第35話 捜査3
梯子を広げ、大木にもたれかかるようにして置き、真は一歩ずつ上っていく。彼は元々高いところは苦手だったのだが、日本酒の力で何とか登れる気持ちがあった。
――あの日本酒があれば、どんな事件でもあかねとだったら解決できるのではないのか。
それほど彼は意気揚々と感じていた。
梯子を一番上まで登ったのだが、大木はそれ以上に随分と高く、そこまで登るまでは木登りが得意ではないと難しい。
嶺がしっかりしている。
すると、真は嶺の一本の枝が今にも取れそうなほど、ポキッと折れたような感じになっており、今にも地面に落下しそうなほど微風で枝がぶら下がるように揺れている。
真は双眼鏡を自分の両目に持って行った。
「やっぱり、折れている。あれほど枝が太いのに。嵐に負けないほどの強い木なのに……」
すると、何となく人の気配がしたので、真はそちらの方を見た。
――アレは、神門先生じゃないか。
彼女は一人原っぱの上で海を見ながら黄昏ているように見えた。
真は急いで梯子を下りて片付けて、片手で持ち、神門の方に歩いていった。
「どうされたんですか?」
真は後ろから声を掛けると、彼女はビクッと身体を震え上がらせて驚いていた。
「何、あなたなの?」
神門は相手が真だと分かった途端、ホッとしたように見えた。
真は神門が涙を流していたのに気付いた。
「何をしていたんですか。こんなところで……」
「いやね。あたしは今回葉子先生のところで色々と学びたかったのに、それが出来なかったなって」
彼女は涙を拭った。
「本当にそれだけですか?」
「それだけよ。何よ私を疑ってるの?」
神門はムキになった。
「伊知郎さんもどこかにいる可能性はあるし、か弱い女性一人で外は歩くもんじゃないです。今日は天気もいいですし、見晴らしはいいですが、ここは館内にいた方が穏便ですよ」
「分かってるわよ、そんなこと。……あたしは、伊知郎がいないような気がしてるの」
「……どうして、そう思いですか?」
真は不思議に彼女を見た。
「何となくよ。女の勘ってやつ。別にあたしは占い師に向いてないし。響花や玉葉先生はさっき食堂でタロットを使って占ってたけどね」
「伊知郎さんがどこにいるかって話ですか?」
「そうよ。こんだけの人数しかいないのに、ずっと隠れているあの男の足取りを占ってるわけよ。あたしは占い師に向いてないのよ。今日で止めちゃおっかな」
そう言い残して神門は去っていった。
「そういえば、神門さん。一つ聞きたいことがあるんですが」
「何?」
彼女は嫌な顔を見せた。
「昨日皆さん、勉強会の時にそれなりの衣装に来られてましたよね。アレはどうしてですか?」
「決まってるじゃない。これから大事な時間が始まるのよ。それなりの衣装着ないといけないってあたしも事前に聞いてたのよ。もちろん、葉子先生はもっと煌びやかな衣装を着てくる予定だったんでしょうけど」
「……分かりました」
「もういい? あんたの探偵ごっこに付き合いたくもないからこっちは」
「ありがとうございます」
そう言って、二人は互いに去っていった。
――ということは、あの人はどうして?
真は顎に手を当てて考えていた。
その時、後ろで真を見る人間がいた。
真は先程の場所から客船があった桟橋の方に向かった。
――やけに遠いな。
真は額から流れてくる汗をぬぐっていた。
何故、遠いと思ったのは、先程の場所からこの場所まで行くのに半分迷子になって右往左往していたのだ。
なので、ようやくたどり着いた時には、二十分ほど掛かっていた。
もし、これが知っている人物だとしたら先程の大木から十分ほどで着くはずだ。
昨日皆が言っていたアリバイを重ねてみると、犯人は葉子を殺害した後、誰にも見つからないように、何故ロープを使わないと行けなかったのか。
そして、館内を全て把握している人物だ。
――犯人はあの人だろう。
葉子先生を殺害し、深夜にくるみさんを襲った人物は、あの人で間違いない。
しかし、証拠が無い。
外に犯人が残したものがあると思ったのだが、どうやら犯人に処分されているようだ。
真は帰り、自室に戻ろうとした時に、つむぎに呼び止められた。
「どこ行ってたんですか?」
「外で探索してたんだ。犯人が葉子先生を殺害した後、その足取りを辿っていたんだ」
「犯人?」つむぎは素っ頓狂な声を上げた。「犯人が分かったんですか?」
「まあ、物騒だから僕の部屋で話そう」
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