第33話 銭湯へ

 室内に入ると、そこには小春が大広間で待っていたように腕を組んでいた。

「あ、探してたよ、つむぎ」

 彼女はバスタオルとフェイスタオルを腕に抱いていた。

「どうしたの?」

 つむぎは目をパチクリする。

「今から、女性は大浴場に入ろうって話をしてるんだ。神門さんや響花さんはもう一人で入ったんだって」

「でも、犯人が内部にいるんでしょ?」

「大丈夫だよ。能美さんが外で待機してるから……。ほら」

 そう小春が大浴場の前で腕組みをしている能美を指差した。彼は頭を下げた。

「ハハハ……」

 つむぎは、能美は進んで協力してくれる半面、風呂場をのぞくのではないのかと苦笑していた。


 真に事情を伝えたつむぎは、小春、くるみと玉葉の四人で朝風呂に入る為、脱衣所で服を脱いだ。

「しかし、お風呂一日入ってなかったら気が狂いそうね」

 玉葉は言った。

「まあ、そうですよね」

 と、小春。

「あなたは能美さんと身体を洗わずに暑い夜を過ごしたから余計にじゃない?」

「ハハハ、余計なこと言わないでくださいよ」

 つむぎは恐る恐る服を脱いだ。くるみを見ると、彼女は服の上から細身だったが、脱いでも品祖といえるほど痩せていた。

 ――そういえば、玉葉先生とは違って、小食だったな。

 すると、彼女の刺された右足の膝の部分にあざが出来ていた。

「くるみさん、痛々しそうですね」

 つむぎは苦い顔をした。

「染みるから、あんまり入りたくはないんだけどね」

 つむぎはそのあざのことを聞こうとしたのだが、ただでさえケガしているのに聞くのは可哀そうだと思って触れずにいた。

 くるみは洗い場で置かれていたシャンプーやボディーソープを使って身体を洗った。彼女はケガのことで浴槽には入らなかった。

 つむぎは三人だけ湯につかるのが申し訳ないと思いつつ、外の気温より少し熱い湯につかると、一気に疲れが吹っ飛ぶかのように身体の力が抜けていく。

「やっぱり、気持ちいいわね」

 玉葉はつむぎに言った。

「そうですね。あたしはあんまりこういった大浴場に行くのは久しぶりなんで……」

「そうなの。お姉ちゃんとは一緒に行かないの?」

「はい。まあ、あたしの家はお金が無くて……」

 と、つむぎは舌を出して笑った。

「それなら、占い師でお金を稼がないとね。今回はこんなこと起こってしまったけど、東京に帰ったら、私なり、くるみちゃんなり占い教えてもらったらいいと思うわよ」

「くるみさんは大丈夫なんでしょうか?」

 つむぎはくるみを見るが、彼女はシャワーを浴びて話が聞こえていないようだ。

「そうね。恩師があんなことになったし、兄弟子は行方不明。本人も狙われてるしね。これから帰ったら警察に匿ってもらうと思うけど。精神的にね……。私もあんまり彼女には話しかけられないわね」

「内田さんも占い師やってみたら?」

 つむぎは小春に声を掛ける。

「あたしはこれから帰ったら、勉強するつもり。それで高校卒業したら、能美先生の元で働くんだ」

 ――目標はそっち?

 と、つむぎはまた苦笑した。

 しかし、能美という人物は、神門とはファンという関係だが、顔見知りだった。あれから彼は神門に対して想いを寄せていないらしいが、占い師になるきっかけにもなった人物だし、何かと未練はあるのではないのか。

 それに、あの人の笑った時の目が怖いな。

 など、つむぎはそんなことを考えていた。

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