第12話 神門の過去 1
「あの方は……?」
真は不意に響花に聞いた。すると、彼女はクスっと笑った。
「何、あの人に興味があるの?」
「い、いや、そんなんじゃあ……」
真はたじろいでつむぎを見た。彼女もそちらの方を見た。
「この場所には似合わない格好ですね」そう言って、つむぎは真を見た。
「ま、まあそうだね」
響花は腕を組んで真を見下すように言った。
「鼻の下でも伸ばしてたんじゃないの。あの人も占い師よ」
「え、そうなんですか?」
「とはいっても、元々はグラビアアイドルをやってた人だけどね」
「へえ、どおりでエロい訳だわ」
と、小春は膝の上に肘をついてその手に顎を乗せて、睨みつけるように窓から海を眺めていた女性を見た。
しかし、その女性も視線に気づき、思わず、四人の方に目を向ける。
真は恥ずかしくなって、目を逸らしてうつむいた。
女性は口角を上げてニヤッと笑って、立ち上がってこちらの方に足を向けた。
「こっちに来るよ」
小春はつむぎの袖を引っ張った。何だか彼女も怖くなったようだ。
「初めまして、あなたが、玉葉先生が惚れこんだ占い師さん?」
そう言ったのは小春にだった。
「いえ、あたしは違います。玉葉先生が太鼓判を押すのは笹井さんです」
相変わらずつむぎの服の袖を引っ張る小春。つむぎも顔を見上げてグラマーな女性を見上げた。
「初めまして笹井と申します」
つむぎは真摯に、グラマーな女性を見た。
「初めまして、神門と言います」
と、彼女は右手を差し出した。つむぎは握手を交わす。
その光景を見た真は、何となくこの神門を昔テレビで観たことがあった。確か、小西まどかという芸名でバラエティー番組に出ていた気がする。
当時、少しセクシャルな深夜番組が好きだった真は、親に見つからないよう、音量を下げて食い入るように見ていたのだ。
そのバラエティー番組で小西が出ていた。何度かテレビに出ていたので、インターネットで検索して調べていたのだ。
しかし、その後、小西は事実上芸能界を引退。彼女の武器だったHカップの大きな胸は思った以上に売れなかったようだ。
その小西が、名前と仕事を変えてまさかここにいるとは。
「この方は?」
神門がつむぎに真のことを聞いていた。そこで、真は我に返って、彼女を見上げた。
「あ、すみません。実はジャーナリストをやってまして……」
真は急いでカバンから名刺を取り出して、震えた手で彼女に渡した。
神門はそれを手に取る。
「へえ、天橋出版社っていうところなの?」
「あ、はい」
真は頭を掻いていたら、前から視線を感じてみると、つむぎから白い目で見られていた。
いや、つむぎだけではない。小春や響花も完全に真は神門に興味を持っているとすぐに感づいていた。
「まあ、どうやら、彼は好きな占い師に出会ったようね。じゃあ、私はこれで」
と、響花は立ち上がった。
「まあ、あなたもこの葉子先生の勉強会に参加してるとは思わなかったわ」
神門は響花に言った。
「それはお互い様よね。あんたもこの業界に足を運ぶとは思わなかったわ」
「ふん。あたしの場合はこれからもっと売れてやるわ。あなたみたいに人を見下すような人間じゃないし……」
「大きなお世話よ」
そう言い残して、響花は去っていった。
そのやり取りを茫然と三人は見ていたのだが、神門がつむぎの隣に席を腰かけると、真に言った。
「ねえ、あなたは占いが好きなの?」
先程とは打って変わって、少し色づいた声だった。
「え、いや、これといって興味が無かったんですけど……」
真はどこを見たらいいのか分からなかった。彼女を見るとどうしても胸の谷間に目線が言ってしまいそうになってしまう。
「あの、真さんはあたしと内田さんの二人だと心配だから、お姉ちゃんに頼まれて今日来てもらったんです」
つむぎは丁寧に答えたつもりだか、後半になると怒りの感情が出ていた。
「へえ、そうなの。もしかして、お二人は恋人同士?」
神門は嬉しそうに指を差しながらつむぎと真を見た。
「い、いや、そうじゃありません」
と、二人は同時に慌てて手を横に振った。
「フフフ、それだったら怒る必要もないんじゃない?」
「べ、別に怒ってなんかないですよ」
つむぎは冷静に対応していた。
「あたしも怒ってそうには見えたけどな。もしかして、こういった大人の女の人は苦手?」
小春はつむぎ聞く。
「そんなことないよ」
つむぎはそう言ったが、こういった色気づく女性に対してはあまり好きな方ではなかった。こんな人たちがいるから、世の男性たちが女性に対して変な目で見るのだ。そんなことを内に秘めていた。
「それだったら、この男の子と話してもいいわよね。ねえ、君はあたしに対して興味があるでしょ?」
「え?」
真は顔を真っ赤にして彼女を見た。
「だって、落ち着かない感じじゃない。可愛いわね」
何だか神門にマウントを取られて、見つめられている。真は恥ずかしいながらも聞いてみた。
「もしかして、神門さんは、昔グラビアアイドルをやられてませんでしたか?」
「あたし?」神門は自分に指を差した。「昔やってたわよ。写真集もDVDも何作品も出したわ。真君は持ってるの?」
「いえ、別に持ってはないです」
神門の視線も気にはなるが、どうしてかつむぎの視線も気になる。彼女も真の話に真剣な目である。
「ふーん、じゃあ、深夜番組のテレビを観てたとか?」
「観てました。あの時の小西まどかさんですよね?」
「へえ、覚えてくれてたんだ。嬉しいわ。あたし自慢じゃないけど今でもファンの方がたくさんいらっしゃって、結構占いに来てくれるんだ」
「神門さんは、占いのお店を経営されてるんですか?」
つむぎは聞く。
「ううん」彼女は首を横に振った。「あたしは東京の中心部に構えてる占い店の占い師をやってるわ。経営だったら何千万円以上するでしょ。お金ないもん」
確かに個人経営だとその高い額になってしまう。しかし、その分客が支払ったお金は全て自分の手元に残るのはあるが。
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