第11話 客船のラウンジ 3
ナポリタンとカルボナーラそれから真が注文したピラフが机の前に運ばれると、真は即座にスプーンを手に取り、ピラフを口に入れた。
「んー、美味い」
豪快に食べる真を見て、つむぎはせせら笑っていた。
「そうでしょ。ここのシェフは、葉子先生のお墨付きの中田シェフよ。名の知れた料理人で、幾度もテレビに出ているわ」
「そんなすごい方なんですね」
と言いながら、真はピラフを口に入れる手が止まらなかった。
「ちなみに、離島の洋館の方でも、伊藤さんは経営する中華料理を作ってくれるから、楽しみにね」
「へえ、中華料理って、たくさん種類がるし、なんて来てよかった」
涙を流す小春。
「そんな大げさね。でも、味は本当に美味しいわ。一流のシェフに一流の品物。それが無料で食べれるんですものね」
「先生はもちろんこの勉強会に十万円を包んだんですよね?」
つむぎは響花を見た。彼女は細身で身長が高く、チャイナ服を着ている。ある意味コスプレイヤーであり、それが占いと関係があるのだろうか。
「そうよ。あたしは勉強会にお金を包んだわ。あたしもお弟子がいるものでね。それで今回葉子先生の勉強会に足を運んだわけ」
と、彼女はさらさらとした髪を振り分けるように見せつけた。
「ということは、先生は毎年この離島に来られてるわけではないんですね?」
「ええ、そうよ。確かに葉子先生には弟子になった期間はあるけど、ちょっとその時に色んなことに揉めてね。あたしは白黒はっきりつけたいタイプだから、そのまま葉子ファミリーを出て行ったわ」
「揉めていたことは未解決事件と関係あるんですか?」
何気に真が聞いてみると、響花は「はあ?」と、多少怪訝な顔つきを見せた。
「未解決事件って何? あたしは先生のやり方が気に食わなかったのよ。今のくるみと同じようにお手伝いをやらされて、ちっとも占いのことを教えてくれない。カバン持ちやお茶くみ、電話番、店の受付など、それを一年も続けてみなさい。いつ教えてくれるのって感じよ。だから、くるみは最近ようやくタロットを教えてもらったみたいだけど、あの子は良く耐えてるわね」
そう彼女はくるみを見た。真も見る。くるみは能美の話し相手をしているが困った様子だ。そこで葉子が強い言葉で能美を非難している。その時に、くるみはこちらに視線を感じ、笑ながら会釈をした。
「何だか、くるみさんって性格良さそうですね」
と、つむぎ。
「そうね。あなたと性格似てるんじゃないかしら。葉子先生はワガママだからそうやって逆らえない子を狙っては、手伝いをさせてるのよ。本当は教えるつもりなんてないのに……」
「教えるつもりはない?」
真はようやく手に持っていたスプーンを止めた。
「ええ、教えるつもりはないとは少し言い過ぎかもしれないけど、本当に教えたかったのは伊知郎だけで良かったはずよ。何故なら彼は占い一家に生まれた血筋だもの」
「占い一家って、また凄い言葉ね」
小春は感嘆した。
「彼のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは、占いの店が集う場所で占いの店を互いに開いていた。そこで出会って結婚した。その娘さんは、葉子先生の知り合いだったらしいけど、病気持ちで、三十過ぎに早死にしてしまい、そして彼女の息子の伊知郎は小学生の頃から占いのことに興味があって、すぐに出世をした」
「それから葉子先生の弟子に入ったということですか?」
「本当は葉子先生が欲しかったのよ。そのセンスがあれば葉子ファミリーが続くわけだし、伊知郎を敵に回したくはないから」
なるほど……。と、真は水が入ったグラスを持って、一口飲んだ。
「ということは、あたしも結局は占いを教えてくれるまで数年かかるかもしれないってことですか?」
と、つむぎは驚愕した。
「かもしれないし、違うかもしれない。とにかく、葉子先生が一番かわいがっているのは伊知郎で、今はくるみが二番目ってとこかしら」
真は水をお替りしようと、全て飲み干して、周りを見た。すると、やけに胸元が開いたドレスを着た女性が窓の向こうの海を見ながら黄昏ていることに気が付いた。
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