第24話 混乱
「しかし、驚いたな。あのガキ、数々の事件を解決したと豪語したジャーナリストの割には、頼りないし、実際に事件が起きたから任せてみたけど、まさか人が変わるようにキレた発言するとは……」
食堂に戻って能美は席に座った。
「本当に驚いたわ。先生が亡くなったのも怖いけど、飯野さんだったら本当に事件が解決できるかもしれないわ。ありがとう。つむぎちゃん」
と、玉葉はまたくるみが座る席に座り、つむぎを見た。
「いえ、あたしは別にそういう意味で呼んだわけでは……」
つむぎは両手を膝の上にのせて恐縮しながら頬を赤らめた。
――やっぱり飯野さんは、事件が起きると表情が変わる人なんだ。
つむぎは前の事件でぼんやりとしていたものが、確信に変わったように笑った。
――しかし、今回の場合は人が殺害されているのに、すんなりと受け入れたよな。飯野さん。
つむぎは頭の中がハテナになっていた。何故なら、今日初めて葉子と会ったとはいえ、これまで人が死んでいるところを見たことが無いつむぎにとっては、くるみのように気を失いそうで、今でも先程食べた料理を吐き出してしまいそうなほど気分が悪い。
真以外の人たちは食堂に戻っていた。くるみは相変わらず気を失っていて、中田がおんぶをしてここまで運んだ。そして、その後に、敷布団を引いて、彼女はまるで眠ったように仰向けになって目を閉じている。
本当は自室へ運びたかったのだが、真の指示に従い、彼らはくるみをこの場所で待機させた。
白石は冷たい麦茶を用意して、各人物の机の前に置いた。みんな衝撃的だったのか、言葉が少なく神門は青ざめている。
「本当に、こんなところに来るんじゃなかった……」
神門は半ば感情的になりながら呟いた。
静まった中、全員神門を見る。
すると、彼女は机の上を両手で握りこぶしを作って叩いた。
「あたし、もう帰る。船を呼んで頂戴」
神門は立ち上がった。
「そうは仰られても、先程ご説明した通り、船は明日の夕方までは来ないんです」
白石は両手を股の部分に持って来てかしこまっている。
「電話も本当は警察に繫がるのがあるんじゃないの? 出しなさいよ!」
「いえ、そんなものはございません。ここは葉子先生が設計し、あくまで占いの為隔離した場所を作ったものですから」
「何、あの女。だから殺されるのよ……。犯人がこの中にいるかもしれないってことでしょ」
神門はまた座りながら、周りを警戒しながら様子を伺った。
冷静な表情でお茶を啜っていた響花は言った。
「それはお互い様じゃない。もしかしたらあんたがヤッたって可能性はあるわよね」
「あたしは殺してない。葉子先生とはそれほど会ったことが無いんだから。あんたの方が一年弟子入りしていたんでしょ。逆に何でその弟子入りを止めたのよ?」
「まあ、あの人が行ってる。この勉強会。過去には一般人も招き入れてたってこと知ってる?」
「何それ?」
神門は言った後、周りを見渡した。どうやら玉葉、白石、能美でさえも知っているようで、俯いている。
「あの人は過去も占いのスターだった。テレビでも活躍して一躍有名人だったわよね。あの時、葉子先生はもう一儲けをしたくて、彼女を崇拝する悩める子羊ちゃんたちをこの場所に招き入れたのよ。十万円も払ってね」
「それで、黒魔術や降霊術を?」
「その時もしてたんじゃない? 形だけね。それで、本当だと信じ込ませて、彼女が書いた本やプロデュースをした宝石等を売りさばいた」
「それって、ただの詐欺じゃない」
神門は鼻で笑った。
「そうよ。でも崇拝してた子羊ちゃんたちは、涙ながらにそれを買い取ったわ。何百、何千万円もする物を……」
「それで、その人たちはどうなったんですか?」
と、青ざめている小春は身を乗り出して聞く。
「まあ、噂によると、夜の店で働いてるか。占い師になってるか。はたまた自殺をしてしまったか。多額の借金を抱えてね」
そこまで言うと、一気に静まり返った。つむぎはその話の続きをしたかったのだが、あまり話すと、自分に目を向けられてしまう。真はまだ二階で一人捜査しているし、彼が戻ってくるまで黙っておこう。
そう思って、両手でグラスに入った麦茶を一口飲んだ時に、ようやく重たく軋むドアが開いて真が顔を出した。
彼は座っている人たちを見た。
「どうだ、部屋の捜査は終わったか?」
能美は薄み笑いを浮かべながら真を見た。
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