第13話 神門の過去 2

「どうして占い師に?」

「あたしは同棲してた男がいたんだけど、その人が浮気癖でね。心配になって、しょっちゅう占いに行ってその人の気持ちを確かめてたのよ。でも、結局別れたんだけどね」

「占いは当たってたんですか。その人の気持ちは?」

「どうなんだろうね。半々ってとこかな。占いって当たっているように言えることもできるし、結構攻めたことを言ったとしても、“あたし、たまに間違えるんですよね~”と言ったら意外とまかり通るもんなのよ」

「攻めた言葉って、あなたは三年後に結婚が出来ますとか?」

「そうそう。だから、結局行ったところで解決もできないし、そもそも当たってるのかも分からないから。あたしってある程度顔も知られてるし、そこを武器に占いをしたらそれなりに人も集まるんじゃないかなって……」

「どうして今日はこの勉強会に行こうと思ったんですか?」

「まあ、あの女がどこまで色んなことをやらかして儲けたのかっていうのを見てみたいのよ。それを盗んでやろうと思ってね」

「それは……葉子先生のことですか?」

 と、真。

「ええ、そうよ。ボク、あんまり大人の女性たちに突っこまない方がいいわよ。女性なんてあなたが思ってるほど単純なものじゃないからね」

 と、真に向かって顔を近づける神門。

「あ、は、はい」

 真は直立不動になっていた。どうしても彼女が近付いてくると、強張ってしまう。

 真は周りを見渡した。ラウンジにいる人物はこんなところか。まだ紹介されていない占い師は個室にいるのかもしれない。

「今日参加されている占い師さんって、何人ほどいるんですか?」

 つむぎは神門に聞く。

「そうねえ。あたしは良く分からないけど、十人程度じゃない。さっきいた響花、それからあなたを推してる玉葉、葉子の愛弟子の伊知郎君とくるみ。そしてその葉子。あと、女好きの能美……くらいかしらね」

 彼女は人差し指を顎にやって天井を見上げていた。

 ……ということは、たった六人。何て少ないんだ。パンフレットには豪華客船とは書かれていたが、実際にはそれほど豪華でもないし、向こうの島ではバカンスであり、その写真も取られていたが、それとは程遠いものの離島だとは何となく予想はしている。

「随分と少ないですね。やはり金銭的なものでしょうか?」

 つむぎが神門に言うと、神門はフフッと笑った。

「どうかしらね。あたしは葉子先生がもうすぐ潮時だと思ってるわ」

「潮時? 今一番テレビに出てる占い師は葉子先生なんじゃないんですか?」

「もちろんそうよ。テレビに雑誌、伊知郎君がやっているユーチューブでもたまに葉子がゲストで登場するわ。それだけでも再生回数は上がるし、一般人に対しては今波に乗ってるところね」

「一般人?」

「そうよ。でも、あたしたち占い師にとっては、葉子先生がそれほど実力もなく上手いこと話術だけでここまでのし上がっていったんだと推測してるのよ。だからあの人は裏で結構なことをやってると睨んでるし、それかただ単に運が良かったか……」

「でも、勉強会というからにはそれなりに占いに関しては、努力はしてるんですよね?」

「してるわよ。だから離島での修行するわけ。でも、どれだけ腕に霊感が上がるブレスレットを付けたとしても、本人にその才能が無ければ結局豚に真珠なのよ。それに四柱推命とかいろんな統計学の占いを勉強してるわ。きっとあの人のカバンには何十年も使っていた四柱推命の分厚い本があるはずよ」

「えーと、その四柱推命というものは当たるんですか?」

 小春は口を挟むように、目を閉じて手に頭を押さえて、考えていた。

「まあ、基本統計学だからね。これで当たれば、未来予想なんて誰でも自分で占えるわけよ。実際にインターネットでも四柱推命探したら無料で占えるんじゃない?」

「まあ、そうですけど。何だか無料の占いって、所詮ゲーム感覚かなって……」

 小春は苦笑いを見せると、神門はフフッと笑った。

「無料の占いでも性格的には当たるものはあるし、お金がいるものでも適当に言ってるだけの占い師もいるわ。あなたは占いが好きだけど、そんな占い師にお金をせびられないように気を付ける事ね」

 神門は立ち上がろうとした、そこに真は聞きたいことがあったので、彼女を止めた。

「待ってください。あの一つ聞きたかったことがあるんです?」

「何、ボクの話なら何でも聞いてあげるわよ」

 そう顔を近づいてくる神門。確かに四十代の彼女にはあの時よりも皺が増えていたが、元々美人な顔立ちだったので、そこは色あせなかった。真は緊張した面持ちで話した。

「あの響花先生とはかなり親しいですよね?」

「ああ、親しいというか、あの人も昔テレビ関係の仕事をついてたからね。某アイドルのマネージャーとしてね」

「へえ、だから、あんなに几帳面で厳しい顔になるわけだ」

 小春が呟くと、神門はせせら笑った。

「フフ、そうね。良く見抜くじゃない。あの女とは色々とあったからね。あの人結構面倒見がいいのよ。だからその某アイドルに対しては口うるさかったし、それにそのアイドルの子と親しかったあたしに対しても怒鳴ったりしてね。マジで本当にうるさかった」

 神門は過去のことを想い出していたのか、怒りを露わにした。

「その後に神門先生は芸能界を引退して、響花先生は芸能界を退職されて、珍しく二人とも占い師として歩んだんですか?」

「まあ、偶然にね。あいつと再会した時は嘘かと思ったわ。だって、今でもマネージャーをやってても可笑しくないわけじゃない。別に年齢関係ない仕事なんだから」

「まあ、そうですね」

「それが、一人亡くなったからって、罪悪感から退職してさ」

「亡くなった? どなたかが芸能界の人がお亡くなりになったんですか?」

「ああ、さっきの響花が付いてたアイドルよ。あの子は結構繊細な性格だったからね。それに対して売れないことを理由に、当時のプロデューサーやら社長がさ、結構過激なことをやらさせるわけ。あの子もプライドは高かったから、どんどん窮屈になっていったんだろうね。ある日突然失踪して、みんなで手分けして探したら、富士の樹海で首を吊って亡くなってたわ」

「そんなことが……。それで、響花先生はいたたまれなくなって辞めたというわけですか?」

「まあ、簡単にいればそんな感じね。あの人がなぜ占いの道に行ったのかは、あたしは知らないからあの人に聞いて。それと……」

 彼女は胸の谷間から名刺を取り出し、軽くキスをした。

「これはあなたの為の名刺。困った時はいつでもいらしてね。占い以上のサービスもあるかもしれないから」

「あ、はい。分かりました……」

 真は思わず生唾を飲み込んだ。

「じゃあね」

 そう言って、彼女は真だけに手を振り、ラウンジを後にした。

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