第30話 第二の事件

 つむぎはどうやら食堂にいるようで、真は急いで食堂に入ると、そこには明かりが付いていて、つむぎと執事の白石、そして右足から血を流しているくるみは青白い顔で痛みをこらえている。

 応急処置で、救急箱から包帯をつむぎは巻いていた。

「大丈夫ですか?」

 真はすぐさまくるみに駆け寄った。

「はい、何とか。ううっ」

 くるみは明らかに痛そうだ。

「他の人たちは?」

 真はつむぎに聞いた。

「他の方たちはまだ連絡してません。深夜なんで電話した方がいいかどうか……」

 つむぎはそう真に言った。

 真は顎を摩った。昨日のように意気揚々と発言力もない。それにくるみはナイフを一か所だけ刺されただけだし、血は止まっていないが軽症だ。

「白石さんだけは電話しました。この状況を見てる人がいてくれたらと思いまして。それに救急箱もどこにあるかわからなかったですし……」

「すみません……。私が一人でトイレに行ったばかりに……」

 くるみは申し訳なさそうに真に言った。

「いえ、まさかトイレで襲われるとは思いませんでした。犯人なんですが、どんな方だったかは覚えてますか?」

「私はトイレを終えて、その後手を洗っている時に、急に電灯が暗くなり、後ろに何者かがいると気づいた時に足を刺されました」

「なるほど、その凶器は犯人が持ち去りましたか?」

「いえ、そのまま刺したまま、犯人は逃走しました」

「すみません。これがその凶器です」

 白石はまるで隠し持ってたかのように、凶器を見せた。それは刃渡り五センチのバタフライナイフだった。

「血は先程私がふき取りました」

 すると、真は驚愕した。「血をふき取った。勝手な事したらダメですよ。これが警察に見せたら犯人を特定できるかもしれないのに……。指紋はふき取ってないですよね」

「まあ、多分……」

 白石はいつも白手を装着している。その白手で綿密に柄の部分を拭いたのであれば、指紋はすべて消えてしまう。しかし、そうなると怪しいのは白石である。

 いや、でも犯人は軍手など何かしら指紋を検出されないように準備はしているはずだ。問題はどうしてくるみを狙ったかによる。

「くるみさん。少ししんどいですが、事件の件で、以前から誰かに恨まれてるとかってありませんでしたか?」

 真はしゃがんで言った。

 くるみは目線を頭上に持っていってから話した。

「いえ、特に心当たりはありません。私は一人暮らしですけど、そのアパートの部屋にも狙われたこともなかったですし……」

「うーん」

 真は顎を摩った。

「真さん。犯人は本当に中にくるみさんがいると思って侵入したんでしょうか?」

 と、つむぎ。

「どういう事だい?」

「だって、大広間のトイレの電気が付いていただけで、中にくるみさんがいるかなんて後を付けないと分からないはずです。でも、トイレを流す音や、洗面台の水を流す音が聞こえたなら、誰か女性が中にいるというのは分かるんじゃないでしょうか?」

「ということは、犯人は誰でも良かったということか……」

「そこで、事前にトイレの電気がどこにあるのかも分かってた。そこで、入り口近くの電気を消して、犯人は狙ったという可能性はあります」

「しかし、何のために……」

「分かりません」

 犯人の動機は分からないが、少なくともくるみを殺害しようとした犯人がこの洋館にいる。他の占い師たちは大丈夫なのだろうか。

 真は食堂の掛け時計を見た。時刻は三時前。早起きの人もいるとは思うが、この時間帯だとまだ眠りについている可能性は高い。

 くるみは眠りにつくのは難しいだろう。彼女はどんな思いなのだろうか。師匠を亡くし、兄弟子は行方不明、そして自分も誰かに狙われている。それが兄弟子の可能性がある。

 何だか真は同情して、彼女の気持ちを汲み取ると居たたまれなかった。真は自分も気分が優れていないので、思わず地面のカーペットに横になった。

「飯野様、大丈夫ですか?」

 白石は慌てた様子で真に近づいた。

「大丈夫です。ちょっと疲れてるんで横になろうかなと」

「ちょっと待ってください」

そう言って、白石は食堂から出ようとする。

「ダメです。白石さん。犯人はどこに潜んでいるのか分からないので、今はこの食堂で待機してください。トイレは必ず僕を呼んでください」

 と、真は横になりながら白石を見た。

「はい、分かりました」

 相変わらずかしこまった態度でいる。そういえば、この白石という人間も、葉子の弟子だったな。確か、占いの才能がないから、執事としてなったんだっけ。

 この洋館では執事として役目をたっているが、普段は何をしている人かは分からない。何だか、眠くなってきた。真はつむぎの方を見た。

「つむぎさん、すみません。ちょっと寝るかもしれません」

「大丈夫ですよ。あたしはこのまま寝ないようにするので」

 何だか一人眠るのは申し訳ないと思いつつ、睡魔が襲ってきて、真は目を閉じた。

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