第49話 始まり

 雫が会った一年まえ。

 そいつは、おもしろいことに気がついた。


 最悪な状況で、最悪な末路を迎えようとした男。

 たまたまそいつに取り憑いた。


 浮気を目撃され、一応あわてて旦那を探す妻。

 間男は上司。外回りの途中に遊んでいたらしい。


「どうしてこんな時間に帰ってくるのよ」

 彼女は一応常識があり、浮気が悪い事であるのは知っている。

 これで離婚となれば、離婚原因においての有責側は慰謝料を払わねばならない。

 そんなのは嫌。

 あの旦那に金を払うなんて。


 そう、つまり、彼女にとっては、あの旦那になのだ。

 浮気相手も特に好きではない。

 たまたま近くにいて、乗ってきたから。


 元々この結婚も、彼女にとってなんとなくだった。


 彼は、鬼谷 祐一おにたに ゆういち三五歳。

 おバカな妻は、浅希あさき三一歳。

 

 結婚をして五年。

 子どもは五歳。

 結愛ゆいと言う女の子。


 そう、デキ婚であり、当然のように祐一の子ではない。

 彼女はその頃、幾人かと付き合っていた。

 化粧が上手く、そこそこもてるが、幾度か会うとなぜか別れることになる。

 子どもが出来たので、まだ捨てられず、定職を持っていた手近な男と結婚をした。


 だから、妊娠と出産。

 首が据わってきて、独り立ちをはじめる頃まで。

 おおよそ二年間は彼の彼女、そして妻として我慢をした。


 だけど、娘はかわいいが、つまらない生活。

 帝王切開はしなかったが、妊娠線が結構できた。


 胸は大きくなったが、赤ん坊用に進化をしたらしく、形が崩れた。

 生活が安心をしたところで、彼女はさらに平凡な祐一が鬱陶しくなる。


 出産後は、すぐに妊娠をすると母体に悪からと営みを拒否。

 それからずっと、拒否。


 娘が三つになると速攻で保育園を見つけて、パートに出始める。

「あんたの給料が安いんだから、仕方が無いでしょ」

 そう言われて、彼は残業を増やした。


 だが働き方改革により、表向きの残業は削減。

 給料にならない残業を行いながら、営業用資料をつめる。


 そう、金があれば休みも嬉しいだろう。

 だが給料が少ないものにとっては、政策は生活を苦しくさせるのみ。


 副業も良いよと言っているが、許可が出たなど聞いたことがない。

 申請を出せば、給料の増えない仕事が降ってくる。

「副業を申請をするくらい暇なんだな」

 この会社では、そうなる。


 そんな状態でも頑張った。

 そう本人はそのつもりだった。

 だが、楽な部署にと言っただけで、退職しろと言われる始末。


 だけど彼は、鬼谷と言うだけあって、鬼の因子を持っていた。

 大昔の先祖に鬼に襲われた者が居たのだろう。

 祐一に取り憑き、体を確認をすると、以外とスムーズに力が発動できる。

「ほう、これは良い」

 目撃をした女の子をちらっと見ると、木に体を打ちつけた後、痙攣をしている。


「食ってもいいが、今は急いでこのバカが逃げ出した家に帰ろう。離婚訴訟かそれとも……」

 彼は、多少わざとらしい、つかれた様子を見せながら、とぼとぼと家へと帰る。

 だが、その頃。近所を走り回っていた彼女。

 残念だが、その演技を彼女に見せることはなかった。


 その間に、彼は家の中を見ながら、記憶のすりあわせをする。

 そして、荷物をまとめながら考えをまとめる。

 

「帰ってきていたの? あなた、浮気じゃないのあれは、強引にされて……」

「そうなのか?」

 すっと、スマホをだしてみせる。


 静止画を撮る前の動画。

 嬉しそうな感じで喜んでいる妻の姿。

 バックだから、顔は見え無いが、声がそれを物語っている。


 見せていると、スマホをひったくろうとしやがった。

 

「お願い、離婚は嫌。何でもするから」

 その言葉の裏、それは当然だが、私の有責でと言う言葉が飲み込まれる。


 離婚は問題ない。

 後は、財産分与と慰謝料。

 子どもの養育は、ほぼ母親に来る。

 ならば養育費はもらえるはず。


 この際あの間男と別れるのは問題ないし、もう会わないからと泣き顔でも見せればそれで何とかなる??


 とりあえず、謝る。


 ここに居るのは旦那だけ。

 土下座くらい何でもない……


 だがそこで予想外。

 気弱で要領が悪く、従順だけが取り柄の男そう理解をしていた。


 だが、土下座をするのを無視して、ダイニングの椅子にどっかりと座る音。


 目の前には足が見える。

 そっと顔を上げる。


 そこには見下ろす旦那…… 多分。

「おい、そんな事をしても何にもならん。さっき、中で出されただろ。見せろ」

「えっ? 嫌よそんなの」

「さっきのは口だけか」

 あっ、つい言ってしまった、何でもするから……


「それはそうだけど、見てどうするの?」

「おかしなことを言う。証拠だよ証拠。写真を撮るからな」

「そんなの変態じゃない……」

 そんな事を言って見るが、彼の目を見ると体が震え始める。


 怖い。どこを見ているのか分からない目。

 なんだか、すべてに興味が無いような。

 気に入らないと言って、簡単に人を殺してもおかしくないような冷めた目。


「わっ、分かったわよ。変なことはしないでよ」

 スカートを捲り、下着をおろす。


「向こうを向いてお辞儀しろ」

 そう言われて、黙って後ろを向く。

 シンクへ手をつく形。


 そう、下着をおろしても、一切興味が無いような目が変わらない。

 怖い。


「もっと、態勢を下げろ。それと足を開け」

 相手は最近していないとは言え、何度も見せた相手。

 だまって言うことを聞く。


「意外と出てこないものだな」

 そう言って広げられる。

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