第21話 嵐の中で……
玄関の棚に傘が十数本あり、白石は追いついた四人に対しても傘を渡した。
「皆さん、外は嵐ですから危なくなったら直ちに館内に戻ってください」
とは言いつつ、白石も五人の後にドアを開ける。
外は白石が言ったように風も荒れていた。その為、周りの木々が揺れているし、雨も横殴りに降っている。
くるみは最初に出たのだが、傘が風に吹き飛ばされそうなのを両手でつかんでいた。
「くるみさん、傘は危ないです。カッパはないんですか?」
真は白石に聞く。
「ありますが、玄関にはなくて、ちょっと待って頂けますか?」
「いいです」
そう言ったのはくるみだった。彼女は傘を閉じて、黒いTシャツのまま雨に打たれて歩き出した。
「くるみさん。どちらに向かうんですか。遠くまで行ったら危ないですよ」
慌てて真は後に続く。ハッとして、後ろを振り返ると、つむぎもその後に続こうとする。
「つむぎさん。外は危険だ。君はここで待った方がいい」
「でも、くるみさんと伊知郎さんが心配で……」
真は躊躇した後に言った。「分かった。その代わり絶対に僕に離れないで。内田さんも」
「分かったよ」
小春も強く頷いた。危険を察知しているのか。お転婆なところがあかねに似ているが、危険を顧みない彼女に比べれば、素直な感じがして、真はどこか胸を撫でおろした。
能美もやって来た。彼は玄関に置いてある安っぽい傘を差して、上手く風に逆らうように必死に傘を差している。
くるみは少し歩いたところでそこから止まった。そこは見晴らしの良かった場所だった。今は天候が悪くて、良く見えない。
真は隣に立った。見えるのは真たちが下りてきた白い客船だった。
「ここから桟橋が見えるんですね」
真は風で消え失せないように声を張り上げた。
「そうです」
ポニーテールのくるみは今でも留めているヘアピンが取れそうだ。飛ばされてもいいのだろうか。
「でも、これだと、出航出来ないですよね。船長、明日は朝から別の仕事があるって聞いてたんで、大丈夫なのかな……」
真は独り言を呟いていると、その時に、船は何と出航し始めた。
「え、船が!」
くるみは右手で指を差して左手で口元を抑えて驚愕している。
「出航し始めてる。こんな嵐の中で……」
つむぎも真の隣に立って目を疑っている。真は彼女が自分の手を握っていることに気づいた。
「ちょっと、どういう事なの? これだったら伊知郎さんは来ないってことですか?」
隣にいた小春は大きな声でくるみに尋ねた。
「分からない……。どういうことなのか……」
彼女は半ば放心状態でいた。上手く思考が回っていないようだ。
「おいおい、船が出航しちまってるじゃねえか。さては伊知郎君は逃げたんじゃないのか?」
能美の声が聞こえたので、真は彼を見た。彼が差している傘で上手く見えなかったが、口元はニヤッと笑っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます