第27話 葉子と伊知郎の関係性

 真、つむぎ、白石、玉葉、能美の五人は白石が言った別のドアに向かった。そこにはこぢんまりとした小さな裏面玄関があった。

「丁度正面の裏手にあるんですね。ここから入ってくる可能性もありますよね」

 と、真は白石から貸してもらった懐中電灯を手にしていた。

「仰る通りです。ただここは、勝手口なので、基本鍵は締まっております」

「あ、ドアの前に何か砂のようなものが……」

 つむぎはその方向に懐中電灯を照らす。砂で玄関が汚れていて、誰かが外から中へ入ったと思われても可笑しくはない。

「白石さん、この場所は事前に掃除したんでしょうか?」

「ええ、もちろん。葉子先生は整理整頓にうるさいものですから」

 白石の顔は明らかに青ざめていた。普段誰も利用するはずもないこの場所を誰かが開けられたからであろう。真はその表情を見逃さなかった。

「この勝手口には鍵が掛かってあるのでしょうか?」

 と、真。

「はい、もちろんですとも。ただ、ここの鍵は二人が常備していまして、それが葉子先生と伊知郎さんです」

 葉子と伊知郎! 伊知郎は単なる葉子の弟子だけなのではないのか?

「そうなると、伊知郎が入ってこの場所に身を潜んでるということもあり得るよな」

 後ろで能美が呟いている。

「伊知郎様は確かに勝手口の鍵も持っていました。しかし、今回の場合は正面玄関から入っても可笑しくはないのではないでしょうか?」

 と、白石が真に言う。

「どうですかね。ここの家主の葉子先生はともかく、どうして伊知郎さんも鍵を持ってるんですか?」

「それは……」

 白石は真から目を背けて落ち着きが無くなっている。真は強めに言った。

「教えてください」

「分かりました。伊知郎様は、……実は葉子先生の生き別れの息子さんなんです……」

「え? !」

 と真とつむぎと能美は驚愕した。玉葉だけは頷いている。

「葉子先生は元々好きな男性の子供を授かっていて、子供が生まれたのですが、その男性とはすぐに別れてしまい、子供の親権はその男性が持った。その子供こそが伊知郎坊ちゃまです。

 葉子先生は当時、占いや黒魔術などのオカルトに没頭していたので、子供のことはあまり考えていない方だったのです。

 しかし、ある日、伊知郎坊ちゃまが占いの勉強をし始めて、テレビに出たことによって、葉子先生はすぐに自分の子供だと感づいたらしく、そこから、調べるとそれが確信になり、そこから伊知郎坊ちゃまを弟子入りという形で受け入れたという話でございます」

「でも、葉子先生の口からは、伊知郎さんは自分の息子とは告白してないのよね」

 玉葉が話を挟む。

「どうしてですか?」

 と真。

「自分の子供と話すと、伊知郎坊ちゃまが去っていくんじゃないかと親心に芽生えたようで、結局言えずじまいだったようです」

「それを伊知郎さんが知っているということはありませんでしたか?」

「それは分かりません。私もいつも二人に付きっきりではないので……」

 ――今日のやり取りは伊知郎が甲板で気分が悪くなったところでしか見てはいないが、二人のやり取りはそれほど仲が悪い様子には見えなかった。本当にその後に伊知郎が何かしらの理由で葉子を殺害しようと思うだろうか……。

「まあ、伊知郎が殺害したとしたら、まずこの勝手口から侵入をして、その後に葉子の部屋に向かい、話のもつれから殺害に至った。その後はどこかに隠れていると判断したらいいな」

 能美は顎を摩りながら、真が見たくはない三日月の目をしていた。

「どちらにしても、こういう場所もあるわけだし、この洋館では隠れる場所なんてたくさんあるんじゃないのか?」

「まあ、広い洋館ですから。それに本日の来客者も少ないですし……」

 白石はかしこまっていた。

「分かりました。ありがとうございます。白石さん。みんな戻ろう。他の人たちが心配してる」

 と、真は促して、五人は勝手口の場所を後にしたのだが、真は何だか身震いがした。

 ――誰かに見られているような気がする。

 しかし、つむぎも含め、彼らは食堂に帰っていく。

 真は相変わらず、薄暗い洋館だなと思いながら、この不気味な館内に対して失笑していた。

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