがその中で、雫だけが敏感に匂いを感じていた。

 この匂い……


 そう女特有の匂い。

 その晩、雫と颯司はにらめっこをする。

「あの人は、修行をしているだけで、何もないのね」

「うん別に、何もないよ」

 そう答えた颯司だが、つい目をそらしてしまう。


 その瞬間、雫の位置が変わる。

 そしてじっと颯司を見る……


「アマンダと何もないのよね」

「ああないよ」

 チラッ。


 目線がズレる。


「颯司…… 私も、朱莉も幼馴染みで、その…… 二人とも…… あのね……」

 そう言ったまま、言葉は出ずパクパクし始める。

 真っ赤な顔をして。


 言いたいけれど言えない、それは甘く切ない思い。

 言葉になんかできない―……


 ぱくぱく雫と、言われたことで思いだし、ばくばく颯司。

 奇妙な時間が流れる。


 この言葉を言えば告白になる。

 それを言うのがだめという事ではないが、関係は変わってしまう。

 今までなら、喧嘩をしたってすぐに仲直りできた。

 でも、恋愛ドラマや小説で書かれているように、恋人同士での喧嘩は破局となっている。

 それが怖い。


 実際なら、異性の場合エッチをして何か違うと友達になった方が、良好な友人関係になったりするのだが、複雑怪奇な心は、まだ雫には想像が出来なかった。


 人生経験の不足が恐怖となる。

 ここに居るのが朱莉なら、まず付き合ってみよう。

 きっと、そうなっていただろう。


「その…… アマンダの事、なにもないって言ったけれど……」

 そこまで言った所で、颯司はビクッとする。


 蘇る昼間の記憶。

 まるで修行にかこつけ、うりうりとおのれの裸体を見せびらかすアマンダ。

 ライトアップされており、その白く輝く体は目に焼き付いている。

 少し大人になった颯司は、思い出すだけで体が反応する。

 だって男の子ですもの、しかたがないわ。とでも言うように。



 その反応に、雫は気がついてしまった。

「これ……」

「あーうん」

 仕方が無いと諦めて、説明をする。

 昔だったら、空き地に落ちていたえっちな本を見つけ男達だけでわいわいと盛り上がる年頃。

 徐々に異性に対し興味がでる年齢である。


 それは極めて、まともな反応。

 実際、雫が母親の水祭 美沙みずまつり みさに相談をすると返ってきた答えは。

「あら、颯司君が? 大人になってきているのね」

 そう言って嬉しそうな顔をした。


 でも、その反応は、今までの颯司とは違う、理解ができないと怖かったりする。


 雫は、変わってしまった颯司から、その日逃げてしまった。

 颯司は何か変わってしまった。


 それであわてて帰り、出会った母親に相談をする。

 そうして、聞いた結果自分だけが取り残され、皆が大人になっていっているのだと理解をする。


 そして、モヤモヤとした心、それが恋の始まりだという事も気がつく。



 四人の思春期が今正式に始まった様である。

 雫は、気が付いた気持ちを進められるのか……

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