第25話 犯行の状況
「一応一通り見ました。皆さん、これから話をしますので、白石さんも中田さんも着席をしてもらえますか?」
立っていた白石、中田はそれに従って、躊躇しながら着席をした。
真は食堂のドアの前の大きなテーブルに、両手を置いて、全員に顔を向けた。
「皆さん、今回この洋館にて葉子先生はお亡くなりになりました。僕は医師ではないので、解剖は出来ません、ただ、葉子先生は状況から、何者かが彼女の背後をめがけて包丁を差した。死因は出血多量だと思います」
「まあ、あれ程血が流れてたら、そう思うわな」
能美は真を見下すように腕を組んでいた。
「神門さんと白石さん。お二人が葉子先生の部屋に訪問した時に鍵は掛かってましたか?」
神門は首を横に振った。
「いえ、掛かっておりませんでした。先生はああ見えて、結構警戒心が高い方なので、室内にいたとしても鍵は閉めるはずなんですが……」
白石は両手を机の上に出して揉んでいた。
「なるほど」真は顎を摩った。「ということは、犯人はあの大通りのドアから侵入し、そして葉子先生を殺害した、ということになる。ただ、犯人は顔見知りの可能性は高いのかなと思います」
「それはどうして?」
と、玉葉。
「葉子先生は背を向けて殺害されている。本当に知らない人物だとしたら、犯人が包丁を隠し持っていたとしても、背を向けないはずです。つまり犯人は葉子先生が心を許せる人間ということになります」
「室内は荒らされてたわよね」
「ええ、確かに。しかし、彼女が身に着けていた宝石や、引き出しに大量の装飾品は取られていなかった。動機は金銭面ではないと考えるのが普通かもしれません」
「まあ、確かに」
「と、すると、動機は何かまだ分からないですが、犯人は顔見知りということになります。そして、凶器は中田さんが普段から持ち歩いている包丁ケースから盗んだ、包丁。また、ここは離島ということ雨と風が吹き荒れている中で、外で過ごすのは難しい。よって我々内部犯ということが分かります」
そう真が周りの人物を見ると、全員は分かっているように、俯いていた。
すると、暫くして神門は立ち上がった。
「彼が言うんだったら、そうとしか言えないわ。誰なの犯人は?」
神門は感情的になりながら、真を見る。
「いえ、これだけだったら誰なのかは分かりません。それに伊知郎さんも……」
「伊知郎さんは客船に戻っているんじゃないんですか?」
小春は真を睨みつけるように言う。
「よく考えてみてください。どういったつながりがあるのか分からないですけど、葉子先生に頭が上がらない船長が、伊知郎さんがベッドで横になってることを知っていて、気が付かなくて帰るでしょうか?」
「でも、あの人はお酒も飲んで嵐の中で船を動かした人なんですよ」
「確かに、破天荒ぶりな性格なんだと思う。あの人もこの離島で一夜を過ごすのが嫌なのかもしれない。あの人が離島のことをどれくらい知っているのかは分からない。それに、お酒を口にするのは毎年のことだって言ってましたよね。玉葉先生」
「え、まあ、あの船長は毎年軽く仮眠をとる為、お酒を飲むんです。それに去年も伊知郎さんは体調を崩して、暫くベッドに横になってからこの洋館に来られたので、今年も来るはずだと思ってました」
「伊知郎さんは去年からこの勉強会に参加したって言ってましたよね? 彼の年齢は二十代後半。ということは、この勉強会を避けていたことになる。まあ、理由は分からないけど、この極度の船酔いも伊知郎さんは怖かったのかもしれない。とにかく、伊知郎さんは去年も同じ状況だったということだったということですね」
「まあ、錠剤を飲んだのは今年だけですけどね」
「あの錠剤は睡眠薬がどれほど入ってたのかは分からないけど、七時間ほど眠り続けることは考えられない。ということは、あくまで僕の想像ですけど、伊知郎さんはもう船から降りらてる可能性はあると思います」
すると、全員は一瞬沈黙になった。すると、神門は真を睨んだ。
「それなら、伊知郎さんはどこにいるっていうの? 降りてるんだったらこの洋館に来たらいいじゃない?」
すると、真は何も言えなかった。また先程飲み干した日本酒が胃液からこみ上げてきそうで、思わずゲップをした。
「もし、伊知郎さんがこの離島にいたとした場合、この吹き荒れる嵐の中で潜伏するには怖くはないですか? 例えばこういうのはどう思いますか。本当は、伊知郎さんは何らかの恨みがあって葉子先生を殺害しようと思い立った。そこで、自分が丁度船酔いをして錠剤を飲んだ。その後に眠りについたけど、実はこの場所に着いた時には目が覚めていた。そこでみんなが確かめに行った時には、寝ていたふりをした。
その後に、みんなが洋館に行ったことを見届けると、船長は眠りについているのを見計らって、離島に降りて、洋館に入らず身を潜んでいた。
そして、船から持ってきたはしごを使い、先生の部屋の窓に上った。中に先生がいるというのはもしかしたら、先生本人から聞いていたのかもしれない。そこで、窓から侵入した彼は閉められた窓をノックして、葉子は中に入らせ、そこで話をした後に殺害をした」
「ちょっと待って、それなら色々とおかしな話が出てくるわね」
と言ったのは、黙っていた響花だった。
「あくまで例えばですよ。その場合だと床に足元が濡れてるはず。そこを響花先生は言いたいんですよね?」
「そうね。再度あなたが捜査した時に床が濡れてなかったらだけど」
「実際に床は濡れてませんでした。ただ、窓を開けてるので、その流れで、バルコニーは水浸しで床にも濡れている部分はありました。しかし、葉子先生付近では濡れた形跡はないということは、伊知郎さんが潜伏した場所が屋外じゃないということです」
「ということは、どういう事なの?」
「この洋館に潜んでいる可能性はあります」
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