第8話 客船のラウンジ1

「へえ、君はジャーナリストをやってるのか?」

 能美は頷きながら感嘆していた。

「はい、まだほとんど解決してないんですけど」

 真は頭を掻く。

「それよりも、君の隣にいた女の子は誰なんだい?」

「あの子は知り合いの友達が探偵事務所をやってるんです。その妹なんですけどね。玉葉先生から占い師の才能があると言われて、それで今日参加したんです」

「その隣の子は?」

「もう一人の子は好きな男性芸能人がいて、その人と結婚するにはどうしたらいいのかそれを玉葉先生に占ってもらったのがきっかけです」

「どっちも女子高生とか?」

「え、あ、はい。そうですけど……」

 能美は顎を摩って、相変わらずニヤニヤしていた。どこか舌なめずりをしているようである。

 能美と真はラウンジに入った。すると、先程いたつむぎ、小春、玉葉、葉子、くるみ、響花の六人はこちらに移動していた。

 テーブルの椅子に座っていたつむぎは真を見て、手を上げた。

「飯野さん、こっちです」

 真はその方向を見ると、小さなテーブルに背もたれ付きのソファに彼女は座っていた。

 真はテーブルの向かい合わせに座った。こぢんまりとしたラウンジだが、奇麗でいろんな設備が整っているというのが一瞬で分かる。

 ただ、参加メンバーが思っている以上に少なくて、真たちも入れたら十人ほどである。

「伊知郎さん大丈夫ですか?」つむぎは真の顔を見た。

「ああ、もう一錠酔い止めを飲むって言ってたから……」

「そうですか。良かった……」

 つむぎが安心しきっている顔を見ると、やはり何か伊知郎に対して想いがあるのではないのかと疑ってしまう。

「それよりも内田さんはどこに行ったの?」

「あそこです」

 つむぎは手のひらで真の後ろに差した。

 真が後ろを振り返ると、早速小春はくるみに鑑定をしてもらっている。

 その横に葉子がソファで息を整いながら、くるみのタロットカードを見ている。先程高血圧を抑える薬を飲んだようで、少し疲れている素振りを見せていた。

「どう? 葉子先生にこの場所でも占いを教えてもらったら……」

 真がその声をした方に向けると、つむぎの隣に玉葉が座って声を掛けていた。

「そうですね。ですが、葉子先生は今高血圧を抑える薬を飲んでたみたいだし、体調が良くなさそうですし……」

「そんなことないわよ。葉子先生はもうかれこれ血圧に関して十年以上も病院にお世話になってるんだから」

「そうなんですか?」つむぎは目をパチクリとさせる。

「そうよ。私が先生に弟子入りした時から何度も気分が悪くなってたから、その都度、薬は手放せないらしいわよ」

「ストレスで高血圧になったんでしょうか?」と、真。

「いや、美味しいもの食べすぎなんでしょ。あの人は一流なものが好きだし、装飾品だって数百万単位の物を見に付けてるわけだし……」

「数百万単位? !」

 つむぎは驚愕した。そんな大金を指輪やブレスレットをはめているのか。こっちは生活さえも困窮してるのに……。そう考えていると、またあかねのように損得勘定で物事を考える悪い癖が出てしまった。

「やっぱり、占いって儲かるものなんですか?」

 真はつむぎが聞けなさそうな言葉を、半分気を使いながら言った。

「儲かるか儲からないかと判断したら、人気のある人は億の豪邸が立てるほどの億万長者になれるわよ。でもそれはほんの一握りの人だけ。今や占いだったら葉子先生がトップクラスだと思うけど、それ以外の人は結構質素な暮らししてるわよ。私も葉子先生の元で育ったし、今でもつながりはあるけど、仕事しないと生活できないから」

「玉葉先生はどうして葉子先生に弟子入りしたんですか?」

「私はあの子のように」と、小春を顎で差した。「占いにあちこち行ったりしてたのよ。趣味を通り越して依存症になっちゃって。それで、色々と借金してしまったのよ。でもね、占いの知識だけはハマってただけあって、物凄く知ってたし、葉子先生にも何十回も占ってもらってたのよ」

「へえ、それで、葉子先生に弟子入りを志願したってわけですか?」

「まあ、簡単にいえばそういう事よね。だけど、葉子先生に弟子入りの志願する方なんてたくさんいたのよ。そこから勝ち取るにはどれだけの占いに対して知識が知ってるか。それと、葉子先生がその人を気に入るかによるわね」

「あたしは気に入ってもらえるでしょうか?」つむぎは落ち着きのない様子を見せた。

「気に入ってもらえると思うわ。まず私が先生に紹介したことと、後はつむぎさんの性格がおしとやかだから、先生もそこは好印象だと言ってたわ。ただ、もし弟子入りが出来なかったとしたら、それは先生が高齢で弟子入りを断ったということだわ」

「先生はもうお弟子さんを取らないつもりなんでしょうか?」

「まあ、年齢が年齢だからね。次が最後なんじゃないかな。もう七十近いわけだし、若い頃は六十で引退するって話をしてたからね」

「じゃあ、あたしが最後ってことですか?」

「さっきの甲板でのやり取りは嫌な素振りじゃなかったから、先生も弟子を付けるはずよ。ほら、くるみちゃんも、あの子は伊知郎君のようにセンスはないけど、お母さんが、占いが好きだったみたいで、それで彼女は占い師になりたいと思ったそうで、ある程度勉強したから良かったのよ」

 くるみはタロットカードを展開した後、小春に牧野龍馬との将来を丁寧に読んでは彼女に伝えていた。小春は机の上に顔をへばりついていて泣きじゃくっていた。

「どうやらくるみちゃんの占いでも、思ってた通りに行かなかったわね、あの子」

 そう言って、クスっと玉葉は笑った。

「実際にああいうお客さんはいらっしゃるんですか?」

「いるわよ、全然。帰ってくれないお客さんもいるし……」

玉葉は手を横に振った。

「帰ってくれないお客さんは嫌だなあ」

 つむぎは独り言のように言葉を漏らした。

「帰ってくれないといっても、お金は出してくれるんだけどね。でも、何度も占っても内容は一緒だし、何度も占っても意味がないじゃない」

「そうですよね。そこで良かったカードが出たら喜ぶのでしょうか?」

「多分ね。半分、ギャンブルのような衝動に駆られるんじゃないかしら」

「先生はそういう時はありました?」

「あるわよ。昔、一回自分でタロットを展開して占いに入ると、何度もやってしまう。アレは中毒に陥るわ」

「そうなんですね……」

 ここでつむぎは占い師も結構辛いものがあるんだなと実感した。別に占い師になるつもりでもないのだが、葉子に弟子入りをした場合、もう引き返せないのではないのかと悲観的に思っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る