第34話 捜査2
一方、真は白石にロープが置いてある場所を聞いた。そこには二階にある葉子の部屋が時計の十二時を指していたら、三時の方向に物置として部屋があった。
「そういえば、この部屋は昨日見てなかったですよね」
真は部屋に入る前に、白石が部屋の鍵を差し込もうとした時に聞いた。
「そうですね。すみません、私がうっかり忘れてまして……」
「もしここに犯人がいたら、白石さんあなたも同罪ですよ?」
真はそう言えば、白石がどんな表情を見せるか試してみた。彼は「すみません」と頭を下げて、鍵を回した。
中に入ると、埃被っていた。何年も開けられていないのだろう。思わず真は咳込んだ。
電気を付けると、薄暗く部屋の中が確認できた。
そこに何本かロープがあった。それにライフジャケットも確認できた。
真はライフジャケットを持つと、白石が言った。
「ここに置いてあるものは、昨日来られた客船と同じものがあります。はしごもここに……」
と、端に置いてあった何年も使われていないはしごを白石は持ち上げた。
「この部屋を開けられたのは何年ぶりですか?」
「そうですね……。五年くらい前でしょうか? 私もどれが物置の鍵か忘れまして……」
と、右手に鍵束を握りしめている白石は少し口角を開けた。
「ちなみに鍵はこの一つだけですか?」
「多分そうです。こんな物置に合鍵なんて使う人いないでしょう」
「葉子先生は持っていたということはないですか?」
すると、白石は天井を見上げた。
「あー、もしかしたらあり得るかもしれません」
「もし先生が持っていたとしたら、何を持って合鍵を持っていたとかは分かりませんか?」
白石は腕組みをして考えていた。
「……分かりません。私もこの場所を、掃除をしてないので……」
「何故、ここは掃除してないんですか?」
「特に言われてなかったので。何か洋館に危険性――例えば地震などで、建物が崩壊したりになったらこの部屋を開けようと先生と話をしていたので……」
真は顎に手を置いてから言った。
「もう一回、先生の部屋に入りたいのですが……」
「いいですよ」
葉子の部屋で、真はタンスや小物入れを見た。そこには彼女の私服や衣装などが入ってアリ、小物はジュエリーが山積みになっていた。
「その辺は、掃除はしているんですが、先生もこの別荘には誰にも強盗なんて来ないだろうと思って、付けなくなったものが保管されてるんです」
「ということは、ますます強盗殺人ではないとは分かる」
と真が呟くと、白石は言った。
「は? 先生は怨恨で殺されたって言ってませんでした?」
「そうなんですけどね。これで確信が出来たなと思いまして。ちなみに、先生は持って来ていたスーツケースには、何が入ってるんですか?」
「そりゃあ、昨日行うはずだった衣装。それに降霊術や黒魔術の本も持ってきたと思います」
「本? それを使って行うということですか?」
「はい、それに全員分があったと思います。ただ、全てが新品ではなく、毎年行われるので本は皆様に配られるのですが、使い古しのもので……」
「かつてはもっと大勢で参加していたと聞きましたが、その時はジュエリーを売っていたんですよね。それはこれらのことですか?」
真は先程の山積みになったジュエリーを見た。
「それもありましたけど。先生はすぐに霊感のアクセサリーに手を出すんです。通販も今は手軽に利用できましたから」
「実際に売れたんですか?」
「はい。ジュエリーは売れました。当時は信者のようなファンが沢山いたので、それは凄かったですよ。一日で三億は売れたとは思いますが……」
「三億!」
「あ、これは聞かなかったことにしてください」
白石は慌てた様子で言った。
「それを買ったお客さんたちは、後で損をしたという話は聞いたことはありますか?」
白石は天井を見あげて言った。
「……いや、どうだったかな?」
何か隠しているなとすぐに真は読み取った。
「隠しても無駄です。先生はもう亡くなってるんです。これから後数日後に警察から同じようなことを聞かれるはずです。白状したらどうですか?」
「……分かりました。まず、私もそのジュエリーは買いました」
「あなたもですか?」
真は目を見開いた。
「はい、昨日話を聞いたとは思いますが、私は占いの才能が無いようで、葉子先生からこれを身に着けると霊感が降りてきて、あなたの努力が実るわよと言われまして……」
「それで、どうだったんですか?」
「まあ、見ての通り、私はやはり実力が無くて占い師を辞めました。そこで先生はどういう訳か私を執事として迎え入りたいと仰ってくれまして、その為の契約品として、またジュエリーを買いました」
「何かと先生はジュエリーを売買するんですね。他の方はどうされたんですか?」
「まあ、葉子先生の占いが当たっていないこともしばしばあったので、そこで止められた方もおられるとは思いますが、詐欺だと私は思ってます」
「その人たちは例えばストライキみたいなことはされましたか?」
「まあ、それなりのことは先生の自宅の方でされていたみたいですね。ただ、葉子先生は色んな人と親交があったので、どういった事をやられたのかは分かりませんが、それ程、ニュースになるほどのものではなかったそうです」
――本当にそうなのだろうか。白石が言っていたように降霊術や黒魔術の知識だけ知っていた先生が、それなりの衣装を着て演じれば、テレビなどでファンになった人たちは信じるはずだ。
それで霊感を高めるジュエリーを購入して、やがて意味がなかったことに気づいた人たちは、ストライキは起こすはずだ。裁判沙汰になっても可笑しくはない。
それを大事にならなかったということは、背後に暴力団関係と繋がりがあった可能性も否定できない。
この葉子という人物、悪魔の降霊術をしたことによって、知れば知るほどお金の為なら何でもする貪欲さが出て来たのではないのか。
可笑しな話だが、そう思われても仕方がないほど狡猾な人物だ。
真は窓を開けて手すりを見た。
「白石さん、あなたはさっき洋館に来られた際は掃除を心がけていると言ってましたよね」
「はい、そうですが」
「この木の手すりのにあるフックのようなもので固定した傷があるんですが、ご存じないですか?」
白石もその部分を目の当たりにした。
「いえ、これは見たことはありません。この前掃除したと言っても、つい三日前でしたし、ということは……」
「ええ、昨日の葉子先生殺害の時にできた傷の可能性が高いです。それで聞きたいんですが、先程の倉庫の中でフックが付いているロープというものはありましたか?」
そう言うと、白石はかしこまったように背中を丸めた。
「すみません、先程にも申し上げたように私はその倉庫に手を触れていないものでしたから、その道具があったのかは分かりません」
真は思わずため息交じりになった。
「……分かりました」
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